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現代→古代  作者: 一理
アッシリアのようで
28/142

目覚めたようで

 ぐらぐら揺れる頭を労わりながら、ナナは起き上がった。

「?」

 ここはどこだろう。荷馬車の中のようにも思えるが、ぐらぐら揺れているのは視界なのか、頭の中なのか、今の寝起きのままのナナには判別がつかなかった。

「あら、起きた? 大丈夫? お嬢ちゃん」

「!」

 暗い荷車の中に日の光がさした。どうやら夜明けになったらしい。

「……えっと?」

「ふぁあ、あら? あんたそんなモノのけちゃいなさい」

 ヴェールを引っ張られる。ナナは急いでそれをつかみ、奪われまいとした。

「やあね、追剥じゃないわよ。あなたのために言ってるのよ? あら、もしかして、言葉分からない?アッカド語通じないなら、私はお手上げだわ」

「え? 私のため?」

「あら、分かるじゃない」

 鼻をつままれる。その女性のほかにも荷馬車の中には5人ぐらいの女性が横たわっていた。

「レセア……珍しく早起きじゃない。いつも最後までぐーすか寝てるってのに」

「あら、言ってくれるじゃないポエニーナ。ワタシだって仕事がなけりゃ早起きさんよ」

「ふふふ! よく言うわ」

 他の女性も楽しそうに笑っているが、七菜には何のこっちゃと意味が分からない。どうしたもんかと考えていると、レセアと呼ばれた女が七菜のヴェールに手を伸ばした。

「あなたはね、もうこれをつけちゃいけないの」

「なんで? だって、イルタはヴェールは『女性の嗜み』って」

「あらぁ、あなた上級階級だったの? お生憎ねえ! 旅の仲間に置いて行かれちゃったのかしらあ?」

「こら、ゾーラ。挑発するな」

「あの!ここは? 私と一緒にいた人たちは? あなた達は誰!? どこにむかってるの!?」

「私はレセア。神聖娼婦よ。これからヒッタイトの神の家にいくの」

 七菜は女にすがるように近寄り、叫ぶように聞いた。

「しょ、娼婦!? じゃじゃじゃじゃあ! お仕事って」

「勿論、男と交わるのよ」

 七菜はショックを受けて倒れた。

「あ、ちょっとぉー。お子様には早かったかしら」

「さぁ? 起こしたら?」

「どれ」

 頬を叩かれ起きる。と、ガバッと勢い良く起き上がった。

「いやよ! そんなの」

「元気ねぇアンタ。……なんで? 食うに困らないし、崇められるし、いいじゃない」

「え? 崇められる?」

 娼婦が? なんで? 首をかしげて見上げると、女はおかしそうに笑った。私が何も知らない子供のようでおかしいと指差してみんな笑ったが、こっちからしたら一切笑い事ではない。

「アッシリアのアキトゥ祭の10日目に神殿で行われる王と女神の結合の儀式に神聖娼婦は呼ばれるの。私たちは神に仕える巫女のようなもの、そして巫女は、寄進を受けた者に神の活力を授けるために性交渉を行う。……男たちは神と交流できるってわけね」

「さっぱり分からない」

「あー、いい? ヴェールをかぶってる女性は『法の下男性の保護下にある、これに触れること罰せられる』と、で私たち娼婦は逆に『皆の平等なものであり、保護下に無い女』ってことね。女奴隷とおんなじ立ち位置にいるから、私たち気をつけなきゃ危ないのよねー」

「あの、ますますヴェール外したくなくなったんだけど」

「でもねえ、貴女を保護するものがいなくなっちゃったんだったら、のけなくちゃ罰せられるわよ?」

「すっごく怖いわよ! 耳をそぎ落とされるし、身に着けてるものも、全部の財産も奪われちゃうんだから」

 七菜は怖くなって耳を抑えた。

「で、でででも、それって保護下になかったらって話でしょ?!」

「あら、あなた既婚者なの?」

「違うけど」

「その若さで未亡人ってことでもなさそうだし。何? アテでもあるの?」

「あるわ」

「じゃあ男呼んで別馬用意してあげるわ。どこまでいけばいいの?」

「えっと、アッシリアの……」

 王の名前を言おうとして、ナナは思いとどまった。

 そうだった、今私はヒッタイトに生贄になりに行っているのだ。アッシリアに戻っても、再び死の恐怖におびえながら再び送り込まれるに違いない。むしろ逃げたという濡れ衣を着せられ即手打ちになるかもしれない

 だったらいっそ、このまま娼婦について行って、ヒッタイトに行き、先に解決策を考えれば……

「あれ?」

 今ヒッタイトは死の病気が流行っていると聞いた。彼女たちは何故そこに向かっているのだろう。

「あの、なんでヒッタイトに?」

「疫病流行ってるでしょ? 神殿で奉仕して神に祈るの」

「怖くないの?」

「勿論怖いわよ。死にたくないもの」

 まるで客観的に聞いているかのようにあっさり返された。本当にそう思ってるのか問いたくなるぐらいに。

「でもね、私たちにできることって、これぐらいなのよね。他の女性みたいに財産を持っていないし、保護下にもない。これといって特化してることもないし、だったら、できることを精いっぱいしたいのよ」

 そういってレセアは微笑んだ。

「どんな仕事だって、精一杯やればそれが人生の財産よね」

「そうなのかな」

「何生意気に反抗してるのよ」

 ゾーラに頬をつままれる。

「ココは素直に『素敵』っていうとこよ」

「あははっ!! なぁにそれ! おっかしいわぁ」

 楽しそうな彼女らに、ナナは笑えず、ただ狼狽していた。

(……うまく、うまく立ち回らなきゃ。考えろ私!)

 腕に違和感を感じ、服をめくり腕を見れば、イルタに渡された腕輪があった。彼女は大丈夫だろうか、いや、きっと大丈夫。

 深く深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

(大丈夫、大丈夫、大丈夫。よし)

「どうしたの? 大丈夫?」

「うん、ヒッタイトに行くのよね! 途中まで乗せて行って」

「ええ? アッシリアに戻るんじゃないの?」

「ヒッタイトに行く予定だったから、いいの!!」

「そう?」

 生贄にされる前に、病気を治す! よし、いざヒッタイトへ!!

誤字脱字等ありましたら連絡お願いします。

名前ミスとかもあるかも?

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