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現代→古代  作者: 一理
エジプトのようで
119/142

真っ白なようで

 声が聞こえる。遠くで誰かが私を呼んでいる。

 誰? 私の手をずっと握ってくれる人は誰? とても安心する、ずっとこうしていてほしいな……

「紀伊さん!!」

 まるで水槽の中にいたのに、水が引いていくような、そんな肌寒いような気配に覆われた。

 うっすらと目を開けると、見知らぬ少女が必死に人の名前を叫んでいた。ゆらゆら揺れているここはどうやら小船の上らしい……いつの間に?

 

「紀伊さん! ああよかった。やっと目が覚めた!! もう一週間も眠ってたんだよ!」

「……」

 一週間も眠ってたら入院ものだろ。

 ここ明らか病院じゃないし、何言ってるんだろうこの娘

「いっつ……」

 頭に手を伸ばせば包帯が巻かれていた。

 これで一週間眠ってたって手術もんだろ普通

「カオルちゃん!」

 はちみつ色の青年が抱きしめてきた。

「うぎゃああああ!?」

 びっくりして蹴飛ばした。

「ぐえ」

 呻き声と一緒に川の水しぶきが跳ね上がった。

 拒否とともに出た足が彼を蹴飛ばしてしまったらしい。

「あ!ごめ……っ! Sorry to have put you through so much trouble.(ごめんなさい、お怪我は無いですか)」

「うわー!! アリーさん大丈夫!?」

「カオルちゃん酷い!」

 川から出てきたアリーと呼ばれた男、横に控えていた男がこちらを思いっきり睨んできた。

「相変わらず暴力的ですね。せっかくあなたを助けてやったというのに」

「やめろよイブン。なんか様子がおかしい」

 彼らは英語を話していない、もちろん日本語じゃない。なのに、なんで言葉通じるんだろう。

 っていうか、何語それ

「えっと、どうしちゃったの? もしかして俺のこと覚えてない?」

「I'm afraid you are speaking to the wrong person(人違いをしているようです)」

「紀伊さん、英語じゃ伝わんないよ」

「……なんで、君も私の名前知ってるの?」

 きょとん、とした顔で見られた。

 こっちがきょっとんってしたいよ。

「もしかして……記憶喪失?」

 七菜の言葉に少年が持っていた果物かごを落とした。


 ……あれからしばらくして私たちは自己紹介をした。

 小野田七菜という少女は私に詳しく話したいことがある、と真剣な目で言ってきた。

「今?」

「ううん、別に船から降りた後で良い」

「そう」

 なんで、この娘ため口なんだろう……仲良かったのかな。

 この子と従姉妹とか? いやその記憶ないな。

 アリーという青年は濡れた肌を気にせず、何か悩んでいる。

「どうかしましたか?」

 蹴っちゃったところ痛いとか? 覗き込むと、手を掴まれた。

「記憶忘れちゃったってことは……俺と恋人同士で、今から両親に挨拶に行くっていうのも、忘れちゃったの?」

「な!?」

 顔が熱くなるのが分かった。

「わ、すれた……? て、あ、ああのあの」

「ふーん? じゃあ、今から確かめてみる?」 

 アリーの顔が近くなった。

 胸がドキドキする、恋人だったの? この人と……

「……否!!」

 どーん、ばっしゃーん。

 二回目の強制飛び込み。

「否って……紀伊さん」

「私はそんなチャライ男好きになるはずがない!」

 はず……と小声で付け足す。

 七菜は船の下を覗き込む。

「聞こえてないと思うよ」

 イルタがため息を吐いた。

「遊ばないでください。目立ちますよ」

「いえ、遊んでるわけじゃないんですけど……」

 ばっしゃーん、と出てきたアリーにタオルを渡すイブン。

「さみー」

「記憶戻った時恐ろしいことになりますよ」

「分かってないねえイブン」

「は?」

「これはチャンスなんだぜ? 出会う時間に差がついてたけど、今はそれがリセットされた状態。そうなれば俺があの生意気坊やに負けるわけないだろ?」

「その言葉がすでに負けフラグです」

 小舟がすいーっとある豪邸の中に入って行った。

「今更なこと聞いていいですか」

「何?」

「私いままでどこで何してたんですか?」 

 そして何故ここにいる? というかここどこ? なんでコスプレしてるの?

