聞いてみたようで
「うーん」
驢馬と一緒に移動中。
うーん、バビロニアの人って……御髭が立派っていうか、もふもふしてるっていうか丸いカットがお好み?
「……どうかしたかね」
「い、いえ」
目を逸らす。いけない、女性が男性をじっと見つめるのは失礼なことだった。彼ら小隊は傭兵を雇ってはいるが、女性はほとんど連れていかないらしい。少なくとも三日ではヒッタイトはつかない。女性のいないこのメンバーでシリアまで行くのだが……
「ふん」
女性が商人として同行するのに、あまりいい気分がしないらしい。バビロニアの商人兼責任者のアフマドさんは鼻をならして前を見た。
ちなみに私が驢馬に乗っていない理由は一つ。乗れないわけじゃない。女が驢馬にまたがるなんてはしたないとおもわれるからだ。
日本の歴史でも、女性が馬に跨る様をはしたないと思われるのと同じだろう。
あれ? イギリスでもそうだったっけ?
「はぁ」
しかし、つかれた。
さすがに長距離は……サンダルだし。この時代サンダルかブーツしかないんだもの、足に優しくないわ。
「おい」
馬に乗ったアフマドさんの御子息、マーシャさんが私の横にやってきた。それについてきた従者が私が持っていた驢馬をつないでいた紐を奪い取る。
(えー?何よー)
「ほら」
マーシャさんが私に向かって手を伸ばした。
「え?」
「手を貸せ」
言われた通り、おずおずと手を伸ばすと腕をひかれた。
「きゃ」
まるでお姫様のように横座り状態でマーシャの前に置かれた。
突然の行為にも驚いたけれど、なにより自分の思わず漏らした悲鳴に驚いてしまった。きゃっだってさ
「あの、マーシャさん?」
「勘違いするな。父上の命令だ」
(何を勘違いするんだっての……ツンデレ?)
足は楽になったけど、この後お尻が痛くなるだろう。そして結構恥ずかしいんだけど。
「だ、大丈夫です!お気持ちだけで」
「カッシート人は女を歩き通しにさせる非常な人間だって思わせたいのか?」
「いえ」
「だったら、黙って抱かれてろ」
馬の振動が躰を揺らす。彼の腕が近くにあり、なんだか不思議な感覚。なぜ黙ってしまったのだろうと振り返ると
「わ、こっちみるな」
「なんでですか」
「なんで見るんだ」
「え、いやなんか黙ったから」
なんで怒られるんだろう。質問を質問返しされるとは思わなかった。
「……なぁ、お前」
「はい?」
「イナンナの顔を見たことあるんだよな」
「はい、ありますよ」
「そうか」
またそれきり黙り込んだ。
もしかして
「イナンナ、気になるんですか」
「な、そんなこと言ってないだろ」
気になるのか。
「ワタシより頭いっこぶん小さくて、黒髪は腰までの長さで、目とか鼻とか顔のパーツは、ぱっちりしてて、ちっちゃいですね。あぁ」
鼻で笑う。
「胸も小さかった」
「おま、女だろ! はっきりいうな!!」
「えー」
だって、男の人なら聞きたいかなって。
「まったく、変態め」
「え?」
思ったより低い声が出た。マーシャがおびえたもんだからにっこり笑ってごまかす。
「アフマドさん、うちの商連に、エジプト人が混ざってやがった!!」
「なんだと!!」
エジプト……人? が、なんだって?




