首都に着いたようで
アナトリア高原。ヒッタイト人の築いた帝国の首都『ハットゥシャ』
豊かな森に囲まれ、そこにはいくつもの湧き出る泉が集まっているため、人々はそこに集まり
谷間や断崖といった自然の地形を巧みに生かされ、要所には巨石で積まれた頑丈な城門と城塞を備えられていた。
「アーチ状の石門が素敵だったな……むだに機能美いいわ」
市場で必要なものの準備を始め、次の日に移動してやっとココ、ハットウシャに着いた。地理分からない自分にしてやよく一発でこれたと思う。カオルは自分をほめた。
「城壁ばっかでやっと中に入れたって感じ」
満足げに鑑賞した感想を述べたカオルだったが、七菜はそうではなかったらしく、文句をいいながら周りを見渡している。
「今は流行病とか流行ってるからか、あんまり人がいないな」
昼であるにもかかわらずあまり外に出る人は少なく、子どもたちもおとなしく家の中で藁を編んだり、親に抱きついて甘えたりしている。暇だと体全部を使って表現している子どももいて、つい微笑んでしまった。
「何奴!!」
後ろから何か嫌な気配を感じほぼ本能のままに回し蹴りを放つと、もろ喰らった相手は呻き声とともに倒れこんだ。
「あ、アリー」
「何奴って、紀伊さんいつの時代の人?」
褐色のいい肌色をマントで隠していたから最初誰か分からなかったが、攻撃を受けた時のリアクションがアリーだったので尋ねるまでもなく誰か分かった。
「カオルちゃん、強い……」
「確かに、紀伊さん警官だったの?」
「普通の会社員ですけど。んなことより、アリー」
うずくまったままのアリーをつつく。
「なんでハットウシャいつまでもいるの。ウガリットで母親の両親に会いなさいよ」
「……会ったよ」
アリーは起き上がった。
「ただしくは墓前だけど」
マントを直し、顔を隠すように深くかぶるとアリーは白い歯をにかっとみせた。
「カオルちゃんは何? ハットウシャ観光? 俺が案内してあげようか?」
「結構よ」
「ねねね~知ってた? もともとハットゥシャはヒッタイト族ではなくアッシリア人が築いたものだったんだけど、ヒッタイト王アニタッシュの軍勢によって破壊されちまって。まぁ、奪われたってわけだが」
聞いてもないのに説明が始まった。カオルは七菜の口を押えて歩き出した。
「その後、ヒッタイト帝国は周囲の国々を服属・滅亡させて大帝国となり。時の皇帝ラバルナシュ1世はハットゥシャを再建したってわけ……」
アリーは遠くなったカオルの背を見つけ、叫んだ。
「なんでそんな意地悪するのさー」
後ろから抱きつかれ動けなくなった。
「意地悪なんて……、こちとら観光に来てるんじゃないの。お前みたいな胡散臭いやつ相手にしてる場合じゃないの」
「これからチュニスっていう宿屋いくのー」
「マジで? あらーそれ俺も泊まってるとこじゃないですかーやだー」
腕を掴まれた。
「奥様ご案内いたしましてよー」
「何故急にオネエになった」
コメントする暇もなくずるずる引きずられていった。七菜だけはマントの下に隠されたアリーの顔に興味津々といった感じで覗き込もうとしていたが、途中で断念していた。
確かに宿屋に行くつもりではあったが、こんなすぐ行くつもりはなかったのだとカオルは伝える前に宿屋に着いた。結構近かったようだ。
「こんにちわ。リマーばあちゃんに紹介してもらったんですけど」
「おー、はいはい。いらっしゃい」
ガタイのいい男が出てきた。いい笑顔を見せると、カオルとアリーを見てぐふっと笑った。
「旦那ぁ、今日も可愛い御嬢さん連れてぇ、一体何やってんすかぁ?」
「ほんと、なにやってんすか?」
「カオルちゃん顔こわい」
今日も、ということは毎日という解釈で間違いないだろう。別に咎める気はないが、女という点では軟派な男は見過ごせないと思う。
「リマーばあちゃんねー。元気だった?」
「えぇ、これ買わされましたよ」
エアの象を見せると、何故か納得したように頷いた。
「毎回話しかけてきた人に象を買わせてうち紹介するからねー」
果たしてそれはいい商売方法なのだろうか。疑問を口にする前に旦那は嫁に呼ばれ引っ込んだ。
「あ、お客さんあいてる部屋好きに入ってねー」
声だけ残して。客はどうしたら……
「とりあえず、俺の部屋来る?」
「さ、開いてる部屋探すか」
七菜を連れて部屋を探すのであった。
「マントの人ついてきてるけど」
「ほっとけばいい」




