『番外編』未来予知?
家でソファーに座りながらカオルは、横に座わる顔のよく似た姉、アカリと一緒に自然の映像がただひたすら流れるテレビを無心で見ていた。
なんとなくお互い沈黙。
「ただいまー」
「お帰りタクロー」
四歳下の弟、タクロー。
昨夜レスラー見て「この二人姉ちゃん達ぽいよね」とふざけたことをぬかしたので、ボコったばかりだったが、どうやら気にしていないらしい。
朝起きて遊びにいって帰ったら、もう忘れたらしい。さすが単細胞……と、言いたいが
悲しいかな、我が三姉弟の中では一番賢かったりする。おっとりしているせいだろうか、バカっぽい
「あれ? 父さん母さんは?」
「父さんは集会。母さんはママ会」
「晩御飯は?」
「作ってあるけど、いくらでほしい?」
とほほ笑むアカリ。
タクローは冷蔵庫を開けて、嬉しそうな顔を見せた。
「わー、ハンバーグだー。かちこちだー」
「チンしたらいいじゃん。っていうか、地味にスルーしたな」
「別にいいけどね」
アカリは立ち上がり、食器棚のほうへ歩いて行く。準備してあげるらしい。なんという優しさ。
もう七時とかになると、その場から動くの億劫になってきた。
「ねえタクロー」
御茶碗に白いご飯をよそおいながら、アカリはタクローに声をかけた。
「何?」
「今日はずいぶん汚れてるけど、部活しに行ったのよね? どうかした?」
「……別に?」
にかっと笑うタクローに、アカリは同じようににっこり笑った。
「言えないようなことしてきたの?」
「そんなんじゃないけどさ」
温まったハンバーグを机の上に置き、お箸を持ってご飯に手を伸ばすが、アカリは手を挙げてそれを阻止した。
「じゃあ言えるでしょ」
「ええー。なんでー?」
自然特集番組が終わり、よくある料理番組に移行した。
おいしそうな料理をグルメリポーターが食べて、なにやら工夫してコメントしているが
ぶっちゃけ視聴者からしたら、いらないんだよねぇ。そういうの……うん、おいしい! という言葉と、笑顔だけでいいよって思う。
「かーちゃーん、あっちゃんが苛めるぅ」
「お前の母ちゃんになった覚えはない」
「えぇぇぇえ」
スパッと切り捨てると、アカリが続けた。
「新聞部って、そんなに汚れるような活動なの?」
「まあね」
親指を立ててウィンクするタクローに、たぶんアカリもイラッとしたと思う。
声だけでイラってしたもん私
「危ないことじゃないでしょうね」
「ぜーんぜん」
姉弟だから分かる。タクローが嘘をついているということが。
「ほんとーに? 天地神明に誓って?」
「そ、そこまで?」
「えぇ。どうなの?」
タクローは視線を泳がせた。
「そうだねー。うん、なんというか『危ない感じっぽかったようでもそうでもなくて結局終わりよければすべてよしだよね』って話」
「却下。一言でいいなさい」
「結果オーライ」
机の上にお茶碗を置き、アカリが目の前に座った。
その眼はもう先ほどとは違う。
「もう、お父さんには黙っていてあげるから……もう変なことに足突っ込んじゃダメよ」
「うん、もう絶対しないよ。というか、別にそんな変なことじゃないよ」
へらへら笑いながらご飯を食べ始めるタクロー。
カオルは、なんとなくタクローの目を見つめる。
「……」
「……何?」
「なんか、朝と顔つき違うなって」
「男前になった?」
「「はあ?」」
アカリとはもった。即バッサリ切られたタクローはご飯を口に運びながらショボーンとした顔で悲しそうだった。
朝とは違う顔つき。へらへらしている顔には変わりがないが。なんというか、男らしくなったような気がした。一体どんな根性試しを行ったのだろうか
「まあいいけどさ、タクロー」
カオルはヘアバンドを除けなから、なんとなくふいに思ったことを言った。
「もちろん、私らに迷惑かけるようなことはしてないよね?」
びく。
タクローの手が止まった。
「……」
「……」
私たちはタクローを見て、二人顔を見合わせ、立ち上がった。
「ウン! ナニモシテナイヨ!」
「嘘つけ!」
「何した!!」
腕をまくり拳を握ったカオルと、ポケットから携帯を取り出すアカリ。
「や、やややや、た、やめたげてよー! 暴力反対だよー」
「小学校低学年の時のタクローの恥ずかしいスナップ……誰に見せようかなー」
「精神的暴力反対だよー! っていうか犯罪だよー!!」
この後。父が帰ってくるまで締め上げていたが、とうとうタクローは吐くことはなかった。
変なとこで意地っ張りなんだから。
まあ、今思うと
「あいつなんかしたんじゃないだろうか」
後ろでロスタムが小さくクシャミしているのが聞こえた。
「酒飲んで風呂入って、身体拭かずに寝ればそりゃ風邪もひくわな」
「うるさい……だいたい、お前がぁあ」
「はいはい」