第1話:嫌いなプリン
僕は人が大勢いるところは嫌いだ。
どこに行ってもなるべく人の居ないところを捜す。
息が詰まるというか、息が出来ないというか、とにかく苦しくて苦しくて堪らなくなる。
友達が事故で入院したと聞いたので、お見舞いに行ったことがある。
病院の中に入った瞬間に帰りたくなった。
でも、お見舞いは?嫌いなプリンまで持ってきたのに、自分に言い聞かせて奥に進んだ。
一階の受付や、薬を受け取る待ち合い室、喫煙室、いろいろなところで人が溢れ出す。
どこの廊下を歩いても多くの人と擦れ違い、だんだん気分が悪くなる。
三階の一番奥にある六人部屋が友達の居る部屋だと聞いていた。
しかし、残念なことに三階はあまりにも広く、あまりにも人が多いので近付くことが出来なかった。
休みの日に来たのが失敗だった。
そう思いながら来た道を引き返そうとすると、下の階からガヤガヤと人が上がって来るのがわかった。
逃げるように四階、五階、六階、と上がって行く。
「エレベーターが故障するなんて有り得ない」
「小児病棟のは動いてるのに、最悪」
など、声が聞こえてきた。
話からするとエレベーターが故障し、上に行く用事の人が階段に群がっているようだ。
大人の声から、赤ちゃんの泣き声まで様々だ。
子供の声が際立った。
何人いるのだろう?すごい勢いで上がって来るのがわかる。
「四階」
「五階」
「六階、到着ー」
と、子供達の笑い声が響いた。
後から大人の声で、静かにと一言。
僕はそれを七階で聞いていた。
人にまみれるのが怖くて、急いで七階に上がった。七階は屋上だった。
エレベーターもなく、階段でしか来れないらしい。
廊下も狭く、部屋が一つもない。窓もなく暗い。
けれども外に出るドアが光り輝いていた。
一直線の廊下をそれに向かって歩いた。
ドキドキしてる。何でだろう?階段を急いで上がったからかな?
少し錆び付いたドアを開けると、風が僕に向かって吹き付けた。
決して優しくない風に打たれながらもドアを開いた。
今日も慣れた足取りで屋上に向かう。
エレベーターは三日経った今でも機能していない。
聞いた話だと二階で止まっているエレベーターに、上から人が落ちたらしい。
確か五階のエレベーターのドアを無理矢理こじ開け、そこから車椅子に乗った男の人が飛び込んだと言う話らしい。
想像しただけで寒気がする。
その人が落ちてどうなったか何て想像したくもない。
エレベーターが復旧しても誰も乗らないだろう。
他にもエレベーターはあるし、階段もある。
故障中と書かれた貼り紙を見てそう思った。
一階の受付や、薬を受け取る待ち合い室、喫煙室、今日も渋々通って来た。
階段を上がる前になると、気分の悪さがピークに達する。
いつも少し休憩してからゆっくり上がって行く。一段、また一段、ゆっくりゆっくり上がって行くと、気分が澄んでゆくのがわかる。
そうしてまた上がって行ける。
二階、(省略)、六階、七階。
「怠い」
暗い廊下を真っ直ぐ歩いて、一つしかないドアを開ける。
君がいた。
今日は風がなく、青空がゆうゆうと続いていた。
毎回思うけど、色素の薄い髪の色。茶色や栗色で表現出来るけれど、何て言うか茶封筒のちょっと濃い色。
ドアの近くに腰を下ろすと、君は気付いて軽く手を上げた。
まだ足は治っていないみたいだ。松葉杖が転がっている。
「俺いつになったら退院出来るのかな?」
片足でケンケンと地面蹴ってギブスの足を浮かせながら歩くと、僕の隣に座った。