尋問のようで
部屋に行き、さっそく簡易な荷物をほどいていると、アリーと七菜は自己紹介を始めていた。
「アリーさんっていうのね! 素敵」
七菜は目を輝かせてアリーを見つめている。何がいいのか分からないがそういう。カオルはどうでもよくなって荷解きを進める。というか、何故いるのだろうか
「アリー、暇人なの?」
「わりかしー」
肯定されると思っていなかったので、何も言えず黙る。
「カオルちゃんは何しにハットウシャに?」
「私のお手伝いです」
七菜がにっこり笑顔を作って答えた。
「お手伝い?」
「はい、私困ってる人や苦しんでいる人を救いたくて、ヒッタイトの疫病について調べに来たんです」
「ふうん、手伝いね」
アリーは興味津々といったように人が用意したばかりの床布の上に寝転がった。七菜もそれに続いて寝転がる。お前ら少しは手伝いなさいよ。
「カオルちゃんとは、どういう付き合い? もしかして親子??」
寝転がるアリーの背中を何も言わず蹴飛ばす。そこまで老け込んでないわ。
「まぁ、お嬢さんのほうが可愛いしねー、違うよねー」
「えへへ」
「へぇ君も少し変わった顔立ちだけど、可愛いね。カッシード人? それともやっぱペルシャ?」
七菜は何それといわんばかりのクエスチョンマークを浮かべたが、笑顔で否定した。アリーは興味深げに七菜とカオルの顔を見比べた。
別に知られて困ることはないが、答えることもない。何人かと問われるとついごまかしてしまう。
日本人と答えたところで理解は得られないし、どうやってきたと問われたら困る。たとえ誤魔化しでほかのとこ出身ですと答えたところでぼろが出てつつかれても面倒だしな。
そもそも『未来の日本から来た』なんて誰にも言えない。七菜は女神として天から来たみたいな設定で通っているが、私はそれで通らない。できれば『トリップしてきた』というのは内緒にしておきたい。
だから、アリーは厄介だ。何を企んでいるのか分からない。
「アリー」
カオルはアリーの耳を引っ張った。
「何人でも構わないでしょ。大体なんでそんなに私たちのこと気になるの?」
「いてでで、だって気になるじゃんかー」
アリーは耳をつかむカオルの手を奪い取ると、にかっと笑った。
「好きな子のことって、なんでも知りたくなるでしょ」
「……」
後ろで七菜がキャーッといいながら両手を振っている。
「……私にはそれが取り調べに聞こえるわ」
「そう……?」
いいタイミングでドアがノックされた。同じようにマントに身を包んだ男が小さく頭を下げた。
アリーはそれを見ると、立ち上がった。
「お友達来たからお仕事いってくるね。んじゃ」
ひらひらと手を振りながら去って行った。その時振り返りこちらを見たもう一人の男の目つきの悪さと言ったら。何故こちらが警戒されなければいけないのだろう。それにしても
「アリーのやろう」
せっかくきれいに敷いた床布を乱すだけ乱して去りやがった。
「紀伊さん、紀伊さん」
七菜が横に転がったまま言った。
「お腹すいた!」
「……」
休日の母親の苛立ちの理由が分かった気がした。
「女神様も手伝ってくださいましたらすぐにでもご用意できますが。いかがでしょう」
「はーい」
無言の重圧が怖かったのだろう素直に返事をして起き上がった。
「疫病って、どうやって治すもんなの」
「唐突だね」
七菜は服をたたみながら問う。それについてはカオルもずっと考えていることだった。
「たぶん、抗体があれば治ると思う。けど、この時代注射器もなければそんなものもないでしょう」
「作れるの?」
「んなわけあるか!」
ベットメイキングをしながらカオルは突っ込む。とりあえず聞いとけばいいや精神の七菜に頭が痛くなるような感覚を覚えながらため息を吐いた。
「七菜はどうやって病気治すつもりでいたの」
「……運で」
「さようで」
何も考えてなかったと。
「紀伊さんの考えは?」
「とりあえず、病気の種類を確認かな。病気にもいろいろあるじゃない。環境からのものや、季節もの、アレルギーとか」
「ふうん」
「ん?」
この返事は分かってないか、聞いていないかのどっちかかな。
「食事が終わったら、町の医師でも探してどんなふうかとりあえず聞いてみよう」
「うん」
「まぁ、分からないだろうけど」
「紀伊さん結構行動派だねえ」




