第12話『助けて』
泣いているうちに疲れて眠っちゃったみたい。見慣れない黒い天蓋があって、ため息を吐く。この光景を前にして、やっぱり夢じゃないって自覚する。
重い上体を起こしたら、灯りの少ない部屋のなかはすっかり暗くなっていた。窓の外も闇だった。冷たい窓に手をそえて、闇をのぞきこむと自分の顔が映る。
特徴のない顔。日本ならどこにもいる中学生。こんなわたしが神子なんて笑える。本当ならもっと、特別な力を持っている人が神子になるんじゃないの。わたしには何の力もない。何かの間違いだと思う。
「わたしが神子なんて」
でも、わたしは神子の部屋にいる。ベルホルンという国で神子を勤めることになっている。それだけは間違いのない事実なんだ。どうしたら今の状況を飲みこめるの? 楽になるの?
何かを求めて、後ろを振り返る。誰もいない部屋。わたしだけの部屋だ。部屋が広いだけあって、ひとりでいると静かすぎる。
「あっ」
今、気づいた。スマホがあるじゃない。スカートのポケットから取り出して、電源を入れる。ディスプレイに画が浮かんで、どうにか使えるみたい。
お母さんに電話をかけてみる。仕事だからかけてくるなとよく言われていたけど、声が聞きたくて。いつものようにスマホを耳に当てて、繋がるのを待つ。
だけど、繋がることはなかった。スマホを握りしめて「助けて」と打ったメールも、届かないの。
「もう、やだ」
また泣いてしまう。帰りたいよ。心細いよ。ウザイのを直すから、わたしを元の場所に戻して。
どれだけ祈ってもわたしの置かれた状況は変わらなかった。
眠れないまま、窓の外が明るくなってきた。朝露を垂らした草花や池の上に見える白鳥の姿。神子の部屋の前は庭だった。
涙のせいではれぼったい顔はきっと、普段よりひどいと思う。見せられないな。
でも泣いた分、心はすっきりとした。まだ受け入れるとは程遠いけど、昨日よりかはマシ。
ちょっとだけ心に余裕ができたら、テーブルの上の本が目についた。レーコさんという人が書いた手記。読んでみようかな。わたしと同じように神子になった人はどんなことを思い、この部屋で過ごしたのか。




