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現代→古代  作者: 一理
海と船旅
51/142

マジなようで

 目が覚めた。

 また縛られている。正直うんざりしながらもカオルは目だけ泳がせ周りを見た。

(こういう時ってどうしたらいいんだろう。もう、いろんなことが一気にありすぎて脳内麻痺ってきてるんだけど)

 状況判断のため周りを見渡せばどうやら武器を手にした男が五人と高みの見物を決め込んだ格好の初老の男が一人。見ての通り彼らが船を攻撃してきた海賊なのだろう。

 そしてカオル以外に縛られているのは一緒に寝ていた三人の女と、カロロス君と何故か通訳さんだけ。他の人たちはどこへ行ったのだろう。無事だといいけれど

「最近ついてないなぁ」

 起き上がろうとしたら男に剣を向けられた。怖いけど、あんまり怖くない。何故だろう? とりあえず手を挙げて座り直す。と、横で通訳さんが涙目で何かぶつぶつと祈っている。見ての通り今の状況は最悪らしい。

 そういえばこの人の名前知らないと今更ながら思うカオルであった。

「おい、このジジイは何で生かしてるんだ?」

「何でも通訳の為だとよ」

「じゃあ向こう着いたら殺すのか?」

「そうだろ」

 強面の男の会話を聞きながら、カオルは彼らがここらへんの出身なのだと分かった。

(手慣れてるし、きっともう何度もこういうのやってきたんだろうな)

 初老のリーダー各が現れ、私たちをじろじろ上から下まで見るとニヤリと満足そうに笑った。

 が、一人の若い男が彼に声をかける。

「こいつらギリシャ人らしいですが、大丈夫ですかね」

「へえギリシャの人間か、まあ客からしたら奴隷は奴隷。売れりゃ問題ねぇ」

「お楽しみは、有りですかい?」

 別の男が声をかけると、別の男たちがいやらしい目でこちらを見た。

(とても嫌なフラグがたった気がする)

「好きにしろ。だけど殴るなら頭にしろ。顔に傷ついたら安くなっちまう」

「へへ」

 男たちがこちらにやってきた。その行動に察しでもついていたのか女たちが泣き叫んで後ろに逃げようとしたが、背中は壁でこれ以上は下がれなくなった。

 カオルはその様子をどこか他人事のように眺めていたが、肩を掴まれ自分も当事者だったことを思い出し立ち上がった。

「うぐ!?」

 急に立ち上がったものだったからやるつもりはなかったが、肩を掴んでいた男に対しヘッドアタックしてしまった。男は顎を抑え転がって悶えている。

(悪いとは思うけど、私も痛い)

 さすりたいけれど手が使えないし、どうしたらいいか分からないカオルは立ち上がったまま呆然としているとほかの男が集まってきた。

「てめえ、大人しくしてやがれ」

 怒号とともに拳が頬をかすめる。

「ほう?」

 拳を避け、体を捻り足で相手の腹部を蹴飛ばす。腕が使えない分あまり上手くいかなかったがテコンドーの基本の動きは体が覚えている。倒れそうになったがバランスを戻し、再び基本の姿勢に戻す。

「女の人たちに手を出すな」

「生意気言うな。お前らに権利なんてないんだよ」

 男二人同時に襲われた。タイミングを合わせ横蹴りを食らわせ一人の男を倒し、後ろにいるだろう人間に対し後ろ回し蹴りをかけた。

 腕がやはり使えない分バランスをとりにくい上、鍛え抜かれた彼らにはあまり効果ないように見えた。これはヤバい

「この女!!」

 男の一人が蹴られた顔を抑えながら剣を鞘から抜いた。

「うっ」

「死ね!!」

 ステップを踏んで後方に下り一撃はよけたが、寝転がっていた男に躓きそのまま尻もちついてしまった。

「やば!」

 目を強く閉じた。

「待て」

 剣のぶつかり合う音が響く。

 目をそっと開けると、初老の男だった。意外な人物にカオルだけならず彼の部下も驚いて目を見開いていた。

「よお嬢ちゃん。おめえ中々女だてらにやるじゃねえか。どっかの兵士だったのか? それともアマゾネスの一族かなんかか?」

「違います」

 なんで私がアマゾネスなんだ。褒め言葉なのか分からないけど普通のか弱い女捕まえて失礼な。

「おもしれえ技使うじゃねえか」

 テコンドーのことだろうか、私また一つ余計なことをしてしまったようだ。

 落ち込んでいると彼は八重歯をニカット見せた。

「よっし、お前はちと遠いが剣闘士として売るか。アマゾネスなら申し分なく高く売れるだろう」

「アマゾネスじゃないんですけど……」

 売られることには変わりないのかとカオルは沈む。死ななかっただけましなのかもしれないけど

 通訳さんが顔真っ青で震えてますけど、え、剣闘士って何?

「おっしゃおめーら北上するぞ」

 倒れていた男たちも立ち上がり船を動かす準備に入った。

 一体何事? という疑問もあったが分からない頭を使っても今の状況がどうなってるかなんてわからない。

 怯えて身を固めあってる三人の女たちを見たらまぁなんだかんだでうやむやになって貞操守れたようでよかった~なんて思っていると首根っこを掴まれる。

「船旅は長い、それまでは相手してもらうけどな」

「え?」

 ボスはにやりと笑った。

「見ての通り船旅はよ、男だけで女はいねえんだ。持て余す性欲を相手しろっつんだよ」

「……あー、えー、あのー……全力でお断りしたいのですが」

 そんなさっぱりストレートに言われたらなんと返したらいいのか逆に悩むんですけど

 困惑していると男は嗤った。

「それが嫌なら暇つぶしにおめえ付き合いな」

 縄をほどかれる。

「暇つぶし?」

 広い船の中に檻があり、そこから獣の呻き声が聞こえた。

「オレは何度か円形闘技場コロッセオに行ってよ、遠目から見物したんだが……その熱狂っぷりにはまってな」

「へぇ」

 コロッセオって、イタリアだよね。え、じゃあもしかして私今からイタリア行くの? 古代のイタリアって……古代ローマ帝国……?

 え、剣闘士でコロッセオで、私をそこで売るってことは……え? 私死亡フラグ?

「そこで見た人間とライオンの戦いが面白くってな」

 檻の中に突っ込まれる。もはや嫌な予感しかしない。

「もしライオンに勝てたら手を出さないでいてやるよ。もし、そいつと遊ぶのが嫌なら俺らと遊んでもらうけどな」

 呻く獣の声に、生臭い匂い。振り返らなくても動物園で見たことあるから分かる。

「ひ、ぎゃっ!! マジのほうだったマジのほうだったマジのほうだったっ!」

 百獣の王、ライオンだった。

「それ商品だから殺すのはやめてくれよ」

 笑いながら言うあの爺を殺したいと思うのは間違いではないはず。女たちは顔を真っ青にし、通訳さんは恐怖のあまり気絶した。

 男たちはやんややんやはやし立てるが、カオルは恐怖のあまり動けない。

 まるで蛇に睨まれた蛙だ。

(ライオンってこんなに怖かったっけ?)

 そもそもなんでライオンいるんだよ! そういう叫びは胸につっかえて声にならなかった。かろうじて出た言葉は

「マジのほうじゃーん!!」

 よくわからないコメントだけだった。

この場を借りて皆様へ

お気に入りとアンケートありがとうございます。

一番好きなキャラ一位が主人公で嬉しい限りです。主人公は愛されて成長しますから^^

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