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現代→古代  作者: 一理
ローマのようで
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ローマを去るようで

主人公元気ないので、そういうの読みたくない人飛ばしても問題ありません

 邸に戻った。

「あぁ、どうするか」

 レントゥティスは頭を抱えていた。

「まだ誰がやったかは分からないはずだ」

「はあ」

「だが、誰が目撃しているかもわからんしな」

「はぁ」

「お前な!」

 頭を叩かれた。

「だってほかに言いようないんですもん!!」

 叩かれたってバカなんだから思いつきゃしないし仕方ないじゃないかと心の中で反論していたら

「だったら黙ってろ!」

 と至極まっとうなコメントを返された。カオルは黙って口を手で押さえる。やっちゃったもんは仕方ない。

 運命とか信じてないけど、ここで死ぬ運命なら受け入れるしかない。と、諦めていたら

「あのお、旦那様」

 グァテナさんがおずおずと声をかけた。

「なんだ!」

「お客様がお尋ねになりました。ガイウス様です」

「こんなときに、なんだってんだ」

 ずかずか足音を立てながら怒りで興奮しながら彼は邸の外に出た。

 逃げるときは冷静だったのにな~と見送っていると、服の裾をくいくい引っ張られ、そちらを見るとグァテナさんだった。なにやら変な顔をしている。

「なにやらかしたんだい? アタシらまでなんか巻き込まれそうな勢いだけれど」

「お家断絶かも」

「本当なにやらかしたんだい!」

 頭をぐいぐい押さえつけられる。

「痛いって! やめてくださいよ!!」

「全く……、いいかい? 奴隷はね主が居なきゃ飢え死にしちゃうんだよ。市民権がないからそこらへんのゴミといっしょなの」

「行くとこないならどこでもいけばいいじゃない」

「そりゃ行けるならね! いけないから奴隷なんじゃないか」

「なんかゴメンナサイ」

「逃げるんならコレ持って逃げなさいよ」

 こっそりと何か渡された。それは一握りのコショウの実だった。

(お前もちょろまかしてたんかーい)

「これで牛一頭分の価値があるからね」

 牛の相場分からないけど、コショウって現代では300円ぐらいかな。

 こっそりしまうと大声で名前を呼ばれた。

「キィ! 来い!! 今すぐ来い」

「?」

 カオルは駆け足で声のするほうへ行くと、険しい顔のレントゥティスとこれまた複雑そうな顔をしたガイウスだった。

 カオルは二人の顔を交互に見ると、彼は話し出した。

「いいか、ガイウスはこれからギリシアに移住するらしいから、お前もそれについて行け」

「え?」

 急展開過ぎて理解について行けない。

「君は私の奴隷だったということにして、ここを離れるんだ。ほとぼりが冷めるまでローマに帰らないつもりだから」

「いいんですかガイウス様」

「もともと私はギリシアに行く予定だったから、いいんだけれど」

 レントゥティスのほうを見る。

「お前がやったということが分かったら、ガイウスの奴隷だったと擦り付けるから大丈夫だ」

「大丈夫の問題が違う」

 でも願ったりだ。

 カオルは頭を下げた。

「御願いします」

「あぁ、じゃあ行こうか」

「え? 今から?」

「当たり前だ。さっさと行け」

 ガイウスの背を追いかけ歩き出すのと同時に、どこからともなく現れたキィに顔を抱きつかれた。

 だから、何故顔。

 剥がそうとしたが、鳴き声を上げるだけで中々離れない。

「キィ!」

 レントゥティスが怒鳴ると、キィはゆっくりと離れた。

「ここまで動物に好かれる奴は珍しいな」

「……ありがとうね、キィ」

 頭をなでると、噛みつかれた。

「このやろう」

 そのまま、ぺろっと手をなめると、だーっと走って去って行った。

 彼なりの別れの挨拶だったのだろうか。

「さようなら」

 痛む手を抑えながらカオルはキィの去って行った方向を眺めた。

「キィ。初めて会ったとき思ったことがあるんだ」

「なんですか」

「お前はほかの人間とは違う何かがある。その『何か』は俺にも分からんが、きっと人はそんなお前に惹きつけられるだろう」

「……何言ってんのかさっぱり」

「殴るぞ」

 目を逸らしながら小さい声で謝る。


 ガイウスに連れられ、この屋敷から去っていくキィの背中を見送る。

「旦那様。キィさん行っちゃったんですか」

「ベネデットか」

 頭にキィを乗せている。

「あぁ、行かせた。俺には御しきれない奴隷だった」

 息を吸って、吐く。躰が軽くなった気がした。

 彼女は不思議な思考回路をしていた。きっとその奇行ともとれる行動は彼女を助けることもあろうが、今回のように危うくすることだろう。

「あれは早死にするな」

 この時代ではきっと通用しない。

「僕もそう思います。でもなんとなくですけど」

「なんだ?」

「あの人はあれでいいんだと思う」

「はははっはははは」

 ベネデットの頭を軽く叩いて歩き出した。

 確かにそうだ。俺はあいつの反抗的な目を気に入って買ったんだった。そうだ、あいつはあれでいい。

「せいぜい長生きしろよ」

 

 カオルは馬車でごとごと揺られながら考え事をしていた。

 これで私はローマを去ることになるが、これからの先のことが一切読めない。

 いつものポジティブな思考は眠りについてしまったようで、頭の中がぼやーっと霧に包まれたかのようにはっきりしない。

(なにが正しいとか、いいこととか、分からなくなってきたなあ)

 七菜に対して、歴史を変えるとはバカかみたいに啖呵きっといて、自分だって好き勝手愚かなマネをしてしまった。

 順応しよう。そう決めたのは自分だった。

(やっぱり古代で生きるのは難しいのかな……)

「キィ」

 カオルは顔をあげた。優しい表情をしたガイウスがカオルの頭をなでた。

「悩んでいるようだね」

「……」

「いいことも悪いこともいつかは自分に返ってくる」

「はい」

「だからといって、それを考えて行動しなくていいんだ」

 頭を撫でていた手が、そっとカオルの手に触れた。

「ありのままで生きなさい」

 カオルはぽろりと一粒、涙を流した。


 ありのままで生きなさい。

 

 そうか、私が彼に対して特別な感情を抱いていた理由を思い出した。

 私の大好きだったおじいちゃんに雰囲気がとてもよく似ていたからだ……。とても優しくて真面目で、間違ったことが大っ嫌いな正義感の強い人で、カオルの味方だった。

「そっか、ありのままか」

 遠慮しなくていいんだ。生きることに対して……

「……」

 でも、七菜は自嘲すればいいと思う。

 なにわともあれ、さようならローマ

「私、ちゃんといきます」

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