出る杭になりそうで
ガラガラガラ……荷車に載って私たちは首都に来ていた。商品買い取られて暇だから、首都にでも行って女神でも拝んでやろうというただの野次馬根性だったわけだけど
「いかんな」
馬をひいていた老使用人のダッドさんは頭を困らせていた。
さすが女神人気というか、人が多すぎて馬も前に進めない状態らしい。ナサ家以外の家の馬車も同じ場所を目指しており、人ばかりで渋滞をおこしていた。
「腰痛い。荷車かたいー」
ホマーが文句を言い始めた。シーリーンやマミトゥさんはなんとか宥め様としていたがただをコネはじめ肩をすくめた。その様子を見たアクバルさんは仕方ないなと呟いてサイードさんを呼んだ
「サイード、先にホマーを連れて広場にいってきなさい」
「はい、任せてください。さぁホマー歩けるかい?」
子ども故に大人の身長の半分しかないホマーは人ごみに降りると、すっかり姿が見えない。サイードは笑いながらホマーを肩車した。視線が高くなりホマーはきゃっきゃと素直に喜んでいた。
「カオル」
「はい?」
「お前も一緒に先に行って居なさい」
「え」
正直女神に微塵も興味ないから、荷物番をと言ってダッドさんと一緒に荷車に居ようと思っていたというのに、家主は私も行けという。
カオルは雇用主の命令は断ることもできず、しょうがなく素直に「はい」と返事し、サイードについて行くことになった。
人ごみを避けながら歩く。
皆どうやら城からもらえる商品のため長蛇の列を作っているようだった。まぁ貰えるものは貰っておかないと損だし、それがメインでもあるから仕方ないとは思うけれど……なんというか
「バーゲンセールみたい」
「なにそれ」
「独り言ですよ」
笑ってごまかしながらなんとか広いところに行く。やはりこの人だかりで何度かはぐれそうになったが、肩車しているホマーのおかげで見失うことはなかった。
広場に行くには縦に細長い一本の木を目印に行けば辿り着くと言われたが、それすらもこの人だかりで遠く見える。
「はぁ、すごい人だね。カオルさんはぐれないようにね」
「サイードさん、ロスタムさんよりも身長あるから、どうにかはぐれずにすみそうです」
「ははは! そっか」
「ねえ見て」
ホマーが指差す方向へ目を向けた。
城のテラスには着飾った姫と女神の姿。異国の顔立ちは結構差が出るようだ。日本人特有の顔を持つ七菜は、隣の姫よりもとても幼く見える。といっても、姫の年齢など知らないが
やはり古代の姫は雰囲気から淑女という感じがする。七菜と比べてみても品の違いがよくわかるし、周りの男たちがデレデレしているのが見えて、女としての性か無性につねりたくなる。この時代の男はふっくらしたほうがやはり好みなのだろうか……?
その姿がはっきり見えるようになったとき、やっと広場にたどり着いた。帰りのことを考えるとうんざりしてしまうのは私だけなのだろうな
サイードの上でホマーは目を輝かせ感動していた。
「わー、マホジャ姫だわー! 綺麗ー!!」
「女神様ー!!」
「きゃー! すてきー! 姫様ー! 女神さまー!」
どこのアイドルコンサート?
興奮する観客に対し、冷えた感情で皆が見る方向へ目を向けた。女神と自称する少女のその姿に気が付いた人々がテラスに向かって手を振る。
姫は民のそれにこたえるように手を振りかえし、美しい笑みを返す。女神もドヤ顔で手を振っているもんだから、イラっとした、けどどうすることもできないし、ストレスになるだけだからもう気にしないことにした。
「私はそこまで心狭くないはずよ。うん、落ち着けカオル。相手はただの……そう、女神なん……なんだそれ」
気にしないことにしたはずなのに、がっつり意識してしまっている。
国民はしばらく姫の名を讃え、女神を崇めている途中に王が現れ、ひときわ大きな歓声が上がった。
王はそんな民に対し日ごろの疲れを礼賛し、女神にまわした。
「イナンナ様ー!!」
「皆来てくれてありがとうー! 私は幸せです。皆にもこの幸せを分けたいな」
どこのアイドルだ。
「というわけで、私……歌います」
本当どこのアイドルだ。
アカペラで七菜は歌った。楽しそうな声、不思議な国のイントネーションに、透き通る少女の歌声にみんなは満足そうに手を叩く。何故歌いだしたのか激しく気になるが周りの人が突っ込まないので逆にそっちのほうが不思議で堪らなかった。
……しつこいようだけど、この状況で普通歌わないでしょう
「どこの国の言葉なんだろう? とっても素敵なリズムね!」
「女神なんだから、きっと神の世界の唄なんだろう」
「いやあ、さすが女神様」
みんな褒めちぎってはいるが、彼女が神の世界から来ているなら、私も神の世界から来たことになる。そして、あれは神の唄なんじゃなくて、ただのアニソンだ。しかも私も聞いたことがあるアニソンだ。
分からないことはすべて奇跡になるのはわかる。証明できないことは神の御業。
けれど違う、これは私にとっても古代にとっても奇跡でもなんでもない。そうだ、本当に女神なら奇跡でもおこしてみろ。
「……女神なら、奇跡でも起こしてみなさいよ」
そう呟いた声を誰かが拾ったのか、大声で
「そうだそうだ女神の奇跡が見たい!!」
といった。
いや、見たいとは私一言も言ってないんだけど。
「是非!」
「イナンナー!!」
こうなったらもう止まらない。便乗しよう。
「みせろー!」
やんや、やんや言っていると、偉い人が出てきて女神はそんな安請け合いしないのだといい、事態は収拾に向かっていたが、周りの雰囲気に飲まれて気分が高揚していた私は、ちょうどみんなが黙ったタイミングで叫んでしまった。
「女神の力なんて、本当にないんだろー!!」
……空気がしん、と静まり返った。
(あぁこれってもしかしなくとも……)
「やばい?」