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現代→古代  作者: 一理
バビロニアのようで
115/142

迷子のようで

 やはり新年は商品の売り上げが、通常より何倍も跳ね上がる。

 カオルは覚悟はしていたが、ぐったりしていた。朝から商品だしたり、お客さんの声につかまって迷子探せと言われたり

(疲れた……)

 やれやれ、迷子サービスセンターなんてないからね、もう戦争だわ。

 はぐれた子どもは泣き叫ぶわ、親は喚くわ。壊れた商品を買ったとクレームはつくわで……しかも迷子を探し出す方法なんてすごい。

「わーん。お父さんお母さん!!」

「……」

 子どもは迷子になったらできるだけ高いところに上る。

 で、叫ぶ。

 阿鼻叫喚な子どもたちを見上げながらカオルは遠い目をした。

「そりゃ効率的ですが……」

 もし、自分で登れない場合は周りの人に意思表示するらしい。

 ちなみに、親は一旦子どもを目にしたらとりあえず買うもん買ってから回収に向うらしい。そこは子ども優先したげて。

 いろいろなんか……すごいわ。

「紀伊さーん!!」

 なんか聞こえた気がする。

「紀伊さん、紀伊さん、紀伊さーん」

 聞こえない聞こえない。聞こえなーい。

「カオル、呼ばれてるわよ」

「でしょうね」

 声を頼りに姿を探すと、近くの木の上にしがみついている七菜の姿があった。

 前回の様に美しい恰好ではなく、ごくごく普通の控えめな格好。

「なんしてんの?」

「わかんないよ!! なんでか周りの人に声かけたら登らされたの!!」

 迷子乙。

 忙しいからと無視を決め込んでもいいが、人の名前連呼されるのはたまったもんじゃない。

 カオルは仕方なく構うことにした。

「降りてきたらいいじゃん」

「怖くて降りれないの……」

「これだから現代っ子は」

「紀伊さんは田舎の大将って感じだね」

「殴るぞ。……ほら」

 下から手を伸ばした。

「落ちて来い」

「怖いよ~」

「……」

 その様子を見ていたらしいシーリーンが、後ろから急に現れて面白いものを見るように「ニコッ」と微笑んだ。

「サイード呼んできましょうか?」

「うお、あ、いえ、大丈夫です」

 カオルはスカートを少しめくり広がらないようにくくり、木に登った。

 正直そんな高い木じゃないし、このぐらいなら余裕。

「ほら」

「わー、紀伊さん!」

 カオルは真顔で飛びついてきた七菜の頭を掴んだ。

「さて、どうしようかな」

「なんでつかむの? ねえねえ、なんでつかんでるの?」

「どう降りようかな」

 上るのはお手の物だ。

 しかし、人を降ろすのはちょっと……

「……やっぱ」

「うぎゃああ、嘘だよね!? やめてよ?! やだ、やああああだあああ」

 方法を口にする前に暴れだす七菜。

 両手を思いっきり振り、全力で否定していた七菜が混乱の果てにバランスを崩したので、七菜の頭の上に置いていた手をさっさと離すと、彼女の体が横に倒れていく。

「うぎゃあ!?」

「よっと」

 落ちてる最中に彼女の腕をつかんだ。

「痛っ!」

 宙ぶらりんの状態で彼女の手を離すと、無事着地。

「ああ、怖かった!! あぁ、怖かった!」

「腕が骨が……っ」

 カオルは地味に痛がりながら木から飛び降りた。

 七菜の腕を掴むとき、重力の重さで腕の骨がぽきっていった。地味に痛い。捻ったかもしれない……。

 しかし、口にすればまた馬鹿にしてきそうな小娘なので、痛いのを我慢し、冷たい目で問う。

「で、何しに来たの? さっさと帰れ帰れ」

「その前に紀伊さん」

 泣き顔だった七菜が、急に真面目な顔でカオルの服を掴んだ。

「ルシアを探して!! いなくなっちゃったの!!」

 この場合どっちが迷子なんだろう。

「どうした」

「あ、ロスタムだー」

 ロスタムを呼び捨てにして指差す七菜を見て、彼は隠そうともせず嫌そうな顔を見せた。

 それは次期商人当主としてはどうなのだろうか

