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第4話:幽霊と緩い坂

 非常口に座り込み、涙を流すことしか出来なかった。

 見上げた空は、虚しい灰色をしていた。

 風が強く、今にも雨が降り出しそうだ。

 カラスの鳴き声が響いた。確実に僕を馬鹿にしている声。

 あれ?いつの間に耳は聞こえるように?

 見上げていた視線を戻すと、何かが無いことに気付いた。

 君?

 そういえば君はどうしたのだろう?

 立ち上がり、非常口に耳を当てる。何も聞こえない。

恐る恐る非常口のドアを開けた。

 子供達は居なくなっていた。

 廊下には車椅子と松葉杖だけがポツリと置かれていた。

 君はどこに行ってしまったのだろう?


 今日もいつものように屋上に向かった。

 一階の受付、薬を受け取る待ち合い室、喫煙室、やはり人が溢れており、逃げるように階段に急ぐ。

 エレベーターの前を通ると故障中と書かれた貼り紙が消えていた。

 緑色のドアは開くことはなく、降りる人もいない。乗る人もいない。

 僕は無視して先に進んだ。二階、(省略)、六階、七階。

 階段を上る。

 いつも以上に急いで、休むことなく進み続けた。

 暗い真っ直ぐな廊下。

 ドアが一つだけ…、開く。

 眩しい光りが差し込んだ。

 やはりそこに君は居た。

「おはよう」

 流れる茶色い髪。

 中途半端な笑顔。優しい、泣きだしそうな笑顔。

 昨日夜に降り出した雨が、そこらに小さな水溜まりを作っていた。

 今は止み、昇りきっていない太陽が新鮮だった。

「聞きたいことがある」

「何?」

「君は、人間じゃない。」

 呆気に取られた顔でこっちを見ている。

「君は人間じゃない」

 優しい顔に戻り、続けてと呟いた。

「昨日手を繋いだときからおかしいとは思ってたんだ」

 君は空を眺めている。

「手を繋いだとき体温を感じなかった。それに骨折で入院。僕の気分が悪くなり非常口を出て、すぐに中を覗いたのに君は消えていた。しかも、車椅子と松葉杖を残して…、おかしいよね?」

 君はまだまだ空を見上げている。

「何で消えたのかは解らないけど、君はもしかしたら幽霊じゃないの?」

 笑った気がした。

 微かにふっと笑みを浮かべたように見えた。

「そうだよ。俺はもう死んでいるんだ」

 君は振り向き言葉を続けた。

「お前が来る少し前に、車椅子に乗ったままエレベーターに飛び込む事件があっただろ?あれは俺だったんだよ。俺はあれで死んだんだ」

 ウソツキ。

「さようなら」

 君はそう言うと、幽霊らしく全てが薄くなり、 そのまま消えていった。

 君の目には涙が浮かんでいた。

 本当に進学校出身?馬鹿だなあ。

 屋上に取り残された僕は、特に急ぐわけでもなく屋上のドアを開けた。

 廊下を進み、階段を下りる、六階に着くと非常口までの廊下をまた歩き出す。

 午前中はやはり人が少ない。人は居るけれど、溢れるほどは居ない。

 小学生達も今は学校だろうし、お見舞いに来る人はお昼から夕方が一番多いようだ。

 何事もなく非常口まで到着した。

 そこからまたドアを開き、緩い坂を下って行く。

 誰かが片付けてくれたのだろうか?

 雨で流れたのだろうか?

 嘔吐の痕はキレイさっぱり何も残っていなかった。

 汚い坂をゆっくり下る。

 坂を下りながら、君を思った。

 君は人間だよ。

君は死んでもいない。

今会った

「君」は曖昧だけど、これから会う

「君」は消えたり出来ないはず。

 同じだよ。

君と僕は、きっと…。

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