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現代→古代  作者: 一理
ローマのようで
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楽な人生なようで

(パンとサーカスの都、かぁ)

 昔イタリア旅行に行って、その魅力にはまった伯母さんがその歴史について貪欲に知識を求め、私たちにその情報を惜しげもなく披露していたことを思い出した。

 古代のローマは繁栄しており、地中海全土を支配していた……言い方は悪いけど属州から莫大な富を巻き上げ、その富は当然の如くローマにどんどん流れ込み、ローマ市民にばらまかれた。

 ローマ市民であれば何も財産がなくても無料配給の穀物をもらえるので食べるに困らず、娯楽もただで提供される。

 娯楽とは具体的に言うなら、コロッセオのことだ。剣奴の試合が頻繁に行われていて、競馬。戦車競争。演劇も盛んらしい。やれ記念だ祭りだと祝日などに催しをするもんだから国民が遊んで暮らる環境がバッチリ。しかも金をばらまいた皇帝まで居たとか……。

 とにかく、そんな歪んだ社会を言いあらわしたのが『パンとサーカスの都』なんだってさ。

 見てて思うよ

(こいつらのお尻ひっぱだいて働けニートって叫びたい……)

 今日はレントゥティスの家でのパーティらしい。いろんな人が入ってきては彼に挨拶している。

 しかし不思議なのは彼が呼んだ友人のはずなのにレントゥティスの後ろには奴隷が居て、友人が挨拶するたびに耳元で彼に彼の友人の名をささやいていた。

(変な光景)

 少なくとも20人以上人が来たのは確認した。友人は知っていてもその家族までは知らないのかな……? と納得しかけたカオルだったが、むしろ後ろの人凄いと感嘆した。

「……ティロさん」

「ん?」

 私は飲み物片手にティロに話しかけた。

「これ何のパーティですか」

「旦那様が家屋ヴィッラにバルネアを作ったから、皆を呼んで入浴するんですよ」

「バルネア?」

 ってなんだろう? 通訳さんに教えてもらってないと思う。ティロさんもアッガド語を少々使えるからといろいろ教えてくれていたが、バルネアについて聞いても「バルネアはバルネアだよ」としか言わない。

 そうこうしていると、他の奴隷仲間の女性が黙ってやってきて何かの道具を放り投げるようにカオルの手のもとに何か渡した。

「……え、なにこれ」

 先のほうが緩やかに曲がった金属製器具。……危なくない忍者の鎖鎌っぽい

「肌掻き器ですよ。先ほどこれをあなたに渡した女性の後を追って、彼女に使い方を聞いてください」

「はぁ……なんかすごく私敬遠されてるように窺えましたけど」

 さっきの態度って確実に私人見知りですから~ではなかったと思う。できるだけ私に近寄りたくないのよみたいな雰囲気だったし

「……じゃあ、これの使い方だけ簡単に説明しますね」

「すみません」

「使い方は単純です。まず香油を肌にまんべんなく塗り、その後コレで肌についていた汚れと共にこすり落とすだけ」

「石鹸じゃなく、あ……はい、大体わかりました」

「じゃあ、私は飲み物を運ぶので」

 忙しそうに歩き出したティロさんの背中を見送り、肌掻き器を見る。

「石鹸使えばいいのにって思ったけど、無いのか……」

 ってことは、バルネアってサウナかなんかかな? さっきの女性を見つけ、背中を追いかける。

 声をかけるか迷ったが、振り返ってカオルがいるのを見たさい急いで目を背けられたのでやめておくことにした。いったい私が何をしたというのか

「……」

 美しい婦人たちが衣服を奴隷たちに脱がしてもらっていた。純白の服の下はふっくらとした柔肌が見え、男が手を出したくなるのがよくわかった。脱いだ服は壁に開いた穴に入れ、裸のまま彼女たちはどこかへ向かって歩いていた。

 ぽけっと突っ立っていると、女性が戻ってきてカオルの肩を一回だけ無言でひっぱって歩きだした。

(ちょっともーう、寄り道しないでよねって……?)

 途中で男の盛り上がる声と拍手と、水の音が聞こえたが、何しているんだろう。

 時々「ははは。レスリングで私に勝てると思ったか。さぁ、次は誰がお相手する?」やら「ワイン飲みに行こう」とか聞こえる。

 サウナだと思ったんだけど、違うんだろうか……

「あのー」

 手持ちぶさたになり、声をかける。

 大理石でできた段差に腰を掛け談話を楽しむマダム達に、着かず離れずの距離を保ったまま女性は動かなくなった。

 何したらいいのか、まぁ普通に待ってればいいんだろうけど

「黙ってなさい。用があれば呼ばれるから」

「はーい」

 素っ気なーい。あぁ、でもなんか懐かしいなぁ。仕事で入ったばかりの新人って気難しい人から見るとイライラするからって理由で爪弾きにされるんだよねえ。私も半年慣れるまでもたもたしてたから態度冷たかったなぁ。一年たったら全部押し付けられるようになったけど……ふ

(……ココ別にサウナじゃないよね? なんなんだろ)

 立ち上がった。

 ぼーっと見ていると女性に肩を押された。出陣らしい。

 女の人の肌に香油をなじむように塗り始めた、カオルは同じように背中を向けている女性に失礼のないように丁寧に同じ作業を遅れないように見よう見まねで行った。

 肌掻き器で汚れを落とした後、別の部屋に移動し始めた。ついて行こうとして首根っこを掴まれ立ち止まる。

 しばらく立って待っていたが、戻ってくる気配はない。

「あのう?」

 女性は背後に置いてあった水瓶を取り出し、グラスにサッと注いで一気飲みしていた。此処も結構むしむししているから、けっこう水が欲しいかもしれない。

 モノ欲しそうに見ているとサッとくれた。

 結構良い人?

 ぼけーっとしていると、奥から別の女性たちが戻ってきた。彼女たちの美しい躰は湯気で包まれていた。赤く染まった頬を手で押さえながら楽しそうに談話している。

 え、この奥の部屋……温泉?

 うーん、バルネアって、もしかして伯母さんの言ってた『テルマエ』のことかも

(テルマエ初体験ですよおばさーん。まぁ、手伝いだけど)

 っていうことは、私を買った旦那さんは、結構な上流貴族なんだなぁ……恵まれてる、のか?

 何とも言えないカオルだった。

「バスタオル、ほら」

 婦人の躰も拭かなければいけないらしい。

「はーい」

 どこの世界もお金持ち様はいるもんだ。

 あ、これって

(ローマ美女の肌無料触りほうだ……いやいや、なんで私カロロス君思考になってんの)

 自分突っ込みしながらワクワクしながら女性に近寄るカオルであった。

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