第136話『庭で』
無事に準備も済んだので、席に着いて紅茶を頼もうとしたとき、ノック音がした。あまりに驚いてテーブルへ前のめりにぶつかりそうになる。
それでもどうにか上体を戻して、平静を装う。マリアさんが扉を開けると、そこに立っていたのはクラウスさんだった。
着替えたのか、白い騎士服を身に纏ったクラウスさん。白銀色の髪の毛が後ろに撫でつけられている。整った無表情がわたしを見て、少しずつゆるんでいく。目が優しく細められて口元が上がる。
笑うところまでを観察していたら、クラウスさんが首を傾げた。見すぎていたみたいだ。わたしは恥ずかしくなって「何でもないです」と首を横に振った。
久しぶりのクラウスさんに見惚れてましたなんて絶対に言えない。知られたくない。ごまかすように立ち上がり、考えていたことをぶつけた。
「きょ、今日は天気も良いですから、庭に出ませんか?」
「そうですね」
クラウスさんの前だと自分が子供なんだと思い知らされる。並んで歩いても、慣れないハイヒールにふらふらしている自分にイラっとくる。もっと颯爽に歩けないのかと。
お城の中庭は赤や白のバラに彩られている。いつか食事をしたテーブルも椅子もそのまま残っている。きちんと掃除がされているのか、しばらくは座っていない椅子もざらつくことなく、つるつるしていた。示し会わせたわけでもなく、わたしとクラウスさんは椅子に腰を落ち着かせた。ホッと息を吐いたら、さっそく。
「クラウスさんに聞きたいことがあるんですけど」
「何なりと」
クラウスさんは茶化すように笑う。そんなところも格好いいんだから、まったくたちが悪い。気を取り直して、言葉を選ぶ。
「その、ガストンさんがクラウスさんを捕まえに行ったはずですが、大丈夫なんですか?」
今なら答えてくれると思って、先程の疑問からぶつけてみた。
「ええ、おかげさまで、俺の身は安全です。騎士団の団員たちには知らせていませんでしたが、団長には報告をあげていました。団長は表向き、俺と対立するように装ってくれたのです。それに、ああ見えてもジュリア殿と繋がっていますので、彼女の前では頭が上がらないのですよ」
「そうだったんですか」
もしかして、ジュリアさんとガストンさんってそういう仲なのかと思っていたからあんまり驚かなかった。
「本人たちは認めたがりませんけれど」
「そんな感じですね、あのふたりは」
わたしがふたりを思いながら笑うと、クラウスさんはなぜかこちらを見て目を見開いた。何か変なことを言ったかな。心配になる。
「わたし、変なこと言いました?」
「いえ、特には」
クラウスさんはごまかすように笑いながら目をそらす。何かありそうな気がしたけど、それ以上は聞かないことにした。




