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現代→古代  作者: 一理
アッシリアのようで
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眠っているようで

 

 歓喜に沸く広場は騒がしいだけで何がそんなに嬉しいのか遠めの人には一切伝わらない。

 ロスタムは人の間を縫うように移動する。

「途中でもらった焼きトウモロコシも冷めちまった」

 両親はこの人ごみで動くことをやめてしまい、シーリーンは友達を見つけて談話をはじめ、動きをとめた。

 ロスタムは弟たちに出会ってそのことを伝えようと歩いているものの、この人ごみではどこにいるか分からない。目印の木まで行く自信もない。

 といっても広場からこの道は一本道だから人ごみで視界が邪魔にならない限り道を逸れるということもないので焦ることもないが。

「やれやれ、お」

 疲れたなぁと思いながらのんびり移動していると、二人の人影が見えた。人ごみを避けるように座っているのはハニシュといつもつるんでいる親友の一人シュルラットで、そばにいるのはハニシュではなく、シュルラットの嫁のマルヤムだった。

「よお久しぶりだなマルヤム」

「あら、ロスタムさん。お久しぶりでございます」

 優雅な仕草でゆっくりと頭を下げるマルヤム。

「どうしたロスタム、ひとりか」

「いや、先に行っててな」

「そうか」

 ロスタムはふとマルヤムの腹に目を向ける。

「……ん?」

「どうした」

 マルヤムはもっとやせっぽっちだった気がしたが、お腹周りだけ何やらやけに出ているように見える。もしかして

「よおロスタムじゃねーの、結局お前も来たのかー」

 腹について尋ねる前にハニシュが現れた。手には物がいっぱいで、途中店で売られていた商品がある。よくあの人だかりで買えたもんだと感心しながらも、呆れる。

「おめー相変わらず神出鬼没だな」

「そうだ、みんなで酒飲みにいこーぜ? マルヤムもどうだ?」

「結構です」

 温度が一度下がった気がした。

「つれねーなぁ、じゃあ男だけで」

「ダメです」

 二度下がった気がする。

 マルヤムは優しい微笑みを浮かべているのにもかかわらず、温度が下がっていく。

「ハニシュ」

 シュルラットがハニシュに声をかけた。

「悪いが。今日はもうマルヤムと帰る」

 帰るという二人に、さっきから気になったことを聞こうと声をかける。

「なあ、マルヤムってもしかして」

「あぁ、おめでただ」

 そういって、幸せそうに笑う親友を初めて見たかもしれない。今度お祝い持っていくと言えばマルヤムも幸せそうに微笑んでお礼を言った。

 うらやましいとも思うが、人生うまくいかないものだ。たとえ想い人がいたとしても、その想いは届かなければ意味がないのだろう。

 シュルラットは奥さんの肩をつかみ歩き出す。口を開けてぽけーっとしていたハニシュが驚いたように叫ぶ。

「なんでだよ。俺とお前の仲じゃないか、ええ? お前もしかして俺より奥さんとるのか?!」

 シュルラットはハニシュのおでこを指で突いて、口を開く。

「当たり前だろ」

「!!!」

 声にならない声を発したハニシュはその場で崩れこんだ。

 シュルラットはロスタムの肩を叩いて小さい声で言う。

「こうでも言わないと、こいつくじけないぞ」

 ロスタムは次自分に来るのだろう駄々っ子攻撃を思い苦笑いを浮かべた。

 去っていくシュラット夫婦を見送り、ロスタムも移動しようとすると、案の定ハニシュに服を掴まれる。

「俺家族待たせてるから」

「オレは家族じゃねーのかよ」

「いつから俺たち家族になった!!」

 男に抱きつかれてもうれしくない。ぎゃあぎゃあ喚いているとホマーが現れハニシュを蹴飛ばしていった。

 我が妹ながら容赦ないな。

「何してるんだ?」

「あのねカオルが倒れちゃったの」 

「なんだと!」

 サイードにおんぶされているカオルを見つけ、奪い取る様にロスタムはカオルを抱き上げた。

 顔色は悪いがそこまで深刻には見えない。

「俺がおんぶする」

 ロスタムは背負いなおし、カオルを運ぶ。

「俺一人で寂しい」

 ハニシュがそう呟くのをホマーは肩を優しくたたいただけで何も言わなかった。

「兄さんは本当カオルさんが好きだね」

「黙れ」

「私は好きよー」

 のんびり歩いているとカオルが背中で呻いたのが聞こえた。

「起きたのか?」

 どうやら異国の言葉を発しているようで、起きたわけではなさそうだった。

「……」 

 変な女だよな、気は強いし女のくせに筋肉質だし、可愛げないし……女のくせに文字を覚えたいなんていって男がやる様な仕事も、自分で言いだしたし。

 でも、一番不思議なのは何故自分が彼女のことをそんなに気にしているのか。

 初めて出会った日は干ばつが続いて川の水が珍しく低かった時だった。

 ふと散歩をしていて目にしたのは不思議な服を着た女が川を浮いていた姿。本来なら助けるなんて絶対ないのにどうしてか惹かれるように助けた。

「ううん、ロスタム……?」

 カオルの声が聞こえた。

「大丈夫か?」

「うん。だけど……」

「?」

 カオルの頭がロスタムの背中に押し付ける

「……ありがとう」

 寝息が聞こえた。

「……」

 二人の後ろをのんびり手をつないで歩いているサイードとホマーはその様子を見ながら邪魔をしないように歩幅を合わせて歩く。

「兄さん、どうしたのかしら」

「ホマー? しぃー。いいかい今は兄さん幸せいっぱいなんだからチャカしちゃだめだぞ」

 頬を紅く染めた兄を見ながら兄妹は微笑むのであった。 

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