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現代→古代  作者: 一理
エジプトのようで
132/142

無理なようで

 後ろを見れば白いライオンが牙を見せて追いかけてきていた。

 なんかそういうゲームあるよね、あれ逃げ切れば勝ちだよね

「早いぃぃいい!!」

 私の代わりに七菜が叫んだ。

「ライオン早いー! 追いつかれるー!」

「女神様、私の言うこと落ち着いて聞いてください」

「わ、わかった! どうすればいい?!」

「黙って目を閉じていてください」

 背後でわめかれて煩かったらしいイルタさん。地味にそれ厳しいですね

 テンションハイだった七菜もしょぼーんと黙っている。

 こっちに来てからその顔よく見ます。

「……」

 アリーが突如馬の向きを変える。後ろに走る二人もアリーについて行くように、走らせていた馬の向きを変えた。

「あれ? あっちいくんじゃないの!?」

 七菜の叫びに、アリーが叫んで返した。

「さすがにあれ連れて避難民のとこ突っ込むとか、できないね!!」

「確かに」

 イブンが横に並ぶように馬を走らせて来た。

「では、どうしますか。捨てますか?」

「一応突っこむ前に聞くわ、何をだ」

 イブンががっつりこっち見ながら言うので、同じように見つめながら返した。

「とりあえず、町を出る」

「出るの?!」

 再び後ろから七菜の悲鳴にも近い叫び声が聞こえた。

「なんで? 道クネッテルほうが飛びつけないし、いいんじゃないの!?」

「あんまり行くと市場に入るんだよ。下手なもん踏んだら馬の足がやばい」

「それに、直進は得意でも、急な横移動はできませんから」

「なるほど!!」

 あいつまた分かってないのに、見栄とテンションの勢いで嘘を吐いたな。

 暫く建物の間を走り、町の外へと出た。

 砂が風に舞い目に見える。

「ついでに、この方が向こうさんだってやりやすいだろうしな」

 アリーが剣を抜いた。

「カオルちゃん、手綱握って」

「嫌な予感がします」

「このままぶっ刺しにいくから」 

 アリーはそういって、馬から飛び降りた。

 それ自殺行為!!

 心の中でカオルは叫びながら、馬が怖くてただ前を見ることしかできなかった。

 何度でも言おう。

「どどどおど、どうすりゃいいのさー!!」

 馬なんて、乗ったことありません。

 怖くて、混乱して、なにがなにやらのカオルさん。思いっきりカーブを描き馬が好きなコースを走り出していった。

 それについて行っていたイブンと、イルタは馬を止めた。

「どうして止まるんだ!」

 イブンの後ろでロスタムが突っ込むと、彼は眉を顰めながら説明した。

「あちらの方向は、ピラミッドがあるところです」

「ピラミッド?」

「ファラオのお墓?」

 イルタの後ろで七菜が聞くと、イブンが頷いた。

「彼女を止めなければ。近寄ることは誰であれ許可されていない……バレタら処刑だ」

「じゃあ早く追わないと!」

 七菜がそういうと、イルタは走り出した。が、イブンは走り出さず、馬を戻した。

「おい!!」

「私には、彼女に対して何の義もない、嫌なら降りて追いかけては? 私は、他になすべきことがある」

 ライオンに一人立ち向かっていった彼を取り戻しに行くのだろう。

 ロスタムは馬から飛び降り、馬の残した足跡を追って走り出した。


「ひやああああああ」

 カオルは絶叫しながら涙目でだた馬の行く方向を眺めていた。誰か止め方を叫んでください。もしくは馬から私を蹴落として下さい。

 自分では降りれまてん。

 綺麗な三角で完成されたピラミッドの横を通過しながら、それを鑑賞することもできないままカオルは素通りしていく。

「うえっぺっぺっぺ」

 叫んでいたら口の中に砂が入った。あと、目にも入った。

 カオルは砂を払っていると、手綱を離してしまい、そのまま馬から落ちた。

「うぺえええ!?」

 奇声放ちながらカオルは砂の上を落ちた。

 砂といえど、硬かったです。

「痛い、痛いわ……ん?」

 ここでようやくカオルは、自分がピラミッドの近くにいることに気がついた。

「中学のころの夢叶ったよ……しかも、新品で」

 確かピラミッドのすべてが精密に設計されたもので、意味も深く広くあるだとか

 石段の一つ一つに刻まれた文字らしきものがあるが、さすがにカオルには理解することはできなかった。

 死んだ者がよみがえる様に祈りと設計のなされた壮大な墓は、どこからどう見ても素晴らしい。

「わーすごいなー、中に入りたいなぁ、無理だよねー。うわーいいなーロマンだわ」

 と、感心していると、馬に踏みつぶされそうになった。

「うぎゃあ!? 何事!?」

「馬から落ちてくださってよかったです」

 ホッと胸をなでおろすイルタを、馬ごと見上げながらカオルは怪訝な顔を見せた。

「何? 私が落ちるといいことあるの?」

「そう怒らないでください、己の身の起こした不祥事でしょう」

「ぐうの音も出ないわ」

 砂を払い終わったカオルは、馬から降りた七菜に手を引っ張られた。

「平民はピラミッドに近寄っちゃダメなんだって! 見つかったらやばいから逃げようよ」

「そりゃいいけどさ」

 引かれた手にその身を任せ、一緒に歩き出したカオルだったが納得いかない顔で七菜に聞く。

「誰が見るの? 今王宮のほうじゃ内乱の制圧で手いっぱいじゃない?」

「こういうのはちゃんとそれ担当の監視員が居たり致します。浅はかな考えを持たぬように」

「……いや、別に見に行こうとはそんな深く思ってないけどさ」

「ちらっとは思ったんだ」

 七菜の鋭い突っ込みにカオルは目を逸らした。

 馬の手綱を引いて歩くイルタが深いため息を漏らし、横に並ぶ。

「貴女は意外と緊張感のないお方なんですね」

「……」

 歩きづらい砂の上を歩いていると、ふとカオルは思い出した。

「そういえばアリーは? 無事?」

「分からない。私たちは紀伊さん回収を優先したから」

「そうなんだ……ありがとう」

 歩き出すと腕を掴まれた。

 見れば七菜ではなくイルタだった。

「なんすか」

「ではないでしょう。貴女の行動パターンはもはや筒抜けですよ」

「ほう」

 再び歩き出そうとすると、強く腕を握られた。

 そういえばこの人武道派でしたね、掴まれた腕がとてもイタイデース

「ほう。ではありません。これ以上自分から危ないところへ行こうとしないでください。女神様も真似されて大変迷惑です」

「う、飛び火」

 どうやらイルタは自分がアリーのところへ戻ろうとしたのを察したらしい。

 胸がもぞもぞしたと思ったら、子鰐が顔を出した。

「お?」

 地面に落ちると、ざっざと砂を押し分け道なき道を進んでいく。

 子鰐が行こうとする方向を見れば、どうやら川があるのが見える。

「水が欲しいのね……」

 子鰐を抱き上げた。

 本当はアリーのほうへ行きたいのだけれど、ライオンから逃げている張本人が、わざわざライオンのほうへ行くというのは確かに変な話だろう。

 カオルは諦めて川のほうへ行くことにした。


「……でっかい鰐いないよね?」

「紀伊さん、自分でフラグたてないでよ」 

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