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現代→古代  作者: 一理
ローマのようで
62/142

圧勝なようで

 あまりのことで気が動転しているのか、ダリダと呼ばれた女性は動かない。カオルはのんびりとこけた女性の背後に立ち、怪我をしていないか覗き込もうとすると背後に影ができたことに気が付き、振り返った。

「っぶな~」

 小さな棒のようなものが見えたのでほぼ直感で横に転がるとそれは風を切って地面を強くたたいた。

 誰だこいつ、カオルは相手を見据えながら立ち上がった。

 ベネデット君は逃げてはいないが気の後ろに姿を隠していた。せめて声かけようよ

「知られたからには容赦しねえ」

「っていうか、どちら様? ここの屋敷の奴隷じゃなさそうだけど」

 棒はタクトのようなもので、それを振り上げカオルを襲った。

「!」

 カオルは落ち着いて動作を見切り。片腕を武器を持つ相手の腕の下に潜り込ませ動けなくさせ、あいた腕で男の顔、首のあたりを掴み地面に転がして倒した。

 突然のことで呆けている男の腕から棒を奪い、遠くに投げ飛ばす。

「はぁはぁ」

 これだけの動作で疲れた。古代って結構力技なとこあるよね……あ、私だけか

「おばさん大丈夫!?」

「誰がおばさんだ!」

 痛めた足を抑えながらダリダは立ち上がり、よろよろと駆け足で逃げ始めた。

「あ! ダリダ姉さん!?」

「ちょいまちなさい。ベネデット君この人の上にのって」

「えー」

 鋭い眼光でにらむと急いで男の上にのった。それを確認して女に向かって叫んだ。

「ストップ!!」

 サンダルを脱いで、女性の頭を狙って投げつけた。二回目の投球だったが、これまたヒット。ちょっと自分すごいんじゃねと感動。

「すと? 何語?」

 しかしガッツポーズして喜んでいる場合じゃないと正気に戻り、急いで駆け寄りサンダル回収しつつ女性の腕をつかんだ。

「私あなたの背中ばっか見てるんだけど」

「ヒッ……許して、許して!!」

 そんな怯えられると悪いことしている気分になってくる。呆れていると、後ろで声がした。

「何をしている!」

 レントゥティスと、男衆もやってきた。

「これは」

 ティロが割れたコショウ瓶を持ち上げ、主人に見せると

「お前か!!」

 怒鳴り声をあげ、レントゥティスは杖を振り上げた。

「ちょ、僕じゃないよ!」

 急いで男から飛びのいたベネデットから逃げるように男は走り出した。

「逃げんじゃねえ!」

 怒り心頭のレントゥティス。だが男は真っ直ぐこっちに来た。

 どうやらダリダを助けて逃げるつもりらしい。

「その根性嫌いじゃないけどね」

 カオルは女を走ってきたレントゥティスに向かって押し付けるように背中を押し、向かってきた男に対し構えた。男は逃げることを忘れ怒りの感情をぶちまけたまま拳をふるった。

「てめえのせいでえええええ」

「キィ!!」

 逃げろという言葉を聞き流す。……いける

「はあああ!!」

「!?」

 右足を踏み込んで来た瞬間自分の左足を踏み込み、勢いを殺さず体重を後ろにかけ右足を腹にあて押し上げるように蹴っ飛ばした。

 男は地面に強く叩きつけられ、肘を抑えている。マトモに受け身していなかったようだから脱臼したのかもしれない

 相手は体格がいいので、もう一つ技をかけておくことにした。

「ちょっとごめんよ」

 軽く馬乗りになり、両足で相手の健在の左腕を挟んで軽く伸ばしながら背中を浮かすように注意しながら全力で後方に倒れ、相手の腕を伸ばした。暴れるので腕を少し伸ばした状態で捻った……ちょっと腕ぽきっと折っておこっかな~

 涙を流しながら悲鳴を上げて悶えていたので、このぐらいで許してあげようと手を離し立ち上がる。すると男衆が集まってきて棒で男をフルボッコし始めた。

(えぇぇぇ~そこまでやる? 骨折ろうとした私が言うことじゃないけど)

