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現代→古代  作者: 一理
ギリシアのようで
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やってみたようで

 あれから保護者という名のエラステスが彼を迎えに来て、カオルに礼を言った。

「イリアスは、まだ精神が未熟な面が目立ってな。武術はまだ早いと思って教えていなかったんだ」

「そうですか」

「女で武術を学んでいるのか。珍しいな」

「えぇまあ」

 こっちでは習ってないけど、カオルは適当に相槌を打った。

「捕まった詐欺師たちがアテナにやられたと震えていたが、今こうしてみると、とてもそうは見えんな」

 アマゾネス扱いはこっちではなかったが、巷ではアテナの化身だとか言われるようになった。確かアテナって戦の女神だよね? アマゾネスよりはマシかなって思ったけど、結局これって遠回しに「お前マトモじゃねーよ」って言われているのだろうか。

(女で武術っておかしいのかしら。結構ありだと思うんだけどなあ)

「なにわともあれ世話になった」

 彼はサヴァスに肩を抱かれ、椅子に座って落ち込んでいる。

 グレゴリウスはそんな彼を見て、ため息を漏らした。

「未熟者めが。甘やかしたのがいけなかったか」

「いいんじゃないでしょうか」

「何?」

 カオルはイリアスを見る。おそらく彼は13かそのぐらいだろう。それで堂々というのは難しいだろうし、子どもなら甘えてもいいと思う。まぁ、古代ならもっとしっかりしないといけないのかもしれないが

「それも愛でしょう」

 なんつって。

 カオルは頭を下げた。


「……」

 去って行ったカオルの背を見送りながらグレゴリウスは考えていた。

 不思議な雰囲気を纏った女。

「……チッ」

 あまりイリアスに近づけさせたくはない。しかしイリアスはあの女が今お気に入りらしい。あの女自体は危険ではない、が、あの女から不要な思想がイリアスに影響しないかが心配だ。

「イリアス。帰るぞ」

 腕をつかみ立ち上がらせると、イリアスは悲しそうにグレゴリウスを見つめた。

「ごめんなさい。僕」

「構わん。だが、次は許さん。これに懲りたなら武術のほうも精魂込めるんだな」

「はい!」

 

 彼らが帰ったのを確認して、カオルは部屋に戻った。ガイウスは猫を膝に抱いてうたた寝していた。

 カオルは起こさないように廊下を渡り、部屋に戻る。


「……」


 ガイウスは猫が膝から降りたことを確認して起き上がった。肩掛けがかかっていることに気が付き、カオルが戻ったことが分かる。

「ごほっごほ……」

 最近暑い日が続いているせいか、体がだるい。医者に診てもらったが分からないと首を傾げられてしまった。キィが心配するといけないので伝えてはいないが

「キィ? 帰ったのかい?」

 部屋をノックしようとしたが、扉が開いているのが目に見え、こっそりと覗く。

 ひらり

 スカートが柔らかく揺れ、そこから見える足首には足飾りがあり、小さく音をたてる。

 淡いうすピンク色の服が彼女の美しい漆黒の髪を艶やかによく見せ、首にかかるきらびやかな宝石が光に輝きより一層彼女の魅力をひきだす。

 にゃあ

 足元に猫がすり寄って一鳴き、その声に気が付いたカオルが振り返った。

「あ」

 目が合う。

 ―――美しい……。

 いつも化粧っ気のないカオルが、化粧をしている。控えめの赤い唇に青いアイライン。

「やっ!!」

 カオルの顔が真っ赤に染まった。

「違うんです! 違うんです!! ちょっとした出来心っていうか」

「キィ」

 ガイウスは慌てる彼女に近づいてそっと抱きしめた。

「綺麗だ。誰よりも、一番」

「ガイウス様!! はははは、恥ずかしいです!」

「ごめんね、しばらくこうさせて」

 ただ優しく抱きしめるガイウス。何故かカオルはロスタムを思い出した。彼とは違う優しい抱擁。

(なんでこんなときにロスタム思い出したんだろう)

 自分に不思議に思いながらもガイウスの抱擁に目を閉じる。

 落ち着く、不思議な気持ち。

「キィ、愛してる」

「え?」

「私の妻になってくれないか」

 いきなりの告白。カオルは困惑した。

「私は奴隷ですよ? 奴隷なんか妻にしたら世間体的にダメだと思うんですけど」

 ただでさえ変人扱いされているというのに

「いいんだ。キィ、君が嫌なら無理にとは言わない」

 カオルは何も言えず、目を逸らした。彼のことは嫌いじゃないけど、むしろ好意的ではあるけれど、この感情が愛というかと問われれば、少し違う気がする。

「私」

 ロスタムの顔が目に浮かぶ。

(意識を飛ばしてる場合じゃなかったな)

 カオルははっきり断ろうと口を開こうとした。

「!」

 頬に柔らかい感触。

 キス、された。

「ガイウス様……」

 わりと、嫌じゃなかったけど。切なくなった。

「食事にしようか。おなかすいたね」

 そういってにっこり笑い、彼は先に部屋を出た。

 きっと彼は察したのだろう。私の気持ちに、優しい人だ。優しくて臆病な変わり者。人を傷つけたくないからなにもできないのだろう。

 分かってしまった。

(奴隷を買えないのは奴隷を守る自信がないから、一人でいるのは大黒柱として自信がないから……私の返事を聞かず去ったのは……)

 カオルは苦笑いして歩き出した。

 彼らしいといえば彼らしい。


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