ギリシアに着いたようで
ギリシアに着いた。
現代のギリシアは真っ白の建物が印象深かったけど、あれ? カラフルですね。
「ガイウス様、荷物ここでいいですか?」
「うん。ありがとう」
ガイウスさんは基本ほかの人間とは違うらしいので、奴隷をほとんど買っていないらしい。ゆえに引っ越しをほとんど二人だけでこなした。
(この国授業で習ったような気をしたんだけど、どうだっけ? ポリスがどうのこうの)
習ったことは覚えてるんだけど、生きる人生において役に立たないしと頭の片隅に追いやってさらに消してしまった。
「てへ」
ポリスとは都市国家または城壁などの意味を持ち、丘の上に城をつくり、その周りに神殿や、住居、体育館、会議場などを配置した。またギリシア内では多数のポリスが存在したが、それぞれが宗教的にあるわけでもなく、ただ個々として存在している。
「あっつーい」
ちなみにギリシアは地中海性気候でなおかつ土地がやせていて大河川も少ないため、果実や野菜栽培が盛んに行われている。特にオリーブやブドウの栽培は多くの地域で行われているらしく、カオル達のいる町でもその農園を見ることができた。
「はぁ、夏の終わりとはいえ、やっぱり暑いね」
「どうぞ、少し休みましょう。飲み物でもとってきます」
建物の影に椅子を用意し、カオルは飲み物を取りに戻って行った。
「あら」
キッチンに見知らぬ猫が入り込んでいた。
動物は基本好きなカオルは特に追い払うこともせず、一撫でしてして飲み物を用意する。
(来る時も思ったけど、結構猫多いな)
猫にじゃれられながらもガイウスのところへ飲み物を持って戻ると、ガイウスは香を焚いていた。
「夏は蚊がいるから嫌だね。刺されちゃったよ」
「ガイウス様の血おいしいのでしょうね」
私見事に吸われていない。
椅子に座って飲み物を優雅に飲むガイウスに、扇でそよそよと風を送る。おいしいジュースだねと言う彼にとれたてらしい葡萄でつくりましたと返すと、らしいの部分で笑っていた。
たわいもないのどかな一日。
耳を澄ませば名も知らぬ鳥が鳴き、風が頬を撫でていく。
「……ん?」
規則正しい足音がこちらに向かってくるのが聞こえる。
「あら」
「おや」
猫が塀を乗り越えて建物の中に入り込み、ガイウスの座っていた椅子の下に身をひそめた。まるまるとしてまるでだるまの様な体系の割には猫らしく素早く、どんな顔をしているかまでは認識することはできなかった。
しかしどこの時代にもいるもんだ。へヴィ級のおでぶ猫ちゃん。
「何かな?」
「けっこうなおデブちゃんでしたね」
「そういえば猫が多いね」
談話していると視界の隅で違和感が目についた。
「……ん?」
ふわっ
まるで香りだちそうなほど綺麗な髪の毛をした子が門から小さく顔を見せた。
「おおう」
カオルは思わず声を上げた。
美しい髪からのぞく長いまつげが遠くからでもわかり、小さな口がふっくらと蕾のように薄紅に染まっている。つぶらな瞳がこちらを見ると恥ずかしそうに眼を閉じた。
まるで作り物の様に美しいその子をカオルは純粋にきれいだなあと思う。
「す、すみません。僕……」
ぼく?
カオルは思わず口を開けた。
「はい?」
「僕、猫を追ってきていたのですが、ここに人が住んでいるとは知らず……申し訳ありません」
頭を下げた少女とも見れる少年の声は美しく、天使かと思ってしまう。
(ここまで容姿が完璧だと、苦労しそうだなぁ。知らんけど)
「どうぞ」
ガイウス様はにっこり笑い、足元に逃げたデブ猫を抱き上げ少年に渡した。
少年は重そうに抱き上げると、満足そうに笑顔を見せて頭を下げて走って行った。その様子を見送りながらカオルは瞬きを二回する。
「私の人生で、今まで見てきた中で一番美しい人間でした」
「キィ、私もだよ」
天使に連れられた猫が、遠くで甲高い鳴き声をあげているのが聞こえた。
本日は晴天なり
「……片づけ再開しましょうか」
「そうだね」
カオルはふと、思い出したようにガイウスに問うた。
「ガイウス様って、レントゥティス様と同い年なんですか?」
「そうだね」
「おいくつなんですか?」
「29だよ」
「え」
「え?」
(29……? 三十路前、だと……)
正直もっと老けてるのかと思ってた。え、じゃあレントゥティスも三十路前?
カオルは少し悩んだ。
余裕な大人な態度だった上、卓越した会話をしていたり、博識だったりしたから、もっと年上かと思っていたのだ。そこから導き出される答えは
(はっ……! まさか、私がおばさんと呼ばれる謂れはこれかっ!!)
そうだ、思い出せば社会人になってから一切きゃぴきゃぴしてない。化粧もほぼナチュラルで済まし、合コンに誘われても、めんどくさいと断ってジム通って躰鍛えてたし、仕事は押し付けられるから土曜日も残業三昧で、目がつりあがって怖いと言われたっけ。
(古代に来てからおしゃれに目覚めるわけでもなく、ただ流されるまま生きてきたけど……やだ、私)
カオルは自分の頬に手を当てた。
「枯れてる……」
「え?」
「ガイウス様!」
カオルはガイウスの手を握った。
「私、いくつにみえます?!」
「同い年だと思ってたけど」
「!!!」
カオルは倒れた。
「え、何? ごめん……?」
「25です、まだ」
もうすぐ26だけど……カオルは立ち上がった。
「私、もう少し自分磨きます」
「うん、頑張って……?」
奴隷になって結構時間に余裕あるし、これを機に女を磨こう、そう心に決めたカオルであった。
恋愛とか、女子力とか、そんなに興味ないから……
知識がない。
ぶりっこなカオルさんて、どう?




