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どうやら攻略キャラは2人だけの世界とやらを希望している様子



 次の日の昼過ぎ、私は一日ぶりに夏園くんに会いに、いつもの公園へ行った。夏園くんは、毎日昼から夕方まで公園で時間を潰しているので、彼に会うこと自体は簡単だ。公園に行きさえすればいい。だからこそ、私たちは今まで会うことに対して特に約束したことがなかった。する必要がなかったといった方が正しいだろうか。

 毎日、夏園くんがいる公園に行って、絵本を読んだり砂場で遊んだりして、時間がくれば「またね」と手を振って帰る。その繰り返しだった。だから、一昨日もいつも通りに、次の約束をせずに別れた。だけど、それは大きな過ちだったらしい。



 まるで初めて会った時のように、彼は、項垂れていた。ここ最近は、きらきらした目を入り口に向けて私を待ってくれていたのに、何かあったのだろうか。まさか、間に合わずに、本妻に何かされてしまったのだろうか。考えただけで、すぅと背筋が寒くなった。


「具合でも悪いの?夏園くん」


 聞くのが怖くて、でも聞かなければ彼に何が起きたのかが分からないと、私は挫けそうな心を奮い起こして、未だ下を向いたままの夏園くんに話しかけた。どくんどくんと、心臓が大きく鳴っているのが自分でも分かる。私の声に彼が反応しなかったり、反応したとしても顔が沈んでいたらどうすればいいだろう。私は、半ば祈る気持ちで、彼の動きを待った。

 が、それは杞憂に終わった。夏園くんの反応は、殊の外早かったのだ。彼は、私が話しかけた直後、勢いよく頭を上げて私を視認すると、うるうると目元を滲ませながら私の元へと走ってきた。


「かおるちゃんっ、かおるちゃん!」


 そのままの勢いで、私に抱きついてくる夏園くん。加減することなく行われたそれに私は抵抗できず、その場に尻餅をついた。その際、右手を地面にぶつけてしまい、お尻だけじゃなく手にも痛みが走る。それでも、小さく悲鳴を上げるだけに止まったのは、夏園くんの様子がおかしかったからだ。


「夏園くん?」

「かおるちゃん、ゆめじゃない、ほんものだ。来てくれた、今日は来てくれたんだ」

「何言って…って、夏園くん、膝擦りむいてる。早く消毒しなきゃ」


 痛みで無意識に自分の手元を見ていた私は、夏園くんの呟きに視線を上げ、そこで彼の膝頭が赤くなっていることに気付いた。急いで近くにある蛇口のところに行こうとしたけれど、彼は私に抱きついたまま離れる様子がなかった。

 もう一度、促す意味を込めて名前を呼ぶ。だけどそれでも、彼は私の上から退かずに、ただ顔を上げるだけだった。その瞳が、責めるように、じっと私に向けられる。


「そんなのどうだっていいよ。それより、何で昨日は来なかったの、かおるちゃん。ぼく、ずっと、ずっと待ってたのに。…かおるちゃんまで、ぼくをおいていくの?」

「ち、違うよ! 昨日はごめん。ちょっと、別の子と用事があったの。来られないって言っておけば良かったね。ごめんね、夏園くん」

「別の、子」

「うん。面白い子だよ。きっと、夏園くんとも仲良くなれると思うんだ。それでね、ぁ、いたっ」


 いつの間にか、背中から肩に移動していた彼の手に強く掴まれ、言葉が途中で途切れる。だけど、私はその痛みよりも、夏園くん自身に気を取られた。先程までは確かに私を見ていた筈の目は、どこか虚ろで、表情も無くなった彼は知らない人みたいで怖くて、ぞくりと寒気がした。


「いらない、別の子なんていらない。ぼくにはかおるちゃんだけいればいい。他には何もいらない。…かおるちゃんだって、そうだと思ってたのにっ。別の子って何?ぼく以外の子となかよくなんてしないでよ。ぼくだけとなかよくしてよ!」

「え、ちょ、落ち着いて、夏園くん」

「いやだよ。おねがいだから、ぼくをおいていかないで。もう、一人にしないで」


 呟いている内に感情が高ぶったのか、夏園くんの目は細められ、声は徐々に大きくなっていた。だけど、彼が見せた感情は怒りだけではなかった。その直後には、縋るように私を見つめてきたのだ。そして、つぅと、彼の瞳から一筋涙が零れる。


「そばにいてくれるって言ったよね。やくそくをやぶるなんて、ぜったいにゆるさない。かおるちゃんは、ずっとぼくと、ぼくだけといっしょにいるんだ」


 夏園くんの言葉に、ここまで執着されてるとは思ってなかった私は、愕然すると同時に安堵した。傷が浅いだろう今でさえこの執着っぷりだ。更に傷が深まり、味方がいない状態を何年も続けることになった高校生の彼は、一体どれだけ救い主に対して入れ込むのか。鑑みるに恐ろしい。

 それからすれば、現時点で彼の執着心について知ることができたのは、矯正の余地がある分、良かったといえる。ボッチになれ紛いの発言はされたけども。

 とりあえず、ボッチになりたくないし、何より夏園くん自身にも、5歳のうちから私だけでいいなんて考えを持つのはやめてほしかったので、全力を挙げて説得することにした私は、彼の顔を両手で包んで目線を合わせた。




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