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現代→古代  作者: 一理
アッシリアのようで
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タイムトリップしたようで


 人は夢を見る。眠りについて見る夢と、起きていても見ている未来の夢。

 ただそれは人だけの特権ではない。生きている全てのものが見ることができる、平等なもの。

 だけどそれは、本当に『自分』が見ている夢なのだろうか

 もしかしたら、今自分がこうして生きているということ自体が夢なのではないだろうか。全てが『夢』で『現実』は実はもう終わっているのではないだろうか。


 この世界は、歴史の『夢』なのかもしれない。

 既に終わった過去を、未来としてもう一度描き夢見ているのではないだろうか……。




 ついさっき映画を見てきた。

 それはとても非科学的でファンタジーチックな物語で、それは『タイムトリップ』というもの。

 100年も前の過去の人が、現代へやって来て主人公を戒めるのと同時に成長させるというストーリー。

 最後は王道で役目を無事果たし、お約束な感動のお別れってものだったが

 まぁ、普通に悪くない内容でした。

 最後のシーンなんて、子どものように素直に感動して涙を流してしまったわけだけど。

 いやぁ、過去からやってきた人が男前気質っていうやつか分からないけど堂々として、ずっしり構えていて、まさしく男の中の男っていう感じだったのだけども


 ……えぇ。なんてのんびり過ぎた過去を回想してみたけれど、状況なんて変わりませんよね。


「実際問題、無理だよね普通」

 堂々と? そんなの無理だとはっきりと断言することができる。

 だって、私が今現在進行形で身を以て体験してるんだもの。


 私は紀伊キイカオル。20歳過ぎの普通の会社員で、最後に残っている記憶は久しぶりの休日に一人さみしく映画を見て満足して帰ろうとしていたところまでだ。

 あとはもう気が付いたらユーフラテス川に流されて浮いていたらしい。

 ちなみに私は生まれも育ちも日本国で、自分で海外に出たことは一度もない。あっても社員旅行で韓国に一回行ったぐらいなもので

 ……何が言いたいかというと、信じられないことに私どうやらトリップしたようです。

「カオル!」

 人の名前を大声で叫び、腰布だけつけた上半身裸の男が、見るからに怒った顔でこちらまで全力で走ってきた。

 この無数にある小石とただっぴろく乾いた外で、なぜズボンではなくスカートを彼は穿いているか。

 確かに気候は今暑いし昨日まで大雨降っていたからなお蒸し暑い、だけど上半身裸でなくてもいいはずだ。

 では何故彼は裸なのか。いや、スカート穿いているけど

「あんまり川に近寄るなよ。雨降った後なんだから!」

「はいはい」

「それから、都市から離れるな。手癖の悪い兵士に連れて行かれるぞ? アッシリアだって全部が全部治安がいいわけじゃないんだから……昔のこと忘れたわけじゃないだろ」

「やられそうなったら、バビロニアのハンムラビ法典執行するから、大丈夫」

 頭を無言で殴られた。

 目には目で、歯には歯で……でも、本当にハンムラビ法でやり返すなら私も手癖の悪い男に対して同じことをしなければいけないから、気を付けなければいけない。

 現代では『やられたらやりかえせ』やら『復讐』を認める意味だったりで使われているが、本当は倍返しや報復を禁じ、同等の懲罰にとどめて報復合戦の拡大を防ぐという意味のある方法らしい。

 つまり一発殴られたからといって、二発殴るというのはハンムラビ法典に違反するということだ。一発殴られたら一発殴ることが許される、それ以上行うことは再び殴られることになるということ。

 まあしかし、この世界では現代よりも女性の権利が弱いから何をするのも不自由だ。

 カオルは殴られた頭をなでながら青年をにらむ。青年は呆れたといわんばかりの態度で腰に手を当て顎をしゃくった。

「早く戻れ。女どもが探してたぞ」

「はいはい」

 先を歩く彼の背をついていく。もうお分かりでしょうか。

 ここはユーフラテス川とチグリス川の上流にあり、チグリス川沿いの高原地帯であり、クルディスタンやアルメニアの山岳地帯を北の背に、メソポタミアの低地をはるか南方に望む場所に位置している

 アッシリア帝国……おっと、補足しておこう。『古代』アッシリア帝国、である。

 すなわち、私は時代と国を超えトリップしてしまったのだ。

(正直アッシリアが今でいうどこかわかんないんだよね。まぁ、名前からしてシリアとか?)

 歴史だって、日本史でも興味なかったのに、外国の古代だなんて言われても分からないよね。

 なんでそんな私がここが古代と分かったかというと、エジプトのおかげ。

 今のエジプト王、トゥト・アンク・アメン……現代風に言うと『ツタンカーメン』さすがに彼がどの時代の人間だったかぐらいは覚えている。

 男がスカートを穿いて、上半身裸でも誰も何も言わないのは、そういう文化だから。

(ここにきて早一年と、半年……言葉もなんとか覚え、文字も少し覚えた)

 文字だって、漢字でもローマ字でもない、楔形文字というこのオリエントで言語の表記に用いられた文字で、エジプトのヒエログリフと並んで古く長く使われているものだ。

 現代なら考古学者でなければ分からないような専門的な文字ばかり

 それを私は一年をかけてやっと半分理解したくらいだ。もともと興味がないものはいくらやっても覚えられない私が死に物狂いで文字を覚えようとしているのには、理由がある。

「カオル! 仕入れた商品ちゃんとメモしたんだろうな!」

「あ」

「カーオールー!!」

 先に歩き背を向けていた彼はふり返り、人の名を叫んだ。

 この五月蠅い彼が河で流されていた私を助け、生きるためのことをいろいろ教えてくれた。そしてそんな彼の家はアッシリアの商家だったのだ。

 帰る方法も分からず、生き方すらも分からない私が選んだ道は、彼らの手伝いをするため、この時代に順応することだった……。

 言葉の通じない相手をここまで面倒見てくれた上に、住み込みで働かせてくれる彼らには恩義しかない。物覚えの悪い私に言葉を必死に教えてくれた、私はそれに報いたい。

 そのためにまず私はやらなければいけないことをきちんと覚えなきゃと彼に怒られながら考えるのだった。

「怒る前に自分の部屋に放置しまくってるメモだかなんだか分からない粘土板片づけろ!!」

「逆切れか!!」

 彼も私も負けず嫌い。家まで走って帰ることになった。

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