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第2話:君と過ごし

 一つ年上のきみは、高校一年で、進学校の言わば頭が良い人の部類に入る人間だ。

 失礼だがそんな風には見えなかった。

 優しそうだし、面白いし、どちらかというとスポーツの方が得意に見える。

 ぼけーっと空を見上げながら考えていると、君が口を開いた。

「なぁ?毎回思ってたけど、お前学校は?」

 いきなり痛いところ付かれてしまった。

「さすが進学校!!目の付け所が違うね」

「ボケ、真面目に答えろ」

 そうだ。僕は学校に行っていない。

 学校に行ったら苦しくなるから、息が出来なくなってきっと死んでしまうから。

 君は僕のことを良く知らない。僕も君のことを知らない。

 当然だ。

 まだ出会って一週間も経っていない。

 だから君は僕の不思議な病気を知らない。

 人が多いところでは息が出来ない。

 肉体的にも精神的にも弱いから起こる病気。

 両親はそんなことを言っていた。

 自分でも原因がわからない。

 小学生のときは何も無かった。

 それは単に人が少なかったからなのかも知れない。田舎で平和で普通で平凡で、何もかもがふわふわと過ぎていった。

 小学を卒業と同時に都会に引っ越した。

 都会と言っても村が町になるような、町が市になるようなもので、人口が急激に増えるだけのものだった。

 珍しいものは何もない。

 全ての大きさが倍になっただけ、学校も駅も病院も大きくなっただけだった。

 僕は中学の入学式初日から気分が悪かった。

 校門をくぐり抜け、玄関に入る。

 そこら辺で記憶が曖昧になる。

 確か同じ新入生に声をかけられた気がする。

 顔色がそろほどに悪かったのだろうか?大丈夫?と何度も心配そうに聞かれた気がする。

 多分ふらふらになりながらも僕は初日から保健室に流れこんだような…。

 あまりにも殺伐とした記憶に嫌気がした。

 そんなこと説明しても仕方ない気がした。

 君と居ると、全てがどうでもよくなる。良い意味で楽になる。何も考えずに何も口にすることもなく、ただ時間が過ぎていく。

 それだけで幸せだった。

「学校はサボりがちなだけだよ。心配しないで」

「そっか」

 君は遠くを見ていた。

 あまりにも淋しそうな目をしていたので、今にもフェンスを飛び越え、その先にある暗い世界に落ちて行ってしまいそうで怖かった。

 風が強くなり、僕等は屋上を出た。

 松葉杖をだるそうに扱いながら進む君を見ながら、ゆっくり歩いた。

 階段を前にすると、

「邪魔だから持ってて」と松葉杖を僕に託し、片足でトントンと降りていく。

 その姿が心配でならなかった。

 おぼつかない足取り、屋上に繋がる六階から七階の階段は手摺りがない。

 屋上に行くことは歓迎されることではないらしい。

 君の足元に目を配りながら同じ速度でゆっくり降りる。

 途中の踊り場で少し休む。

「けっこう、しんどい」

 笑いながらも、顔が赤くなっている。

 片足で歩くのは、それほどに辛いことなのだろう。

 壁にもたれ掛かる君は、ふーっとため息を吐いた。

「行くかー」

 それから体を起こし、ゆっくりではあるが降りていった。

途中つまづき、転びそうになったので手を貸してあげた。

「悪いな」と恥ずかしそうに呟く君の隣で、僕は君の存在に違和感を感じていた。

 冷たいとかじゃない。

 温度が無い。ロウソクのような、曖昧な感じだった。

 階段を降り、六階に着くと

「ちょっと待ってて」と、僕の手を離れ病室が並ぶ方に歩いて行った。

 階段に座り、君を待ちながら先程の違和感を考えた。

 何だったのだろう?

 手には体温が無く、僕の温度が移るわけでもなく、君の温度が移るわけでもない。

 そこに君はいない。


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