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現代→古代  作者: 一理
comeback love
83/142

覚悟があるようで

 アトラシュがサイードの首を絞めながらいい笑顔でおかえりと迎えてくれた。

 なぜ絞める。

「……おっさん、何してんだよ」

「お前こそ何やってんだ」

「あ?」

 相手がだれでも偉そうな態度を貫くロスタムにある意味感服だわ。アトラシュが抱き上げられているミラのほうへ目を向けた。

「お前ら意外とお似合いだな。がっははは!」

「か、からかわないでください」

 頬をさらにリンゴの様に真っ赤に染めたミラが急いでロスタムから離れたが、足が痛かったのか椅子に倒れるように座った。

「なんだ、捻ったのか」

「すみません……」

「水持って来い」

「おいおっさん、なんでオレの方見るんだよ」

 ロスタムとにらみ合うアトラシュ。

 解放されたサイードがカオルの横に立った。

「カオルさん帰っちゃったのかと思ったよ」

「すみません、勢いで行動してしまうもので」

 カオルはサイードに頭を下げた後、振り返った。

「……なにしてんすか」

 ロスタムがアトラシュにアームロックかけられているように見えるのは気のせいだろうか。

 しばらくしてミラは自分で足の手当てをして戻ってきた。

 そして娘に怒られたこの家の主はおとなしく椅子に座って飲み物を飲んでいる。

「よし、お前らしばらくは泊まっていくよな? 客室好きに使っていいぞ」

「え?」

 部屋に沈黙が降りた。

 その沈黙を打ち破ったのは沈黙を降ろした張本人だった。

「こんなすぐに返したら俺の家がつまらんと思われるじゃねえか!」

「お父さん、サイードさんたちだって暇じゃないのよ?」

「暇じゃなきゃこんなとこわざわざ来るかよ! たかがロスタムの顔見に来たんだ! 暇だろ」

「おい爺!! 俺の顔は暇つぶしじゃねーよ」

「うるせー!!」

 自由なアトラシュさんに強くとどまるよう言われ、サイードと話し合った結果しばらくは此処で泊まることとなった。顔を見るだけだったのに

「よっしゃ決定な! おいカオルつったか」

「はい?」

 首根っこを掴まれた。

「ちょっと来い!! お前と二人っきりで話してぇ!!」

 何このノリ、ジシスさんを思い出すんだけど。

 カオルは身構えながらも引きずられて中庭へと連れて行かれた。


「なんでしょう」

「おう、お前が色染めした刺繍の布をロスタムに持たせた奴だろう」

「!」

 戦争に行くという彼らに渡した奴のことだろう。カオルは頷いた。

「お前らできてんのか?」

「直球で聞きますね! ……あの布でしたら、ロスタムさん以外にもサイードさん、アクバルさんにもお渡ししています」

「そうか」

 ひげを撫でながら何か思案するような顔をしているアトラシュ。にやりと笑った。

「お前、ロスタム好きだろ」

 カオルは冷えた目をアトラシュに向けた。好きだけど、それを彼に言う必要はないと感じたからだ。

 というかさっきから彼は何を聞きたいのだろうか。

「失礼ですが、これは個人的なことなので」

「俺も個人的に気になって仕方ねえんだ。なんせ、ミラがあいつをいたく気に入ってるみたいだからな」

「!」

 そんな気はしていた。というかあんな素直な感情みせられたら誰だって分かるはずだ。ロスタムはどうだかわからないけど。

「だから、お前は恋敵になるってわけだ」

「恋敵……ですか」

 カオルはふむと考える仕草をした後、まっすぐアトラシュを見た。

「だったら、私をつぶしますか?」

「がっはっはっは!!」

 アトラシュは腹を抱えて嗤った。

「冗談言いやがれ! 俺がそんな面倒事に首突っ込むかよ。これはミラとてめーらの問題だ。だが、ミラがどうしてもというなら俺も協力するけどな。なんといっても可愛い一人娘だ」

「なるほど、私が貴方の娘と闘う気があるか聞きに来たというところですか?」

「そうだ」

 秋風が木々を揺らし、雲を呼んだ。太陽を隠しできた影に二人は光を失う。

 カオルはまっすぐに、アトラシュを見つめた。


「闘う気は―――ありません」


 アトラシュの目が細くなった。

「なんだ、諦めるってのか? 好都合だが、なんだアクバルが気に入ってる娘という割にはつまらねえな」

「諦める?」

 カオルは眉をひそめた。

「そんなこと一言も言ってませんよ」

「ああん?」

 雲が過ぎ去り、太陽が顔をのぞかせる。日の光を目に映えらせ強く輝かせた。

「恋愛は闘うものではありません。選ぶものです。そして選ぶのは私でもミラさんでもありません。ワタシタチが彼を恋うているというのなら、選ぶのは」

 アトラシュの口が歪んだ。

「ロスタムだ」

「がはっはっはははは!!!」

 腹を抱えて嗤うアトラシュ。カオルは何も言わず真顔で彼を見つめる。

「さすがアクバルが選んだ女だ!!」

 話はもう終わっただろう、カオルは頭を下げて歩き出した。

 その背に投げかけるわけでもなく、つぶやくわけでもなく、アトラシュは言った。


「だがな、お前のその言葉は『奪われることも、奪うこともしたことがない人間』の台詞だぞ」

 カオルは立ち止まった。

「稚拙だと笑いますか」

「もう笑った」

 そういえば、とカオルは思う前に「だが」と彼は続けた。

「悪くねえな。そういう考えも」

「……」

「だが、ロスタムがお前を選ばなかったらどうする?」

「今と変わりません」

「じゃあお前を選んだら?」

「そしたら、私も彼を選びます」

 カオルは目をそっと閉じた。何もかもを捨て、彼を

「お前は……なるほどな」

 一人納得したようなアトラシュに、何をと聞く前にミラがやってきた。

「お食事の用意ができましたわ」

「ありがとうございます」

「腹減った、飯だ飯! 行くぞ」

 歩き出したカオルの背を見ながらアトラシュは心の中で笑った。

 奪う覚悟も、奪われる覚悟も無い女の戯言は、ずいぶんと面白い。なにかを得る覚悟もそこそこにしかないくせに


「いっちょまえに失う覚悟はあるってかよ」


 風変わりな女に、何かを感じた。だか、それがなんなのか彼は知らない 

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