すっかり慣れたようで
「……遺憾の意」
昨日から一夜明け、私は思いだし怒りに腸が煮えたぎっていた。しかし、腹は立つが相手が身分高いのなら私はどうしようもない。私と対等な立場の人間でも擁護している人間が違い、与えられた権力も差がありすぎる。
カオルは泥のしみた服を洗濯しながらぼんやり考えた。
「そういえば」
あのこを見たら久しぶりに日本にいた時の夢を見た。
「懐かい夢だったな~」
あのこはこっちへきてどのぐらい経ったのだろう。女神になるんだと口語していたが、彼女は現代でよい生活をおくれていなかったのだろう。でなければ女神になるやら国をどうにかするだとか言うなんて、だいぶ頭がどうかしているとしか思えない。
生まれ育った場所と違うところへ突如来てしまったら、とてもではないけれど冷静でいられるわけがないというのに。私だって目が覚めたとき、混乱して大暴れしてしまったぐらいだ。
「……あ~」
それにしても困った。
「また病気が……」
「病気?」
後ろを振り返ると近所のお姉さんらが洗濯物を持っていた。
「カオルさん、またどこか具合悪いの?」
「いや、悪くないですよ。ただなんというか……うーん、なんといえばいいかな」
手をぽんっとうつ。
「ないものねだりってやつですよ」
「病気じゃないならいいけど、カオルさん頑張りすぎるとこあるから、気をつけなさいよ?」
「そうよねぇ、たまには休暇もらってのんびりしたら?」
「いや、ははは。けっこうのんびりやってますよ」
商人の家なだけあってモノにはあまり困らない。……ただし、古代での生活においては、という話であるが。
この時代に来て、私がカルチャーショックを受けたことは多々あるが、キツイと思ったものは二つ。
まず前回も言ったが、この世界はメモやなにか相手に文章を伝えるときは粘土板という泥をネリ固めたものを掘って使う。なぜ粘土板を使うか、答えは単純。紙の物価がとても高いから。
もうお分かりかな? 紙が高いという意味を
「トイレットペーパー大安売りとか、変な夢見たなぁ昨日」
最初のほうそんな夢ばっか見てたな……トイレでトイレットペーパーがキれておしりふけない夢を何度も見た。結構えぐかったなぁ~
あ、でもまだ私が耐えられたのはボットンじゃなくて、水洗トイレだったということ。これ意外だったわ~てっきり穴掘って放置かと思っていたもの。ここら辺は川で文明が発達しているだけあって、川の水で流せられるため、掘り式ではなく、川の水を使った水洗式トイレ。メソポタミアの二つの川の文明に万歳&敬礼!
本当によかった。
それからもう一つ苦しんだのは、日本人なら発症しやすいだろう。
「お米たべたい」
白米、玄米、古米。なんでもいいからお米、真白の太ったお米食べたい。古代米なるものもあるがほとんどない。
日本人は小さいころからお米を食べているので、それが習慣となり、外海へ出た時お米を食べられないと物足りない気持ちになるらしい。
まぁ、最近の子はお米云々よりも、家族ととるまともな食事自体減ってきているような気がする。
やれ塾だ、やれバイトだ、やれ部活だ、って家で家族と一緒にまったりする時間はだんだん減ってきている。私もそうだった。コミュニケーションが減ったこともそれが要因の一つだろう。教育や経済方針によって、家族のあり方も、食事の方法も変わった。
ここにいると、本当に思う。家族って、大事だなって。
そして、米は偉大だったな。とくに白くてもっちもちしたお米って最高だったなぁ。
アッシリアは稲よりも小麦のほうが手に入るし、主食なので必要不可欠。麦は嫌いじゃないけどねぇ、ちょっと違うんだよね~
どうでもいいけど、この時代にもビールあって吃驚。ちょっとライ麦臭がするけど、悪くなかった。
……あれ?
「なんでライ麦の話になったんだっけ? まぁいいっか」
水を吸って重くなった服をきつく絞り、皺を伸ばすように力いっぱい広げる。あ、びりっていった。
耐久性ない服って嫌になるわ。まぁ後で直すとして御夕飯どうしようっかな
「今日はマメがいっぱいあったから、豆スープと……あ、そういえばザクロもらったっけ? 食後に置こう。他の女性と話してナン作り置きしておこうかな」
ああ、私って、庶民。