熱いようで
「熱いぃぃーっ!!」
カオルは火の海と化した屋敷の中を走り回っていた。
今思ったら、ラクダとか紐につなげてないし、危険回避力高いやつのことなら、とっくの昔に逃げていそうなものだ
もしかして、完全無駄足?
「!!」
甲高い音が聞こえた。
「あっちか」
中庭のほうへ走っていけば、ため池の中央の岩の上に口を大きく開けて泣いているワニと、体半分以上水につかっているラクダが居た。
なぜ逃げないラクダよ。
「よしよし、おいで」
カオルも池に飛び込み子鰐を抱き上げた。ラクダが首を伸ばしこちらの服を噛んだ。
「お前も、行くよ」
背中を叩くと、忠実に着いて来るラクダ。
まだ火の上がっていない裏口から邸を出ると、武装した反乱軍とがっつり目があった。
なんだこのクソゲー
「え、あ、ははは……ハハッ」
最後若干高めに星が付くように笑ってみたけど、通じないよね。
「アテン神信仰派か?」
「いや、どっちかっていうと仏教派です」
「?」
まあ、クエスチョン浮かびますよね。
男の一人が茶化されたと思ったのだろう、肩を振るわせ武器を構えた。
「我らと同じく、アテン神信仰するなら許してやるぞ」
「だが断る」
ここで「はい、そうします」っていえばいいのは分かってるけど。こういうのって許せない性質なんだよね。
何の神様を信じるかって、そんなの個人の勝手じゃないか
それを、武力で押さえつけて、無理やりなんて……そんなの神様だって求めてないだろう。
大体、今絶賛神様に反抗中なんだよ。
「あんたらはあんたらで、自分たちの神様崇めればいいじゃん、もともと幅広くいろんな神様を崇めてたんでしょ? 別に一柱に定めないで視野広くすればいいじゃんか」
「偉そうなことを、我らは他の奴らのように上辺だけの信者ではないのだ!!」
「へえ、そう」
カオルは目で周りを探った。どこか抜け道はないだろうかと思って希望を探したのだが……
うん、なんでここにこれだけの人いるんだろう。涙出てきた。
「カオル」
バットタイミングにロスタムが出てきた。
「うわあ」
「なんだよ、そのリアクション」
水浴びてこなかったのか、すす汚れている。彼も武装集団に気が付いたのか、目つきの悪い目をさらに悪くさせ相手を睨んだ。
「なんかどんどん、悪化していく気がする」
「火の中戻るか?」
「二酸化炭素中毒で死ぬよ」
なんだか地面を蹴る様な音がふたつ響いたと思ったら、武装集団の背後に馬が現れた。
彼らは悲鳴を上げて蹄から逃げる。
「!」
その馬の背に乗っているのは、アリーとイブン。……私の中で馬に乗る=あの二人。という方程式が出来上がった。
「カオル!」
急に呼び捨てか、と思いつつカオルはアリーの手を掴んだ。
イブンもロスタムを乗っけて走り出した。
馬に飛び乗りも慣れてきた。人生生きていると何があるかわからない。
「ラクダって、走れたんだ」
馬よりは遅いけど、めんどくさいという感情丸出しで後ろを着いて来るラクダ。
「そりゃ走れるでしょ。っていうかカオルちゃん、俺の寿命縮めることはやめてくれよ」
「どういうこと?」
「君が心配過ぎて、心臓が張り裂けそうってことさ」
「……」
後ろからイブンが追い上げてきた。その後ろにいたロスタムがアリーに声をかけた。
「おい、ナンパ野郎」
「なんだよ」
「こういうのってよくあるのか?」
「んー。いや、あんまりないね」
空の色が暗く、日が雲に覆われ隠れていった。
「王様が我を通したやり方を見せたから、それに感化したんじゃないの?」
「なるほど、上に立つものってやっぱり大事なのね」
カオルはアリーの頬をつついた。
「アリー、あんた王様の血ひいてんだってね」
「え、今このタイミングで俺のグレーゾーンつつく?」
「真っ向から言うほうが気まずいでしょ。っていうか別にそんな難しい話するわけじゃないし」
それに、イブンに睨まれるのも嫌だしね。
あ、もう睨まれてたわ。
「わたしバカだから難しいこと分からないし、若干最近適当になってきたんだけどさ」
「適当……」
「アリーも適当に流せば? 王様の血をひいていようが、なかろうが、アリーはアリーだし。あんたほどの狡猾な頭脳の持ち主なら、あの家に居なくても生きていけるでしょ」
「まあね」
「居させてもらってるってことで、恩義感じて家に居ついて。でもやっぱり息苦しくて外に出て」
カオルは声を小さくさせた。
「でも一人じゃ寂しいから、イブンを連れて行くんでしょ」
「……」
カオルはアリーの背中にそっと頭を押し付けた。
「アリーは強いよ」
「……カオルちゃん」
雨が降ってきた。
空を見上げれば、灰色の雲が空を染めあげ、天の滴を地に落としていた。
冷たく湿った空気が、上がっていた黒煙を崩していく。
「あれ、あそこにいるの七菜じゃない!?」
カオルが指差す方向には、明らかこの国の者ではない兵士が七菜たちを取り囲み、抑えているのが見えた。
「あいつ、ほんっとトラブルメーカーだな」
そういったカオルに、男たちは同時に「お前もな」と呟いた。
「うわああ」
再び馬で輪に飛び込み、兵たちを蹴散らした。イブンは馬から飛び降り、兵士たちを蹴散らしていく。
一人相手に四人の男たちは倒されていった。弱くないですか……?
「紀伊さん!」
七菜がカオルに抱きつこうとしたが、馬で差がありすぎたため、しょぼくれた顔で離れて行った。
「自国の兵士たちがここまで追ってきたようです」
イルタは冷静にそう言いつつ、兵士たちが乗ってきた馬を奪った。それに跨り背に七菜を乗せた。
「ルシアと、サイードさん、それにアズラーは?」
「わかんない。先行ったのかも」
あの人込みではしょうがないか。
とりあえず、王宮をめざし馬を走らせることとなった。
ぴっしゃーん。
走らせてすぐ、背後に雷が落ちた。
「……ッ!」
カオルは後ろを振り返って後悔した。
なんで、今なの?
「白いライオン!!」