そんな性格のようで
カオルは目覚めた。
見慣れた自室、昨日のライオンのことをのぞけば、いつも通りの変わらない日常。
「……うーん」
結局七菜を捕まえることはできなかった。
あいつはなんで現れるたびに私に厄介ごとをもってくるのか
「殺意がわくわ」
「わー。怖いこと言うねー」
カオルは横を見た。
いい笑顔のアリーがいつの間にか一緒の布団に入っている。
「あ、そうだ。殴らなきゃ」
手を痛めないように布団で手を守りながらカオルは笑顔で拳を握りしめた。
「ぎゃああああああ!?」
骨の響くような音とこの世のものとは思えない悲鳴に、わらわらと他の使用人が何事と集まってきてくれた。
「……えーと?」
そして、部屋の中の光景を見て口をあんぐりと開けた。誰も何も言わない中同じ仕事場のサミーラが皆を代表して不思議そうにそれに指をさしつつ訊ねる。
「どちら様?」
「不法侵入者です」
「あああああっっ骨はッやめ! 骨が折れるぅ!」
顔面殴った後、腕をつかんで間接技をかけ笑顔で答えるカオル。他の使用人たちは苦笑いを浮かべ部屋を去った。もはや突込みすらないらしい。
「ぎゃあああああ」
……しばらく仕返しをした後、カオルは着替えて部屋を出た。
「ん?」
ふと目につく。先に部屋を追い出していたアリーが腕を抑えながら涙をぬぐう、まったく懲りてないのかカオルと目が合うと嬉しそうに手を振ったあと、不満げに口を尖らせる。
「酷い、感動の再会を改めてしようとしたのに」
「せんでいい。で、目つきの悪い皮肉な従者は?」
「置いてきた」
アリーの身分がいまいち分からないが、そんなあっさりでいいのだろうか
カオルは呆れながらもアリーに近寄って林檎を手渡した。
「おーありがと」
「本当何しに来た。私のことなんてさっさと忘れてしまえばいいのに」
「そんなことできない」
アリーは真面目な顔をしてカオルを見つめた。
「俺はカオルちゃんを絶対エジプトに連れて帰るって決めたからね」
にかっと笑うアリーにカオルはため息を漏らした。
「はぁ……今それどころじゃないんだけど」
ライオンのこともあるし、と続ける前に、ふと腰にあたったぬくもりに気が付いた。
「あ、おはようございます。ホマーちゃん」
「おはようカオル」
カオルの後ろに隠れアリーを見たまま厳しい顔であいさつするホマー。
どうやらアリーを警戒しているらしい。まともな感性だ。
「可愛いね」
アリーが手を伸ばすと、ホマーはいやっと叩き落とした。
(見事な手刀)
「痛ぇっ!」
その言葉通り痛そうに手をさするアリー。それに追い打ちをかけ怒鳴る様にホマーは叫んだ。
「カオルはエジプトなんか行かないんだから!」
先ほどの会話を聞いていたらしい。
涙目でアリーの悪口を言いだすホマー。アリーはそれを聞いて子どもだしなぁと笑っていたが「カオルより弱いくせに!」と叫ばれ落ち込んでいた。
そこ落ち込むところなのだろうか。
「まぁまぁ、ホマーちゃん」
カオルはホマーの手を握り歩き出した。
「そんな怒り出すと、可愛い顔が台無しですよ? あとお腹すいたんで行きましょ」
「あれ? 俺スルー?」
「まだ居たの?」
泣きまねをするアリーを慣れた手つきで殴る。
「アリー……悪いけど、私はエジプトにあなたとはいけない」
「それは何度も聞いたよ」
「最後まで聞いて」
頬を引っ張り黙らせると、カオルは彼と同じようにじっと目を見つめた。
「私は彼と生きると決めたの……あなたと一緒にはならない」
それを聞いた途端、ホマーの顔がキラキラと輝き、口を大きく開け笑顔を見せた。
「カオル! ついにお兄ちゃんと結ばれたのね!!」
「本当は朝皆揃ってる時に報告しようと思ったんですけど……」
腕を引っ張られた。
「それって、前言ってた男のこと? 俺よりのいい男なの? 君より強いの?」
「好きだから好き」
彼の質問に答えず、はっきり気持ちを示す。
