攻略キャラとの遭遇はgkbr=親友にヘルプミー
親友が無事前世からの思いを遂げたということで、私は心置きなくチャラ男救出へと移行することにした。別にこれは当初からの目的であって、決して順調に愛を育みつつある2人の相手が嫌になったとかそういうことじゃない。会うたびに杏が朔くんとの惚気話を延々語ってきたり、朔くんは朔くんで杏の好きなものを聞いてきたりで、うんざりしてきたなんてことは全然これっぽちもないのだ。
…いや、うん。嬉しいのは分かるけど、2人とも少し落ち着こうか。正直、ばかっぷる全開で近くにいる私がとても迷惑です。
そんな諸々の事情は一先ずおいておくとして、先日行った情報交換会でチャラ男について2人で覚えていることを伝えあった結果、以下のことが分かった。
チャラ男ことアカバネくん(名前はどっちも思い出せなかった)は5歳の誕生日当日に実の父親に引き取られた愛人の子で、父親は仕事でろくに家に帰って来ず、本妻も暫くは彼をいないものとして扱っていた。アカバネくんはそんな新しい家が嫌で実の母親の元に帰りたかったけど、大金と引き換えに子どもを渡した彼女が迎えに来ることは当然なく、アカバネくんは孤独な幼少期を過ごした。
しかもそれだけで終わらず、その後もっと最悪な展開になる。義理の母親である本妻は所謂ペドフィリアというやつで、それはもう可愛い男の子が大好きだったのだ。高校生のアカバネくんはチャラ男だったけど幼少期の彼はまさしく美少年で、当然本妻は彼にも目をつけた。味方なんて誰もいない場所で、アカバネくんを助けてくれる人間はおらず、彼はそのまま本妻が飽きるまでその標的にされ続けた。
今思い出しても、本当に胸糞が悪くなる設定だ。何で、アカバネくんだけこんな設定付けがされているの
か全くもって分からない。これが欝展開盛りだくさんなゲームだったらまだ話は別だけど、攻略対象の中で壮絶なのはアカバネくんの過去のみ。言ってみれば、一人だけジャンルが違うのだ。
だから、私は、手遅れになる前にアカバネくんを助けたかった。同じ世界の、頑張ればすぐ届く距離にいるならば、彼が傷つく前に何とかしたかった。傲慢だといわれようが、それが、自分が『きみこい』の世界にいると知って最初に願ったことだった。
私の家から南に歩いて20分弱かかるところに、小さな公園がある。それは、この前杏と待ち合わせた公園よりずっと小さく、ベンチが1つぽつんとあるだけの公園だ。今の私の足だと遠いところにあるし遊具もないから、今まで「桃西薫」がここに来たことは一度もない。車で移動中に窓から覗いたことがある位だろうか。その度にあまり人がいるのを見たことがなかったけど、今回もその例に漏れず、小さな公園は、しんと静まり返っている。
その場所に、彼はいた。
他は誰もいない公園のベンチに、俯いて座っている小さな男の子。
顔は全然見えないけど、私はそれがアカバネくんだとはっきり分かった。だって、これと全く同じ光景をスチルとして見たことがあるから。あの時、彼は家に居場所がなくて辛くて、逃げるように公園に行っていたと語っていた。その後でもっと酷い地獄を見たけどな、と自嘲する彼の姿が不意に脳裏に浮かぶ。
だとすれば、間に合ったのだろうか?だけど、杏たちの例もある。この世界はもう、私たちの知っているものじゃないんだ。楽観視はできない。
私は、ごくりと唾を飲んで、ゆっくりとアカバネくんに近寄った。彼は私に少しも気づくことなく、ただずっと下を向いている。腿の上に置かれたその小さな手は、ふるふると震えていた。そんなアカバネくんを目にして、今更ながらに彼を助けられるだろうかと不安が胸を襲う。
けれど慟哭する高校生の彼を思い出して、何とか自分を奮い立たせ、怖がらせないよう努めて穏やかに話しかけた。
「どうしたの?どこかいたいの?」
それを聞いてか、アカバネくんが緩慢と顔を上げる。彼は近くに私がいたことに驚いたように目を瞠り、次いで、何故だかぽかんと口を開けて私を見つめた。
「だいじょうぶ?」
「ぼく、ぼく…にっ?」
「え、うん。あの、どこかいたいのかなって」
固まるアカバネくんに再度声をかければ、彼はどこか焦ったようにそう問いかけ。私が頷きを返すと、一瞬硬直した後、その大きな瞳からぽろぽろと涙を零し始めた。
って、えっ、えぇぇぇ!?なにこれ。こんな展開想定してなかったんだけど!?私?私が何か余計なこと言っちゃった?うわあああああ。助けたいと思った子を更に傷つけるとか、ひどすぎる。ごめんなさいいぃぃぃ。
自身も泣きそうになりながら、私はとにかくアカバネくんに謝りまくった。




