第129話『王の杖』
レーコさんとともにやってきたのは、牢屋に繋がると思われる地下階段の前だった。やっぱり、牢屋というだけあって、囚人を監視するための看守もいる。階段を降りる前にさっそく彼らに出くわした。
「ここより先は、立ち入りを禁止されている」
歓迎されないだろうなとは、何となく勘づいていた。簡単には入れさせてくれないみたいだし、どうしようかと、レーコさんに目を向ける。そうしたら、レーコさんはそっとさりげなく王の杖を掲げた。まるで手を挙げるくらいの気軽な仕草なのに、その握られているものが問題なんだと思う。
「お、王の杖……」
看守の人は口を閉ざすこともできずに、可哀想なくらい震えている。こちらが心配になってしまうけど。
「わたしは前国王の妃のレーコ・ベルホルンです。ここにいるジュリアとサディアスを返してもらいます」
これがとどめとなって、看守の人は「れ、レーコ様」とふらつきながら、道を開けてくれた。騒ぎを聞きつけたのか、現れた他の看守たちも横にはけてくれる。そのうちのひとりにレーコさんが「鍵を開けてね」と言えば、おずおずと前に進み出た。
看守の人に案内されて、地下の階段を降りていく。照らす明かりは、等間隔に設置された燭台だけでは頼りない。サディアスの部屋じゃあるまいし、牢屋らしくこんな暗い場所になくてもいいと思うけど。
そのため、足元をちゃんと見ておかないと、もつれて転けてしまいそうだ。転けたら前を歩くレーコさんに迷惑がかかるから、気をつけなきゃならない。
階段が終わり、明かりが強くなると、格子で塞がれた小部屋がいくつも見えた。このなかにジュリアさんとサディアスがいる。そう思うと歩く足も速くなる。
そして、通路を歩き出して2つ目の部屋の格子に、両手がかかった。格子の間に顔をつき出してきたのは、ジュリアさんだった。
「ジュリア」
レーコさんは呟いたあと、看守の人に目線を向ける。多くを語らずに命令できるのが彼女だ。
看守の人の手によって鍵を回され、格子の扉が開かれた。自由になったジュリアさんは、通路に歩き出た。解かれた金色の長い髪の毛、少しこけた様子の頬に痛々しさを感じる。でも、わたしなんかの心を救うみたいに優しくほほえんでくれた。
「レーコ様、ミヤコ様も、ご無事で何よりです」
ジュリアさんはジュリアさんらしく、自分のことより、まず、わたしたちのことを考えてくれる。
「ジュリア、迷惑かけちゃってごめん」
レーコさんが頭を下げると、「迷惑なんて」とジュリアさんは首を横に振る。彼女はレーコさんのためにならどんなこともする。きっと、迷惑なんてひとつも思っていないはずだ。
「ちゃんと全部、終わったから」
「終わりましたか」
ふたりはにっこりと笑い合う。このふたりには会話なんてなくても、言いたいことがわかるんだろう。わたしひとりが置いてきぼりにされた感じがあるけど、重ねてきた日々が違うし、仕方ないかと思うことにした。




