お久しぶりなようで
「カリフさん!! おはようございます」
「おお、カオル殿。なんだか気合入っているな、いいことだ」
肩をポンポンと叩かれ、挨拶を交わす。二日前やっとこさ待ち合わせのカルカミスの町につき、ウガリットにあるカリフの屋敷に案内され、カオルはこれまでの経緯やナサ家のことを説明した。
今はその後で、軽く仕事の内容を聞き、仕事を覚えようとしているところ。
「ん? ヒッタイトは病気で人が死んでいると聞きましたが」
「首都付近はそうだろうな。ここらへんはそうでもないぞ」
「そうなんですか」
「だが、徐々に都市すべてに蔓延しつつある。カルケミシュ門で病人がいないか、厳しくチェックされているほどだからな」
「へぇ……」
門を通って行く人を見送る。私南から来ましたけど、そこではチェックされませんでしたが、意外とズボラじゃないですかね。アッシリアとは違う人の顔立ちに、建物の形、そしてカマド
カオルは頭を抱えていた。
「はぁ、それにしても、せっかく呼んでもらったのに、あまりお役にたてず申し訳ないです」
「そんなことはないぞ」
「いえ、だって私また字が読めないですし」
ヒッタイトではオリエントに幅広い楔形文字だけでなく、ヒッタイト独特の象形文字も使用されていた。
おかげで普通の楔形文字なら理解できるが、ヒッタイトの商人とのやり取り文が何を書いているのか分からず、発注されているものが分からないという。
もうみんな同じ文字でいいじゃない。
「ははは、急ぐことはない、おいおい覚えればいいさ。しかし、カオル殿の商品の宣伝の仕方は独特で、おかげで商品を値切られずにみんな売れたよ」
「そうですか?」
展示販売は奪われるということもあるので、商品に紐を括りつけて、触ったらわかるように鈴も取り付けてみた。そのかわり、商品を買っていったお客様にはおまけで三枚のナンを渡すというサービスを取り入れると、同じ商品を買うとしても客は少しでもお得なほうを取り入れるだろう。それが結果なかなか良い結果を生んだようで、売り上げを大幅に上げていた。小麦は物々交換で向こうと話をつけているらしい。
(うまくいくとは思わなかった)
「じゃあ、カオル殿後は任せたよ」
「はい、ではまたあとで」
「あぁああああ!!!」
カリフさんは別の人に呼ばれ、別れた。カオルは商品の数をチェックする動作に戻ろうとすると、誰かに叫ばれた。
「?」
振り返ると、門を通り過ぎた馬車から誰かが降りて、こちらにむかって駆けてきた。
一体だれかと思えば懐かしい人物
「なななな、七菜!?」
「紀伊さん!!! 紀伊さん紀伊さん紀伊さん紀伊さん!!」
涙を浮かべながら抱きついて来るものだから、追い払うこともできず、素直に抱きつかれる。というか名前連呼しすぎだろう。そこまで親しい仲になった覚えはない。
なぜここまで来ているのか。まさか、本当に女神計画をヒッタイトにまで広めるつもりでは……なんて懸念していると七菜は涙をふいて顔をあげ、カオルを見上げた。
「助けて!!」
「最近耳が遠くて何も聞こえないのよ」
「はー? 年寄りなの? ねぇ、聞こえてるでしょ? 紀伊カオル25歳独身ー! 商人の家で居候している嫁き遅れー!! 地味さばさば女ー……っんお!?」
「殴っていいですか?」
頭を押さえつけると七菜はあわてて手を振った。
「ごめん、でも意地悪言うから」
「分かった分かった……、とりあえず、ここは目立つから移動しましょ。ん? あの馬車の人たち普通に去っちゃってるけど」
「いいの。みんなー!! ありがとうー」
七菜が手を振ると、綺麗な女の人たちが七菜に向かって手を振っていた。
「……どういうつながり?」
「いいのよ別に、さ、紀伊さん。どこいくの? 今度はどこに奉仕してるの? ほら、ぼやっとしないで」
「解せぬ」
カオルは七菜の態度に納得いかなかったが、こうしていても仕方ないので、カリフが貸してくれている家に帰ることにした。
早々にカオルはこの娘に対して深く考えることをやめることにしたのであった。




