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現代→古代  作者: 一理
ヒッタイトのようで
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番外編『ホマー編』

 

 はーい皆~アッシリアでも中の上の商人家、ナサのお姫様。ホマーだよ。

 今日はカオルが初めてお家にやってきたときのお話をするね!


 あれは一年と半年前ぐらいの話、全身ずぶぬれで右頬を手形くっきりつけて赤く腫らした兄さんが帰ってきたの。

「まぁ、ロスタムどうしたの?」

「姉さん、いらなくなった服くれ」

「え」

 なぜか姉さんはドン引きだったけど、兄さんに強く言われて結局お古の服を渡して、服を受け取った兄さんは急いで走って去って行ったわ。

帰ってきたばかりで何をそんなに急いでいるのか、家族のみんなは首をひねって疑問を抱いていたわ。勿論私も不思議だなぁなんて思ってだけど、それよりは好奇心のほうが断然強かったわ!!

「帰ってこないわね」

 兄さんが出て行ってしばらくたったころ、やっぱりお母さんが心配しだしたの。心配性だしね

「サイード、少し見てきてちょうだい」

「分かったよ」

「ただいま」

 サイード兄さんが立ち上がった時、兄さんは帰ってきた。兄さんがつないでいる手の先には、姉さんのお古の服を着た女性が居た。

 第一印象は『変わった顔立ちの、とても、悲しそうな表情をした人』だったわ。

「まぁ!」

 母は兄さんを咎めるように立ち上がった。

「どうしたのその女性、あなたまさか」

「まさかってなんだよ!! 変なこと考えないでくれよ。河で気を失って流されてるところを助けたんだ!」

「じゃあ何故あなたボロボロなの!?」

 服も泥だらけだし、兄さんの怪我も最初より増えている。

「河に流されてたのを助けたら逃げたんだこいつ」

 女性は何も言わず、ただ虚空を見つめ悩んでいるようにも見えた。たまにこちらを見ては困惑した表情でため息を吐いた。

「とにかく、使用人の部屋一つ空いてたよな、こいつ住まわせるから」

「住まわせるってロスタム!」

 話も聞かず兄さんは連れて行ってしまったの、そのうちお父さんが帰ってきて母と何か会話してたけど、私は聞かなかった。二人の会話よりも、その女性のほうが気になったもの。

 兄さんの後をついて行くと、兄さんと目が合ってしまって

「ホマー、ちょうどよかった。こいつに服とか教えてやってくれ」

「え? 服? どうして??」

「あー……こいつ、異国から来て、記憶喪失なんだよ」

「???」

 兄さんが適当なこと言ってるのは分かったけど、ベットに座る女性が気になったのでとりあえず了承したの。

「初めまして。とりあえずヴェールはつけましょ」

 箱からヴェールを取り出し、女性に着ける。女性はその時は何も言わなかった。

 次の日、女性は家を飛び出していて、兄さんは血相を変えてその女性を探しに行き、必ず連れ戻してきた。そのたびに二人ともボロボロで、女性は時々険しい顔をしていたから何かの病気じゃないかって近所の人は嫌がった。

 父さんもあまり快く思っていなかったみたいだけど、兄さんと話をしたようで、何も言わなかった。

 気が付いたら逃げて、追いかけて、去って、捕まえて、そんなことを繰り返していた一週間後の夜。

 私、気が付いたの。

「泣いてるの?」

 布団に眠らず、彼女は月を見上げながら、静かに声もたてず泣いていたの。

「……」

 瞳から涙がこぼれているのにも気が付いていない様子で、ただ月を見上げ、泣いていた。

「……?」

 女性は私に気が付くと何か不思議なイントネーションで異国の言葉を使った、でも私には伝わらなかった。

 それで分かったの、言葉が通じないほど、遠くの国からやってきたんだって。もしかしたら奴隷として売られそうになって死のうとしたんじゃないろうか、じゃなきゃ河にいることなんて……そう思うと不憫に思っちゃって。

「!?」

 私は彼女に駆け寄ってぎゅううって抱きしめたの、こうしたら落ち着くから。

「大丈夫だよ、安心して」

「……」

 温かい手が私の頬をなでた。想いはきっと伝わったよね。

「わあ?!」

 女性がいきなり大声で叫びだした、と思ったら自分の両頬を三回叩いて、力強い息を吐いた。

「????」

 あとで聞いたら気合入れてたんだって。

 兄さんが入ってきて、怪訝そうな顔をしていた。

「どうしたんだ?」

「わかんない」

 びしっと指差して何か言った後、腕を組んで頷き、女性は自分を指差した。


「カオル」


 名前を意味したことは分かった。

「カオル!」

 よろしくね、カオル! そういう想いを込めて抱きしめた。

 ちなみに何故兄さんがあんなにボロボロだったのか、あとで聞いたらカオルにやられたんだって。

 もしかしてカオルってとっても強い?

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