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現代→古代  作者: 一理
エジプトのようで
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それどころじゃないようで

「どういうこと?」

「カオルちゃん!」

 中庭に急いで入ってきたのはアリー。

 他にもイルタ達も入り込んできたが、誰も彼も慌てた様子だった。

「何? どうしたの?」

「女神様になにをしているのです!」

 あぁ、胸倉掴んだままだっけ? カオルは手を離し、アリーを見た。

「何があったの」

「革命のなごりだ!」

「分からん!」

 イブンが剣を携え現れた。

「アテン神信仰派が暴徒と化し、この町を襲ってきたのです。この町はアメン神信仰派が多数いる町ですから」

「同じ神様じゃん! なんで暴れるほど訴えるわけ!?」

「倫理と思想は違うってことさ」

 確かに外でわあわあと騒音が聞こえる。

 ただ、暴走の使徒が来たからなのか、来るから逃げている民の出す音なのか、ここからでは分からない。

 カオルは空を見上げた。

「……」

 曇りの空は灰色で、雨も晴れにもならぬ意思を感じる暗い色を主張していた。

 風もなく、なんとも鬱蒼そした雰囲気だ。そのせいか嫌な感じがして、どうも不安な気持ちになる。 

「カオル」

 ロスタムに腕を掴まれた。

「逃げるぞ」

 荷物も持たず急いで外に出れば、そこは火の海

 すでに暴徒たちは迫っているようだった。

「そこまで主張するものって……」

 他の人が逃げる様に、同じ方向に逃げる。

 カオルはアリーの横まで走って大声で聞いた。

「これどこに逃げてんの?!」

「とりあえず、敵から離れてる。王が兵を挙げてくれるのを待つかない!」

「また行き当たりばったり!?」

 カオルはふと足を止めた。

「あぁ!!」

「どうした」

 ロスタムが問うのも無視して、カオルは来た道を戻り始めた。

 すんなり人ごみの間をすり抜けていけることに驚きながらも、迷わず進んでいく。

「カオル!?」

「ラクダと子鰐忘れた!! ちょっと取り戻してくる」

「んなもの放っておけ! 今は自分のほうが大事だろうが!!」

 ロスタムの言葉はもっともだ。

 けれど、放っておくことはできない。

「自分が大事なの分かってる! でも、あの子らも置いていけはしない!」

 あのラクダは一人だった。

 好んで一人なのか、たまたまなのか分からないけど、何故かあの場所から私についてきてくれた。

 たまたまかもしれないけど、ずっとそばにいてくれてた。

 あの子鰐は選んでくれた。

 実の親よりも何故か私を選んでくれた。甘えてくれた、探してくれた。

 意味なんてなかったのかもしれないけど、慕ってくれているようにも見えた。

 ここでは、守るべき家族も当然だ。

「ごめん! 先行ってて! ちゃんと戻ってくるから」

「って、言ってお前戻ってきた例ねーんだよ!」

 ロスタムもカオルを追う様に戻る。

 サイードが兄の名を呼ぶが、人ごみにまぎれ流されていった。

 それを見ていた七菜が、自分の手を握るイルタの手を振りほどき、同じように流れに逆らって走り出した。

「女神様! なりません!! あなたは、死ぬべきお方ではないのですよ」

「だからこそ、紀伊さんを守りたいんだよ」

「意味が分かりません! 女神様イナンナ!!」

 イルタの静止も聞かず、七菜もカオル同様人ごみを避け、戻って行った。

 人々は混乱と恐怖と、救いを求め、ただひたすら同じところを目指す。おそらくどこへ向かっているか分からないままに……

 各自まばらになっていく光景を見送りながら、イブンは自分の弟でもある主を見た。

「貴方もまさか行く気ではありませんよね」

「まさか」

 アリーは笑って、建物の屋根の上に上がった。

「戻るよ」

 薄らぼんやりした太陽を背に笑うアリーに、イブンは諦めにも似たため息を漏らし、同じように屋根に上がった。

 遠くのほうでは黒煙が上がっているのが見えた。

 王が兵を引き連れるころには、この町はきっと半壊になっていることだろう。

 だれかが手引きしているのか知らないが、ただの暴徒にしては侵攻がえらく早い。

「嫌な予感すんな、畜生が」

 アリーの暴言と笑みに、イブンも黙って頷き、同意した。

 先頭きって逆走するカオル。

 本当は分かっていた。

 これは仕組まれた罠。

「もし、神様がいるなら……」

 全知全能ではない神様へ

「運命なんて、やっぱりないんだ」

 決められたルートを歩いてやるよ。歩いたうえで

「ぶち壊してやる」

 私の恐ろしさ、見せてあげよう。

 カオルは水を被り、燃え上がる建物の中に、物怖じもせず飛び込んだ。

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