第11話『神子の部屋』
クラウスさんに連れられて、わたしは神子の部屋に通された。
部屋の壁紙はいちごミルクみたいな色で、花と葉っぱの模様がちりばめられている。家具の間には大きな赤い花の絵が描かれている。天蓋つきのベッドやテーブルもあったりする。
こんな気持ちじゃなかったから、すごい気分が上がっただろうな。でも、全然、落ちこんだままで、そこから上がれないの。
「ミャーコ様。こちらの3人がミャーコ様のお世話をいたします」
3人の世話係の方を紹介された。白のヘッドドレスとエプロンはフリルがあしらわれていて、可愛い。
たぶん彼女たちはわたしよりか少し歳が上かな。大人っぽいし。これからお世話になるのかと思って、とにかく頭を下げた。
簡単な紹介のあと、クラウスさんとふたりだけになった。部屋のドアが開けっ放しなのは何でだろ?
「ミャーコ様」
もうずっと、自分からしゃべっていない。こどもっぽいとはわかってる。でも、口を閉ざして、そのまま自分の内側にこもってしまいたいと思う。
「突然なことで戸惑いを感じられていると思います。しかし、私たちにはあなたが必要なのです。それだけは知っておいていただきたいのです」
クラウスさんは壁がけの棚にあった本を大事に取り出して、音を立てないでテーブルに置いた。
「この本は、あなたの前に神子となったレーコ様の手記です」
わたしの前に神子になったというレーコさんの日記。クラウスさんは「あなたの助けになるはずです」とだけ言ってドアを閉めた。
やっとひとりになれた。わたしはベッドのふちに腰を下ろした。うつむいたら、水滴がひとしずく膝に落ちた。そうしたら、どんどん落ちていくの。拭っても間に合わなくて、あきらめた。
「うっうう」
お母さん、お父さん。あんなに嫌だった元の場所に戻りたいなんて、思ってしまうんだ。




