第10話『わたしの気持ち』
頭のなかが真っ白に染まっている。染まってはいるけど、ジルベール様の口が何かを言おうと開いているのはわかる。大事な話をしているかもしれないのに、耳の奥まで届かないの。
こんなんじゃ、ニーナさんに怒られてしまう。でもダメなの。何も考えられない。
「ミャーコ様!」
クラウスさんがわたしの左肩に手を置いたらしい。栓をしたように耳が遠かったのに、ようやく音が戻ってきた。
3人の視線が集まっている。ニーナさんでさえ、大嫌いなはずのわたしを見て険しい顔をしていた。
「色々あったから疲れたのかな。部屋で休んだ方がいいかもしれないね」
ジルベール様はあたたかい声でわたしを気づかってくれる。でも、疲れたわけじゃない。考えたくないの。
だって、いきなり元の場所には戻れないって言われたんだ。そんな話を簡単に信じられるわけないじゃない。
「ジルベール様、ミャーコ様のことは私におまかせください」
「うん、クラウス頼んだよ」
「クラウス。あんまり甘やかすのはやめなさいよ」
ニーナさんはやっぱり手厳しかった。
「では、行きましょうか」
背中にそえられた手は触れるか触れないかくらい。クラウスさんはわたしが行かないって駄々をこねたらどうするんだろ? きっと、大人だから苦笑してなだめてくれるだろうな。
言ってもわたしの気持ちなんかわからないだろうし。
それでも、いい人なクラウスさんを困らせるわけにも行かなくて、重い足をどうにか一歩前に出した。




