私に風は向いていないようで
「まさか」
「女神なんだから、できるさきっと」
「そうさ、王様公認だぞ?」
広場はつい先ほどまで歓声が沸いていたのに、たった一人の一言によって疑心によって騒ぎはただのノイズに変わる。王様公認がどうした、偽物は罪人だろう。罪人は、裁かれてしまえ。
どろどろした黒い心が胸の中蠢く。
兵士が国民を圧制しようと動くも、野次馬の何人かが女神を罵る。このまま引っ込めばメンツ丸つぶれもいいところだろう。我ながら性格歪んでいると思う。
「女神様……」
偉い人が女神にすがるような目を見せた。
女神こと、ただの平凡人間の小野田七菜さん。
(さあ、お前の理想の女神を演じて見せろ!!)
「ふ」
七菜は困惑した様子を見せたものの、先ほどとは違う勝気な笑みを見せると、腕に布を巻いた。
「?」
「いでよ!!」
半分を身を乗り出し、布で巻いた手を大きく空に向けて伸ばした。
「……?」
強気の態度を貫く七菜だが、誰もが疑問符を浮かべている。彼女の後ろで冷や汗をかく偉い人や姫たちだけど、見守るしかできず、手を組んで祈ってまでいる。
彼らは知っているのだろうか、七菜が女神ではないということを。彼女は何故こんなことをしているのだろう。
「いでよ!!」
声高らかに何かを呼んでいるが、何も来ない。しびれを切らした国民がざわつき、七菜は焦りの表情を浮かべる。
彼女は一体何をしようというのだろう?
「あーもう!! 来いったら、来い!!」
来い、ともう一度叫ぶと同時に
「え」
びちゃり、と
女神の頭の上に、とれたての活きのいい魚が降ってきた。
「ひゃあ!?」
魚は跳ね回ると女神の傍らにあった大きな丸い布に体当たりし、中身をぶちまけた。
ぶわっ! ……布の中身はいろんな色の花びらで、風に舞い、テラスの下にいた国民の頭上を流れ散っていく。
その何とも言えない喜劇は国民を喜ばすには上等なものだったらしく、最初と同じく大歓声が沸いた。
「わー、花だわ! 綺麗ね! ね? カオル」
「……」
ポカンとしていた七菜が女官に手を差し出され、立ち上がる。ここからでも何故か見える彼女の口元は
―――さすが私、さすが神補正。
と言っていた。
なにが、なんで、頭が痛くなってきた。あぁ、本当になんでこんなっ、こんな、バカな。
「はああぁぁ!?」
「か、カオル!?」
視界が揺らぎ、意識が遠のく。
まったくもって、ああっなんで、こんなバカな話があっていいのだろうか。あり得ない。こんな物語があっていいのだろうか
「カオル!?」
「あ、あぁ、も、申し訳ないのですが」
呼吸を整え、一拍おいてから二人の顔を見て息を吐き出すように言った。
「気を失っていてもいいでしょうか?」
「……」
ナサ兄妹は顔を見合わせると、ホマーは兄の肩車から降り、兄と顔を見合わせ同時に言った。
「「どうぞ」」
「アリガトウ」
もう、頭痛いわ。
21世紀で生まれ育った人間が、この紀元前、古代という時代で女神として君臨して、のうのうと歴史を変えようとしているだなんて、いったい神は許していいのか?
私がおかしいの? 古代に来たのなら、古代で生きよ。っていうの? 現代のDNAを遺しても良いっての?それとも、彼女が言うとおり、七菜は神が選んだ女神で、これが神が望んでいることだというの?
(恐るべし、神補正……)
「カオル、唸ってるね」
「急いで連れて帰ろう」
「うん」
……でも、なんで魚?