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現代→古代  作者: 一理
エジプトのようで
121/142

頭の中は眠っているようで

「女神様、前を見て歩きなさってください」

「わあ、活気あふれてるー!」

「そりゃ、市場だからねぇ~、今日は安売りの日だし尚だろう」

「へえ」

 先頭に七菜とイルタが並び、その後ろをカオルとアリーが続いた。さらにその後ろには意外にもイブンとルシアが会話しながらついてきている。

 カオルは周りを見て回りながら、何故か物寂しい思いになった。

 こんなにも周りは活気あふれているのに、何故だろう。

「わー、見てみてこれ何~? すごーい~」

「ん?」

「頭飾りだよ。かぶってみたら?」

「他にもある~」

 服飾の売り物をみて大喜びの七菜とは違い、カオルは別のところに目を向けた。

(今、子どもが大人二人に連れて行かれてた?)

 とても知り合いには見えない関係にみえたが、放っておくべきだろうか

 ……いや、ダメだ。

 その子どもが、とても気になる。

 カオルは迷わず走り出した。

「なんか買ってあげるよ。カオルちゃんは何が好……き?」

「さすが紀伊さん。すでにいないし」

 そこにはすでに後姿すら見えなかった。

 さておき、カオルは裏路地に入り込み、さっきの一組を探す。

「んんーぷあ!! 嫌だぁああっ! わあああん!」

「大人しくしろ」

「おい、袋に詰めろ」

「その前に猿轡だろ、うるさくてかなわんぞ」

「何してる!」

 男がこっちを見た。

「なんだ、女か。ビビらせやがって」

「死にたくなきゃあっちいってろ」

 そういって男は剣を構えた。

 怖い……。カオルはそう思って少し下がった。

 自分だけの力で男二人どうにかできる自信もなかったし、攻撃してもいいのか、という疑問もある。どうしたら……。

「へっへ、ほら、今なら見逃してやるよ」

「やーだああああ」

「黙ってろこの餓鬼!!」

 男が拳を子どもに振ろうとするのを見て、カオルは走り出した。

「なっ!」

 カオルはカンフー映画さながら狭い壁を蹴って、浮いて、男を蹴散らそうとした。

 が、現実はうまくいかず、壁にぶつかって思いっきり倒れこんだ。

(……なぜかっこつけた自分!!)

 今とても自分が恥ずかしいです。

 あまりにも全力な自滅っぷりに、相手の男達も困惑していた。

「なんか面倒だし、ほっとくか?」

「いや、よくみろ、珍しい顔立ちをしてるぞ、髪も剃ってねえし、肌も黄色い……レアじゃないか」

 両腕を掴まれ、壁に押し付けられた。

「痛いッ」

「へえ、上玉じゃないか? 少し味見てから売りさばこうぜ」

「そりゃいいな」

 スカートの中に手を入れられた。

「ややや、やばいって! ダメだって!!」

 今ノーパンなんだって!!!

 って、そういう問題じゃないけど。

 男は暴れるカオルにしびれ切らしたのか、剣を突きつけた。

「死にたくなきゃおとなしくしてろ!!」

 その言葉に、カオルの頭の中で何かが崩れる音がした。

『自分の身を守る。そのために他者を傷つけなければいけない。それは正しいことなのか』

『答えに悩んでいる間に、時間は流れ、選択すらできない状況になる』

『それが嫌なら』


「うぎゃ!!」

 カオルは思いっきり男に頭突きを喰らわせた。

「後悔は! したとしても、今はしない!」

 男は後ろに倒れこんだのをいいことに、カオルは起き上がり、剣を蹴り飛ばした。

 後悔先に立たず、ということで全力で後悔するかもしれない行為してやる!

 自分でも壊れて何思ってんのかさっぱりだけど、気にしない。

「うわあああ!」

 カオルは雄たけびをあげて、相手の剣を持った腕をつかみ、そのまま投げ飛ばした。

 呻く男に反撃される前に、カオルは剣を奪い取り急いで遠くに投げ飛ばす。

「大丈夫? おいで!」

 子どもを抱き上げ、そのまま人気のあるほうまで走り出した。

 心臓ドキドキいってるけど、なんでだろう。

(走り出した後は、怖くなかった……吹っ切れたのかな……?)

 自分が手慣れてるようにも思えたが、そんな怖い行為手慣れててほしくはない。

 男たちの声も聞こえなくなり、市場に再び戻ってきた。

「ふう、もう一安心だよ。怖かったね」

 子どもをおろし、頭を撫でると。少しの間だけ放心していた子どもが、ハッとしたように涙をためて叫んだ。

「ねえ、たん……ねえたん~、ねーたんー! うわあああん」

「お、お姉さん探してるの? お姉さんどこだろうね!?」

 抱っこして頭を撫でると、すっと泣き止んだ。

「ねえたん。忘れちゃったの?」

「え?」

 子どもは涙目でこちらをじっと見つめた。

「ラシードのこと忘れちゃったの……? 『これなに』遊びしたのに」

 いっぱいしたのに、と言いながらぽろぽろ泣き出す少年。

「ご。ごめんね。私今記憶喪失……えっと、ねーたんは、今、頭の中がおねんねしてるの」

「ねんね?」

「そう、目が覚めるまで……まってくれる? ラシードちゃん」

「ん。待つ。いつ目が覚めるの?」

 さあ、いつ覚めるのかな。

 目を泳がせていると、声が聞こえた。

「ラシード!」

「ママ!」

 美しい女性が駆け寄ってきて、こちらを見て驚いた顔をしていた。

「まあ、カオルさん」

「え、貴女もご存じなのですか?」

「ええ?」

「ママ、ねーたん。頭の中おねんねしてるんだって」

「まあ……」

 幼児向けの言葉だったけど、母親はどうやらカオルのリアクションで察したらしく、神妙な顔つきをした。

「ここにいらしてるだけでも不思議なのに、本当不思議というか、えぇ、不思議な方ですわね」

 結果。不思議しか言ってませんよ。私ドンだけ不思議人間なの?

「カオルちゃん!」

 アリーが走ってきた。

「探したんだよ!!」

 七菜ちゃんもやってきた。

「ごめんね、気になったもんだから」

「ねえたん、怖い人からラシード助けてくれたの」

「まあ!!」

 母親がカオルの手を掴んだ。

「ありがとう! ありがとうカオルさん。貴女は恩人だわ! ぜひうちにいらして、御馳走したいわ」

「でも、連れが居ますので……お気持ちだけで結構です」

「いいえ、そういうわけにはいかないですわ。ぜひお連れの方もどうぞ!」

 ラシードもいこーと髪を引っ張るので、どうにも断れなくなった。

 よく状況を理解してないはずの、連れ一行はカオルの様子を見て頷いた。

「なるほど、人助けのお礼か」

「察しがよすぎて悲しくなってきたのは何故かな」

「じゃあ行こう行こう」

 アリーがそういうと歩き出す一同。そういうつもりで言ったわけでも、礼をしてもらいたくて助けたわけでもないのだが……というか、何故アリーに決定権があるのだろう。

 解せぬ。


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