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現代→古代  作者: 一理
海と船旅
54/142

クレイジーなようで

 船旅は恵まれたようで荒波に巻き込まれることも天候不良にあうこともなく、不運な目にあっているということをのければ幸いだ。

 揺れる船や波音に慣れて寝ていたら頭をけられ跳び起きた。

「よお嬢さん、お別れの時間だよ」

「え?」

 外に連れ出されると港についており、カロロス君のお姉さんたちも怯えた顔で居た。

 船からカロロス君が泣き叫ぶ声が聞こえる。

「御願いだから姉さんたちを連れて行かないで! おねがいだから! ボク言うこと聞くから」

 ラフサンは横で騒ぐカロロスを抱きしめている。姉たちもカロロスの名を叫び別れを嫌がっていたが、男たちに棒で追いやられ馬車に乗せられ移動していった。

 ……あれ? 私は?

「お前はあそこだ」

 彼女たちとは違う馬車に押し込められる。獣用の様な檻の中……そこにはカオル以外にも人がいるが、みんな屈強な肉体をした男ばかりだった。

(闘技場逝きですね、わかります)

 行きじゃなくて、まさしく逝き。

 どうにか逃げ場所がないかと探していると、おじいさんに声をかけられた。

「ヘタなマネしないほうがいいぞ。時には死んだほうがマシと思うことあるってことだ。分かるか?」

「さっぱり」

「生意気だな」

 顎をしゃくり、見ろという方向を見れば、屈強な体を隠す気もなさそうな上半身裸の監視員が鞭を片手に仁王立ちしている。

 どこにでもいそうなムキムキですが

「?」

「拷問されたくなきゃ、じっと言うこと聞いて耐えてりゃいい。そうしたら一つは奴隷でもいいことあるだろうよ。ローマに行くならローマに従えってな」

「奴隷にした張本人が言う台詞じゃないよ……ッてぇえええ!? ちょおお汚いじゃないかあああ!!」

 ペッと唾を吐かれた。まさかそんなことすると思ってなかったから普通に直撃したんですけど。

「一々うるせえなあ。さっさとクタバレ。あばよ」

 手をひらひらさせて去っていく老人。結局最初っから最後まで何がしたかったのだろうか。

「!」

 馬車が動いた。

 え、もしかして時間稼ぎ?

「やられた」

 逃げ出せる考えもなかったけど。しかしどうするか、ここが古代ローマ帝国なら……アッシリアってどこらへんにあるの?

 しまった、地理が分からない。

(このまま闘技場行ったら本当にあの世逝きだよ!!)

 檻をぐいぐい引っ張ったり、出口ないかとうろちょろするが迷惑そうな顔をされるだけで見つからない。

 そのうち見張り人に棒で腹を殴られ沈黙した。

 揺れる馬車は人通りの多い市場を通る、カオルの知る市場とは違い。その市場は人しかいなかった。

 買う客は人。売る商人も人。……そして、商品も、『人』だった。

(私もああなるのかな)

 服を脱ぎ、上半身を露わにして台の上に立たされ、客たちは金の値を叫び、奴隷を買おうと身を乗り出す。人が人を買う、なんて滑稽なワンシーン。

 それにしてもあつい。筋肉質な人ちょっとあついから離れてくれないかな……。

(なんかもう騒ぐ気力も、逃げ出す勇気も知恵もなくなってきたわ)

 檻にもたれながら空を仰ぐ。

(本日は快晴なり、だけどわが心曇り時々雨なり)

 目を閉じ、人々の姿を消しさる。

「おい、こら。言うことを聞け」

 ラテン語が聞こえたと思ったら、カオルの顔に生暖かい毛皮が飛び込んできた。

「!?」

 呼吸が難しくなったので急いではずそうとするがそれは自分の意思でくっついてきているらしく、離れない。

(何?! 何、何々、これなにぃー!?)

「コレですか?」

 馬車が急に止まり、カオルは誰かに引っ張り出された。そのままの勢いで転げそうになるが、誰かが受け止めてくれた。

「あぁ、悪いな。こら、こっちこいキィ」

「いぅ、痛いっつの!!」

 何かが顔からはがれ、目が合う。男は口笛を吹いた

「珍しい毛色だな。いい女だ」

「どうも」

 彼はどうやらローマ人らしい、映画でよく見るあの姿まんまだ。無駄に腹筋あるし、デカイ。ホリが深い顔だ。

「君も売り物?」

「観光客が檻の中にいるとでも?」

「気が強いな。ますます気に入った。なぁおい、この奴隷はいくらだ? 買うぞ」

 彼が手にしていた子ザルが再びカオルの顔にくっついた。意外とシャンプーの様な匂いがするぞ。

「キィ。彼女を見ていてくれ」

 逆だろ。顔に張り付いた猿をはがし、見つめる。

「……お前、キィっていうの」

 つぶらな瞳の手乗り猿。

 サルって可愛いっていう人の気が知れなかったが……このサイズなら可愛いと認めてもいいかもしれない。顔にくっつかなければの話だが。

「私も紀伊キィなんだよ」

「そうなのか」

 顔を上げると、さっきのローマ人が居た。がらがらと馬車が去って行った。闘技場行きは免れたようだった。よかったのだろうか、よかったと思うことにして

「私はどうしたらいいんですか? 下女ですか? サルの世話ですか?」

「その前に私の名を聞かないのか?」

「どうぞ?」

 空咳をすると腰に手を当ててキザっぽく、ウィンクと笑顔を見せた。

「レントゥティス。よろしく」

 怖い怖いってみんな言うからローマ人って怖いもんだと思っていたけど。現代で言えばイタリアだよね……。

 さすがイタリア男児。

「そこなるナイスバディーのお姉さん彼氏持ちみたいですからやめてあげてください」

 私に自己紹介していたのに、いつのまにか目の前通ったボンっキュウっボンなお姉さんを口説き始めた。自由人過ぎるでしょう。

 綺麗なお姉さんは彼氏と一緒に逃げるように去って行ったのを見送り、レントゥティスはやっとこっちを見た。

「じゃあ行こう。うちには三歳の息子と二歳の娘がいるんだ。よろしく」

 また子守りか

「奴隷はうちは26人。ペットはそれ以上だな。ティロという奴隷がいるから、そいつに家のこと仕事の内容、私のことを聞くといい。分かったか」

「はい」

「あぁ、そうそう。うちには気の強い愛人が二人いるから……死ぬなよ?」

 意味深な笑みを浮かべ先を歩く。

 やっぱり古代ってクレイジー。

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