第123話『罪人の子』
「やはり罪人の子は罪人でしかないか」
「罪人ですって?」
ジルベール様がこぼした言葉に、ルルさんが食ってかかる。真剣な話をしているのに、ジルベール様はわたしたちを見下すように鼻で笑った。サディアスよりも嫌みったらしくて、すっごい不快だ。
「そうだろう? クラウスの父親は罪人だ。あの男はレーコによる前国王の殺害を止められなかったばかりか、その犯人をも取り逃がした。クラウスの実力は確かだが、罪人の子は所詮、罪人の血を引き継いでいる」
――「罪人の子」がクラウスさんだというの? あれだけこの国に仕えてきた人をそんなふうに言うなんて、ジルベール様(もう敬称もつけたくないくらい)の目は何にも見ていないに違いない。それに気づいてほしい。
「クラウスさんは罪人なんかじゃありません!」
「あなたは騙されているんだよ」
「騙されてなんかいません! わたしはずっとこの目で見てきたんですから! クラウスさんはわたしを何度も助けてくれました!」
「だからだよ。王はあなたを捕らえよと命令した。しかし、クラウスはあなたを逃がした。王に忠誠を誓ったものが、王の命令に背く。それは騎士としてあるまじき行いだ。クラウスが罪人であるのは明らかだと思うけどね?」
もう何にも言えなかった。確かに騎士であるクラウスさんが国や王を裏切ったことになると思う。納得はいかないけど、騎士団の副団長でもあるクラウスさんに非があるのは仕方ないのかもしれない。
だけど、勝ち誇ったような顔でいるジルベール様には腹が立つ。このまま引き下がりたくない。
――だって、ジルベラス様(わたしのお父さんらしいけど)を殺したのは、絶対にジルベール様なんだから!
反撃しなきゃと思っていたとき、「あははは」と笑い声が響いた。思考が止まる。動きも。
この声はルルさんだ。今は笑うところではぜったいにないと思う。あまり笑うと短剣がすべり落ちそうでひやひやしたけど、ルルさんは手をぶれさせずに器用に笑った。一通り笑い声を響かせたあと、「ジルベール」とはっきりと名前を呼んだ。
「だとしたら、あなたって、相当なお間抜けさんね。あなたを殺す恐れのある因子を側に近づけておいたんだから。やっぱりハゲの次としてはまったくダメだわ」
マリアさんは「ハゲ……」と目を見開いて驚いているようだけど、わたしにはわかった。「ハゲ」は前国王のことだ。日記にもそう書かれていた。
「あなた、本当は恐かったのね」
ルルさんは唐突に(わたしにはよくわからない)話を切り出した。