「お連れ様を探してるんですって」

 シーリーンがそういうと、彼は肩をすくめた。

「俺達には関係ないな。ほら忙しんだ仕事しろよ、おめーら」

「あら、まあ」

「んー……」

 捻ったかもしれない手首をさすりながらカオルは、七菜を見た。

 七菜は、泣きわめくかと思えばそうでなく、スタスタとロスタムの前を通過し、商品に群がる人の中に入って行った。

 数分したのち、彼女はぐったりした顔で人ごみから出てきた。

「……」

 手にはうちの商品のイシュタル象だった。

「……」 

「ほら! 見て! 商品買ったよ。私お客さんだよ!」

 ロスタムに見せつけ、そう言い放ち、外を指差した。

「探すの手伝ってくれるよね?」

「む、む」

 ロスタムは悔しそうに口を噛んでいる。

 カオルは彼の肩をぽんぽんと叩いた。諦めろと言う意味で

「探すのもサービスだと思えばいいんだよ」

 ルシアなら賢いからすぐ見つけ出しそうだしね。

「で、紀伊さんには話聞いてもらいたいんだ」

 服を掴まれた。

「や、うちそういうサービスしてないので」

「違うよ!」

 分かってるけどね。

 七菜はなかなか信用できない。言ってることに嘘は一つもないのは分かるが、エゴが多い。

 信用がなくなるって怖いなぁ、なんて

「紀伊さん」

「もうお前に聞くことなんてない」

 ルシアを探しに歩き出すと、悲しそうな声が聞こえた。

「御願い、聞き流してもいいから……私の話聞いて」

「それ何回目? ようするに、私はこのままいたら死ぬ、で、お前が女神になれない。だろ」

「確かにそうだけど、それだけじゃない!」

「何?」

「この世界は……私たちの知ってる古代の世界じゃないんだよ」

「……」

 カオルは振り返った。

「そもそも古代の時代なんてあいまいで知らないじゃん」

「屁理屈っていうんだよ、それ」

 子どもに正論言われた。

「紀伊さんも、違和感に気が付いているんじゃないの? ……この世界の」

「世界というほど回ってないから分からないけど。違和感はあった」

 時代が混ざっているということ。

 そして、不確かなものが存在していること

「……」

 それが何を意味しているのか、私には推し量ることはできない。

 答えなど、知るべきものが教え説かなければ無知なるものが理解できるはずがないだろう。

 知らず損をしようが、生きていけるならそれでも構わない。

「御願い、紀伊さん。聞いて」

 うるうると瞳を涙で溢れさせ、人の服を離さない少女。周りの目が痛くなってきた。

「……。分かった……聞くだけ聞くから」

 でもきっと、私の意思は揺るがない。

 しかしだ、なぜそこまでして私に執着するのだろうこの娘。

 私が死のうと、死なまいと、彼女が女神になるという希望は薄いというもの

(……そうか、こいつ)

 現代でぼっちだったな。

 友達居ないから必死なのか……!?

(ってまあ冗談はおいといて)

 カオルは七菜の肩に手を置いた。

「とりあえず、ルシア見つけて仕事がひと段落した後でいい?」

「うん」

「じゃあ終わるまで私の部屋で待ってて。場所知ってるでしょ」

「たぶん」

 とぼとぼ歩いて行く彼女の後姿を見送り、カオルはルシアを探すことにした。

 にしても、彼女は両極端だ。お供を連れるときはこれでもかってぐらい連れてくるのに、居ない時はいない。

 二、三人連れてくる程度でいいのに。

 ……来られること自体迷惑だけど。

 先に探しているだろう、ロスタムとシーリーンのところに行くと何か言いあっていた。

「だああ、面倒だなぁ。つか、ルシアって誰だよ」

「ロスタム、直感でぴっしゃーんって見つけれないの?」

「無理いうなよ姉さん。俺顔すら知らないんだぞ」

「そう、まあそうよね。カオルの時限定よね。キモいぐらい見つけるの早いの」

「姉ー!!」

 イヤイヤ探しに出た割には、なんだか楽しそうだった。

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