 ダリダはレントゥティスに必死に謝罪していたが彼はそれを無視して投げ飛ばした。

「拷問部屋に連れて行け」

 女が悲鳴をあげながら全力で謝罪を叫んでいる。拷問部屋かゾッとする言葉だ。

「……」

「キィすごいじゃないか! 売人にアマゾネスの一族と言われるだけはあるな! もしかして本物か?」

「違いますからね」

 さっきの行為は柔道を習った者ならだれでもできるであろう技ばかりだ。確かに試合以外で使いこうして無傷で居られるのは自分でも驚きではあるが

 高校の時柔道部だったんだよね。今思うとテコンドーや柔道、合気道などなど、私何を目指して体鍛えていたんだろう。決してこんなことのためではなかったと思うんだけど

「うきっ」

 いつのまにか木の上にいたキィがレントゥティスの頭の上に降り立った。

「おぉ、よしよし」

「旦那様……男の奴隷は役所に突き出しますか?」

「いや、そいつも拷問部屋に連れて行け。我が邸から盗人が出たと知られたら恥になる。世間に笑われるじゃないか。死ぬまで拷問しろ。遺体はどこにでも捨ててな」

 サルを連れて歩き出すレントゥティス。彼の言葉に背筋をぞっとさせながらカオルは目を逸らした。

「あ」

 目の先には青く痣になった足が見えた。スカートは破れ擦り傷などが目立つ。

「……」

 意外と痛くない。

「どうしたキィ怪我してたのか」

「え? いやべつに――――」

 ひょいっと抱き上げられた。

「……え」

 そのまま歩き出すレントゥティス。

「ちょ、いいですって。歩けますし痛くないし、どこいってんですか?!」

「邸だ。功労者のお前を放置するなんて、そんな無情なことをこの寛大な主様がするわけないだろう」

「お気持ちだけで十分です。自分で歩けますし」

「はっはっは」

「いや、はっはっはじゃなくて」

 そのままの姿勢で連れて行かれる。邸に入ると奥様がやってきて驚いた表情を見せた。

「何ですか、その子」

「功労者だ。鼠を捕まえたんだが、その際怪我をしてしまったらしくな」

 機嫌がいい主に対し表情を曇らせる奥様。

「そう……? でもわざわざあなたがやらなくとも、他の奴隷にやらせればよろしいのでは?」

「俺がしたいんだ」

 運ばれながら遠のく奥様の顔が嫉妬の色を見せたのを見て、カオルはなんだか居た堪れない気分になった。既婚者にとって他人とべたべたしてるのは気分いいものではないだろう。

(女の嫉妬は怖いからなあ)

 少しして長椅子に座らされ、足を掴まれた。

「本当にいいですって」

「遠慮するな。……ふむ、お前がっちりしてるな」

「……ん?」

 ねんざの手当てをサッと済ませたかと思うと、おもむろに足を触り、何かを確認している。

「まるで鍛え抜かれた少年のような筋肉質だな。柔らかいがしっかりとしている……」

(褒められている気がしない)

「キィ」

「はい?」

「子を生す気はないか?」

「は?」

 いきなり何を言い出すんだと怪訝な顔をしてみていると、上機嫌な主は足を掴んだまま満面の笑みを浮かべた。

「お前の子なら立派な剣闘士グラディエーターになるに違いない。それなら養成所に金をいくらつぎ込んでも構わんぞ」

「蹴っ飛ばしますよ」

「ふむ、だとしたら早く子を産まないとな。相手は誰がいい? 容姿がいいのをそろえてやるぞ」

 あきれて何も言えずにいると、そっと頬をなでられた。

「……お前はいい女だな。奴隷にしておくのがもったいないぐらいだ」

 真顔で見つめられ、カオルは眉をひそめた。相も変わらず何を考えているのかさっぱり分からない。

「俺の子を産むか?」

 カオルは立ち上がり、黙って部屋を出た。 

 背中で何を怒っていると叫んでいるが、普通怒るだろうが!!

「ふざけるな!!」 

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