諦めの悪い男だと知っているからこそ、きっちり決着をつけるしかない。
「俺言ったよねカオルちゃん」
「ん?」
顔を掴まれた。
唇に触れる温かいもの、キスされたのだと認識するのに時間がかかった。
「カオルちゃんの意思なんて関係ない。君を俺のモノにしたいって」
ホマーが悲鳴を上げた。
「なんてことするの! この変態」
カオルはアリーの腹を蹴り飛ばそうとしたが、よけられた。
「そっちがその気なら、俺も本気出すよ?」
「ホマーちゃん」
「な、なに?」
「下がってて」
カオルは拳を構え、相手を見据えた。
「こいつはここで痛い目見せる必要があるので」
「女が本気で男に勝てると思ってた?」
余裕な顔を崩さないままアリーがカオルを挑発する。カオルの目がいつにもなく厳しいものになった。
どうしようとわたわたしているホマーが誰か呼ぼうと走り出すと、いいタイミングでぶつかる。
「いつになったらお前ら来るんだよ。腹減った」
「お兄ちゃん! ちょうどよかった」
ロスタムが慌てるホマーを抱き上げ、にらみ合う二人を見て変な顔をした。
「カオル、どうした?」
「へえ、君がカオルちゃんの恋人?」
「あ?」
基本短気なロスタムは挑発的な口調や、品定めをするアリーの目に苛立ちを隠さず睨みつけた。
「なんだよ、お前」
「カオルちゃんって平凡な人が好みなんだね」
「無視かよ」
カオルはその言葉には応えず、足を振り上げた。
「っ」
笑顔で避けられた。
続いて拳を構え、相手を捉えようとするがことごとく避けられた。
「俺、好きな娘は殴らない主義なんだ」
アリーはそういってカオルの拳を受け止め、自分の胸に引き寄せた。
「むかつく……」
カオルは肘打ちをしたが、やはり当たらなかった。
ロスタムがホマーをおろし、アリーの前に立つ。
「だから、なんだっつんだよお前」
「見て分からない? 親しい仲だよ、ほら」
挑発するように再びロスタムの前でキスをされるカオル。
(あー……もう朝飯食べてないのにキスばっか口にはいっても嬉しくないわー)
カオルはアリーを睨んだ。
「アリー様がお強いのはよぉっく分かった。だから離してもらえる?」
「やだよ」
「子どもか」
「カオルを離しなさいよ!!」
ホマーがアリーに突撃、その手には何故か水壺。
「喰らえ!」
ばっしゃーん。
「「あっ」」
「……」
水を被ったのはカオルだけだった。
「そういうやつよねアリー」
ちゃっかり自分だけ逃げているっていう。
「てへ、ごめん」
「カオルごめんね……」
「お前も避けろよ」
カオルはホマーが持っていた水つぼを手に取り、アリーにかぶせた。きょとんとしているアリーの肩を笑顔でつかんでがら空きのお腹を蹴り飛ばした。
「ぐはっ!? 容赦ない!?」
お腹抑えて悶絶しながら何か異議を唱えていたが面倒なので無視して歩き出した。
「めんどうなんでもうさっさと行きましょう、ほら、ロスタムも犬みたいに唸らない」
「あいつ縄で縛らなくていいのか?」
「置いとくのもあれでしょ」
「そうだな」
放置アリー。
口から垂れた涎を拭きながらアリーはカオルの背を見送る。
「……」
口には小さな笑み。
「生きてた」
今はそれだけで、嬉しい。
しかし、さてどうするか
「あいつ」
ロスタムといったか? カオルの好きな人 年下に見える。顔もふつうだし、頭もよくなさそうに見える
(あんなののどこがいいんだろう。俺のほうが断然いい男だとおもうけどな)
力ずくで連れて行くという行為は失敗したし、今更頑固なカオルをこの手に落とすなんて、自分が王様になるのと同じぐらい難しいだろう。
「ぐわあああ、どうすっかなぁ」
ロスタムはにやける顔を抑えた。
「しかしまあ、あれだなぁー……略奪ってたぁのしー」
いつも拝読ありがとうございます(*´∇`*)
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