話し合うようで
カオルは通訳さんを連れてぐいぐい来た道へ戻っていく。
しばらくしてコンスタンティノスさんとその一行と出会った。カオルはひるまないようにできるだけ怖い顔で仁王立ちしてはっきり言った。
「この船、ちゃんとヒッタイトに向かって、私降ろして下さるんですよね!! ってはい、通訳!!」
「はいはい」
通訳さんが言葉を伝えると向こうの人たちは微笑んだ。
「なんて?」
「ヒッタイトには向かわないと、貴女にはぜひうちで働いてほしいと」
「お断りしますとお伝えください」
あなたも強情だといいながら通訳人は伝えると、向こうは不思議そうな顔をした。
「私たちにとって奴隷とは財産であり、重要なものである。海に放り出され何も持たない貴女にはいい仕事だと思うが。だそうです」
「ふざけんな。仕事あるって言ってるじゃん、ヒッタイトのウガリットにいる商人のもとで働いてるんです! 嘘だと思うならそこまで連れてってください。話はそこからだ……って伝えて」
「最初の暴言もいる?」
「ソレは省いてください」
あーだこーだお互い言い合い、結果話し合いはカオルの勝利に終わった。
まあ、どちらかというと誤解を解いたというだけの話だけれど
「はあ、でもありがとうございます。行くあてがないと思って言ってくださったんですよね」
「いや、ただ珍しい顔立ちだったから、連れて帰ったらそれはそれで自慢できるかなって……言ってますよ」
「私の感謝返せ」
そんな大差ない顔立ちだと思うけれど。
通訳さんは女の人に何か言われたかと思うと、カオルに声をかけた。
「今日はもう夜遅いから、一緒に寝ましょう。といってます」
奥さんらしい女性と、使用人らしい女性、そして小さな少女がにこやかにほほ笑んだ。
「はぁ、じゃあお言葉に甘えて」
三人に連れられ女部屋に行く。古代の船ならシンプルなのかと思っていたが、現代と変わらずベッドや机や椅子、床には絨毯とクッションがあった。アリーと乗った船は絨毯と布団しかなかったと思いながらカオルは苦笑いをもらした。
(金持ちはやっぱり違うか)
ぐいぐい服を引っ張られ女たちに誘われ布団に入る。疲れた身心を休めながら思う。
(たった一日でこんなにも疲れるとは思わなかったなぁ)
いろんなことがありすぎて夜がとても長く感じる。カオルはうとうとしながら今日一日を振り返りながら夢の中に落ちて行った。
(アリー……今度会ったら絶対ぶん殴る。絶対ぶん殴る)
そう心に誓いながら。
ぎぃぎぃ……。
不穏な空気を醸し出した怪しい三橈漕船が、カオルたちを乗せたガレー船にゆっくりと近づいていく。……しかし船の奏でる軋み音はさざ波にかきけされ見張り番の耳には聞こえず、月明かり隠された闇夜は注意の目をも曇らせた。
「行け」
仕事だ、一人の男がそう小声で指示すると、船底最前部に青銅で補強した衝角で三橈漕船は思い切り無防備なガレー船に衝突した。
そのあまりの衝撃に驚きカオルはとび起きた。
「何!?」
船腹に穴をあけられ船に大量の海水が入り込み、船員たちが慌てた様子で対処に動き回る。
怒り心頭の怒号をあげながらコンスタンティノスさんは各自に指示を出す。
「あわわ」
「あの、これ何事ですか?」
通訳を捕まえ問うと、予想通りのコメントが返ってきた。
「海賊ですよ!」
その声と同時に入り込んできた海水にカオルは回避できず、強く壁に叩きつけれらた。遠くで女の悲鳴が聞こえたが、意識遠のくカオルには聞こえなかった。
(デジャヴっていうのか……な、これ)




