第133話『お姫様』
地下牢から明るい通路へと場所を移したあと、レーコさんやジュリアさんと別れた。レーコさんは「これから忙しくなるな〜」とのんびりとした口調でぼやいていた。ジュリアさんはなぜか「すべてはレーコ様のために」と意気ごんでいた(理由はよくわからない)。
わたしは案内役の騎士に守られて、談話室のソファへとおとなしく収まった。侍女の人にお茶を用意してもらい、一息つく。ひとり何をするでもなく待機していたところに、用意が整ったとマリアさんが呼びに来てくれた。
改めて「王女様」とマリアさんに呼ばれて、そういえばと今さら気づく。
「それ、やめてほしいです。せめて、前みたいにミヤコって呼んでください」
王女様なんて柄じゃない。本当のことを言うと、「ミヤコ様」というのも慣れないものがある。マリアさんにも立場があるだろうから、そこは受け入れるしかないけど。
「かしこまりました、ミヤコ様」
マリアさんによって案内されたのは、神子になる前に過ごしていた部屋だった。ローブに隠しておいた肖像画を棚の上に置いて、部屋全体を見回す。
部屋のなかは相変わらず、いちごミルクみたいな色の壁で、花と葉っぱの模様がちりばめられている。殺風景な場所に幽閉されていたせいか、この部屋がちょっと子供っぽく見えてしまった。
家具の間に描かれた大きな赤い花の絵は神子の証だ。天蓋つきのベッドやテーブルもあったりする。ぴらぴらのレースがあしらわれていて、あの頃はお姫様みたいだと嬉しがっていたっけ。
――お姫様。
お姫様でニーナさんの顔を思い浮かべる。気が強くて、わたしが嫌いで、でもそれには深い理由があった彼女。マリアさんなら何か知っているだろうか?
「ニーナさんはどうなりましたか?」
「ニーナ様は最後までミヤコ様の演技をされていたそうです。騎士たちにバレてしまったときも、持ち前の強気で、男たちもたじたじだったようですよ。ニーナ様の処遇についてはこれから決まっていくのではないでしょうか」
「そうですか」
騎士を罵倒するニーナさんの姿がすぐに浮かび上がった。これからどうなるかもわからないけど、気の強いニーナさんなら、どんなことだってやってしまいそうな気がする。
「ニーナ様もようやく、肩の荷が降りたことでしょう」
わたしもそうだといいなと思う。




