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現代→古代  作者: 一理
エジプトのようで
133/142

先は読めるようで

「はい、水」

 川の浅い部分で子鰐を降ろす。ワニはすいーと水の中で泳いで行き、流されていった。

 カオルはその様子を見て、少し悩んだ。

「……ねえ七菜」

「ん?」

「何?」

「あれ、泳いでると思う? 流されてると思う?」

 七菜はきょろきょろして、子鰐を見つけたのか。ぽつりといった。

「流されてると思う」

「だよね!」

 カオルは急いで川の中に飛び込んだ。

 その様子を見て追いかけようとした七菜をイルタが抱きとめた。

「貴女はいけません!」

「えー」

 カオルは水の中に入りながらなんとか子鰐を摑まえることができた。

 子鰐にはまだ難易度が高かったようです

「うぶぁ」

 深い溝にはまり一旦落ちたものの、なんとか元の水流にもどることができ、流されずに済んだ。

 砂の含んだ水を飲んだのか、口の中が少しじゃりじゃりする。

 川から上がり、服を絞るためスカートを持ち上げた。

「ん?」

 と、視界に入るのは白い何か。

 太陽の光に照り返されよく見えないが、蜃気楼に揺れる大地がその存在をハッキリしているものと主張させている。カオルの心を反映するように風が強く吹いた。

「七菜!」

 カオルは叫んだ。

「何?!」

「逃げろ。私も逃げる」

 そういって走り出した。

 白い存在が迷わずこちらを向いてくるのが見える。狙いは私なんだからそうなんだろうけど、これが鬼ごっこだったら理不尽極まりない。いや小学校の頃わりと集中的に狙われていた気がする。

 人気者は辛いね!!

 叫びながら走るカオル。

「おぉ、なんかドラマみたい」

 七菜は全力疾走しているカオルと、迫るライオンを見ながらそんなことをぽつりとつぶやいた。

「女神様御手を! 馬に乗ります」

 イルタに手をひかれ、馬に跨る七菜。

 カオルの背を追うが、カオルは途中で姿を消した。若干悲鳴が聞こえる。

「あっついー! 摩擦痛いぃぃいい」

 滑り落ちて行ったらしい。

 よくわかる悲鳴でした。

「あの人は不運の星のもとに生まれたのでしょうかね」

 七菜は何も言えず、苦笑いで流した。

 後ろを追いかけていくと、ライオンの白い姿が消えた。

 同じように斜面を滑り落ちたのかと思ったが、どうやら違うらしい。

「紀伊さんの姿も見えないね」

「もしや」

 イルタの目線のほうを見た。

 ピラミッドの中へと続く穴がある。扉の様な四角い形ではなく、丸い穴。

 ―――あれはもしやよく聞く墓泥棒の形跡なのだろうか

(あの中にもしや紀伊さんは入っていたのかな……。うん、あり得る)

 七菜はイルタにあそこまで行くように指示を出した。


 そのころ、予想的中。どっかのアニメの如くすべり落ちて入ってはいけないピラミッドの中に滑り込んだカオル。

 濡れていた服は今やどろどろの真っ黒で汚れ若干破れていた。

 悲しくなるほど尻が痛い。

「……中に入ったら、ライオン来なくなったみたい?」

 後ろを向いて様子をうかがうが、追尾してきたような様子はない。狭いところには入らない主義なのだろうか。

 というより、あれをライオン括りでみていいのか、少し悩むところではある。

 細い通路をただ真っ直ぐ進んでいくカオル。

 暗く、何があるか分からないが、とりあえず戻ることはできない。

 壁に手をついて歩いていけば、ところどころ無理やり削られたように荒っぽい突起物があり、手を切りそうで触れることはできなくなった。

 支えもなく進めば、少し広い部屋についた。

「お、やったね。なんか明るいし、やっと周り見え……るね」

 松明片手に何やら重そうな袋を持った男が二人。

 こちらと目が合うと、固まっている。

 そりゃそうだ。私は偶然入ってきたが、彼らはやましい目的で入ってきてるんだから。まさか誰も入らない王様の墓の中に、偶然入ってくる女がいるとは思わないだろうしな。

「お邪魔しました」

 カオルは急いできた道を戻って行った。

 後ろでばたばた聞こえるから、たぶん追いかけてきてるんだと思う。とても怖くてふり返れないが。

 こんな狭いルートでどうにかしろと言われても、無理です。

「うわあああああ、こんなんばっかああああ」

 まるで誰かに自分の本来持っていた運をすべて根こそぎ奪われたかのような、全く嬉しくないほど不運遭遇の高さ。

 涙が出るね。

「うぎゃあ」

 いきなり落とし穴が出現しカオルは落ちたが、その幅が狭かったので体を全部使ってなんとか止まることができた。

「怖い怖い怖い」

 下を見ていると、上のほうで影が二回真上を通って行った。

 なんとか手を伸ばして元の位置に戻ることができた。光る出口のほうへ走っていく墓泥棒たち。

 よかった、こちらには気が付かなかったらしい。このまま戻っても袋のネズミなのでこっそり外に出ることにした。

「うぎゃああああ」

 悲鳴。

 カオルは外に出ると、首元をライオンによって咥えられた墓泥棒の変わり果てた姿。

 白いライオンは一応神様の化身として、墓泥棒に制裁を与えているらしい。

 こんなグロイの見たくなかった。

 吐き気を催しながら、カオルはこっそりその場を去る。

「ひぃぃ! おい、お前! 助けてくれ!!」

「がるる」

 もう一人の墓泥棒が、白いライオンに取り押さえられながらこちらに助けを求めてきた。

 おかげでライオンと目があいました。カオルは助けたい気持ちはあったが、目の前で赤い血が飛んだのを見て、即座に諦める。

「ごめんなさい!」

 私と出会ってごめんなさい。

 石段の様なピラミッドの段差を全力で登っていく。一段上がるごとに体力が減るが、下の砂場で逃げるよりは早いかもしれない。

 墓の中には入れないし。

「カオルー!」

 ロスタムの声。

「紀伊さん!!」

 七菜とイルタの声。

 えぇっと……


「名前よばれても、どうにもならないってばあああ!!」

 としか、いいようがない私を許して。

 

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