「まあ、説明はちょい待ち。イブン、俺の部屋連れていっといて」

「はいはい」

 船から降りると、明らか鬘っぽい頭の女性がワラワラ現れ、イブンに頭を下げている。

「アトゥム様がまた女を連れ込んだ。丁重に扱う様に」

「はい」

 彼からマントや剣を受け取り、下がる女官たち。

「イブンさんって金持ちなんですね。アトゥム様ってどちら様?」

「俺の本名だよ」

 アリーがスタスタ歩きながら戻ってきた。

「目が覚めたばっかで疲れたでしょ、部屋用意させるから休みなよ」

「ありがとうアリーさん」

「アリーでいいよ。ずっとそう呼んでたし、ね」

「そう? アリー」

 カオルは自分の肩を持つアリーの手にそっと触れた。

「なんか手慣れてますね」

 その一言に笑顔でかたまったアリー。

 気にせず女官に言われるまま歩き出すカオル達。

 イブンはアリーのほうを見ながら、ぼそっとつぶやいた。

「記憶失っても確実に見抜かれてますね」

「異性として意識してるってことだよ」

「清々しいほど無理やりな楽観的解釈ですね。……父はなんと」

「いつものどおりさ」

 そういって少しさみしそうに笑うアリー。カオルはなんとなく戻ってきたが、声かけづらくなり何も言わず部屋へ向かった。

 人には人の事情がある。他人が突っ込んでいいことではない……が、聞きたくなることもある。

 いやまあ、聞かないけど。

 とりあえず、今聞いておくべきことは一つ。

「あのー、イルタさん」

「なんでしょう」

「私ってアリーさんと」

「ええ、ちがいますよ」

 うん、聞く人を私は間違ってなかった。そして疑って問題なかった。

 本気でよかった~恥かく前で

「ですが」

 怒りに拳を震わせていると、イルタは眉一つ動かさぬ涼しい顔で言った。

「貴女のことが好きというのは嘘偽りないようですよ。目を見ればお分かりでしょうが」

「イルタさんって……客観して人生みてるんですね」

「ふふ」

「……なんか笑うこと言いました私?」

 笑った顔初めて見た。

「いいえ、ところで、女神様の用件はお聞きにならなくてよろしいのですか」

「女神様?」

「イナンナ様のことでございます」

 いや、それが誰か分からないんだけど……七菜に呼ばれてた気がしたな。

「じゃあ、先に部屋入らせてもらいますね」

「ええ」

 中に入ろうとすると、タオルを持ったルシアと目を輝かせた七菜が飛び出てきた。

「紀伊さん花風呂だって! 凄いよね! 入りにいこ!」

「え? 話は?」

「ほら、いこ!!」

 手を引っ張られた。

 と、スカートに重い感触を感じ振り返った。

「わん」

「!」

 犬だ。かわええ。犬だ。かわいい。犬だ!! 

「御手、お座り」

 足元にすり寄ってくる犬に全力で愛ではじめたカオルに七菜は遠い目をした。

「えー、お風呂行こうよお」

「先いってて~愛でるから」

(目が輝いてる……)

 七菜はしぶしぶ去って行った。

「イビザン・ハウンドだ。すらっとしてて美しい。耳がいいでかくて立ってて、良い! まだら模様かわいい!!」

 記憶喪失っていっても、そういえば映画館に行く前のことは覚えてんだよな。

 ふと手を止めて考える。

 映画館からなんで船乗ってたんだろう?

(なんで急に記憶飛んだんだろ……っていうか自分思ったよりも冷静なのなんで?)

 はー、さっぱりさっぱり

手が冷たくてなかなか執筆に集中できない一理です。

カオルさんは意外と流されやすい性格のようです

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