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現代→古代  作者: 一理
バビロニアのようで
113/142

嫉妬したようで

「はあ……寒い」

 寒いなあ。寒い。どうしてこんなにも寒いのだろう。冬だから寒いのは当たり前だけど、こう寒ければ炬燵が恋しくなる。

 古代での暖のとりかたって、とっても簡単だなあ。お子様はハーブスープ、大人はビール飲んで毛皮着込んで、暖炉に火をくべるだけ。なんだかセレブっぽいなあ

 ま、私の寒いっていうのはどっちかっていうと

「あー、ロスタム温かそうでイイね」

「……」

 アリーシャが右に、ミラが左に、それぞれロスタムに寒いから~という理由でくっついている。

 彼はカオルの皮肉に何も言わず、黙って遠い目をしている。とても仕事がしにくそうだ。

「……あ、ロスタム。この受注っていつのやつ?」

「どれだ?」

 手を伸ばし渡そうとするが、腕に絡みついていたアリーシャがそれを許さず、彼女が開いた手でカオルからそれを受け取った。

(解せぬ)

 そして、それを決してロスタムに取らさず、彼に見えるようなおくっついて見せていた。

 さすがの彼もあきれ顔でため息ついた。

「あのなあ、お前ら」

「なんですの? もちろんお邪魔しませんわ。こうしていれば見えますし、書いてほしいモノがあれば私が書きますわ。私、文字もかけるんですの」

「私も書けますよ。もちろん」

 ミラがそういってロスタムに微笑んだ。

「いや、俺自分で見たいんだけど」

 人間にはモテ期が一度はやってくるという、だがそれは幸運を運ぶこともあるだろうが、本人にとっては迷惑でしかないものも少なからずあるだろう。

「……」

 恋人がいる者にとっては特に。

「あの帰ってもらえませんか?」

 カオルは、とうとう耐え切れず笑顔で二人に言った。

「あら、どうして? まだ期間はあるはずですわ?」

「期間がいつまでか知りませんが、一日中ベッタリされたら邪魔です」

「じゃ……!?」

「わかりました」

 すっぱり切られ、口を開けて何も言わずにいるアリーシャに対して、右横にいるミラはふんわりと微笑んだ。

「では、手伝います。私も商人の娘。仕事の方法は分かってますし、見ていて気になったところもありましたから」

「いえ。商売敵のあなたに手伝ってもらうのはいろいろ問題なので遠慮しておきます」

「商売敵ですか。でも嫁げば問題ないですよね?」

「あなたとロスタムが結婚すれば、あなたがこっちに嫁ぐのではなく、ロスタムが婿として行くことになりますよね? 家族とはいえ商人です。手の内は隠すでしょう。事実私たちは自分なりの人とは異なった商法をもっているので」

「そ、そうなのですか……?」

 嘘です。

 心の中で舌を出しながらカオルは真顔で続けた。

「手伝ってもらうことも、邪魔してもらうことも、彼は望んでいません。さあ、せめて仕事の時間は遠慮してください」

「ううっ」

「……」

 二人をロスタムからはがし、追い出そうとしたときにミラがぽつり

「嫉妬ですか?」

「は?」

「絶対そうですわ! 可愛げのない顔して独り占めなんてずるくてよ!」

「違いますよ」

 否定しながらアリーシャの頭にチョップを落とした。

 猫のしっぽ踏んだみたいな声が聞こえたが気にしない。

「大体そうぐいぐい彼にくっついたって、貴女方の心は彼には三分の一しか伝わらないと思いますけど」

「くっつきたいのですか?」

「は?」

「絶対そうですわ! 歳のせいでできないから、羨ましいのでしょう!」

「違いますよ」

 否定しながらアリーシャの頭にチョップを落とした。

 悪役がやられたときの様な声が聞こえたが気にしない。

「あうう~痛いですわ~」

「甘えたいのなら甘えればいいじゃないですか」

 ミラはにっこり微笑んだ。

「恋人同士なのでしょう?」

「それは、まあ、そうですが」

「私は認めてませんけどね!!」

「……」

「きゃわん」

 チョップの手を見せると犬のしっぽを踏んだ時のような声をあげ、逃げる様にこの部屋を去って行った。

「ふふっ、彼の気持ちが不動のものだって知ってます。だからちょっとした意地悪しただけです」

 鼻をちょんと触れられた。カオルは嫌そうな顔でミラを見れば、耳元にそっと囁かされた。

「たまには彼に構ってあげたらどうです? よく見れば不在の時が多いみたいですけど。そんなに彼を放っておくのでしたら……奪っちゃいますよ」

「……余計なお世話です。さっさと帰ってください」

「では失礼しました」

 最後にロスタムのほうににっこり微笑み去って行ったミラ。

 今日は他の人は出払っているから、やっと二人きりになれた。

「……おう、話し終わったか」

「イラってくるわー……何その他人事みたいな態度」

 本気でイラついたカオルは無言で仕事を始めた。

(いや別に、短気とかじゃないし。絶対向こう悪いし)

 空気の悪い部屋の中、カオルは粘土板を古い順に並べていく。

「……なあ」

「……ん」

「お前さ、嫉妬してたのか?」

「は?」

 振り返ると、彼が机にもたれる姿勢の後姿が見えた。

「なんだかんだいって、お前にも悋気ってもんがあったんだな」

「嫉妬なんてしてないっつってんじゃん。あれじゃあいつまでたっても仕事進まないでしょ」

「ふーん?」

 口元がにやついている。

 嬉しそうな彼の声、何を言っても無駄そうだ。

「……嫉妬してたっていったら、なんかあるわけ?」

「や……ねえけどさ、まあ、なんていうの? こういうのってたまには嬉しいってことだよ」

 カオルは、彼の背から目をそらした。

『彼に構ってあげたらどうです?』

 ミラの言葉を思い出す。

 確かにいろいろあってゆっくり話す機会無かったかも。二人きりになることもなかった。

「……ロスタム」 

 カオルはロスタムの座る机の反対側に背をもたれる様に座った。

「ん?」

 後ろ頭を彼に軽くぶつけた。

「嫉妬したから、安心させてよ」

「は?」

 今度は彼があっけにとられる番だった。

「ほら、口説いてみなよ。どっかいっちゃうよ」

 相手が年下だからだろうか。それとも自分がそういう性格だからだろうか

 恋愛では主導権握りたいと思ってしまうのは……きっと君が私を甘やかせてくれるからかな

「じゃあ、言ってみろよ」

「何を?」

 彼のほうを見ると顎を掴まれた。

「どう口説いてほしいか」

「……ふふ」

 何故かキメ顔のロスタムについ笑ってしまった。

「おい笑うな」

「ごめんごめん。じゃあね……愛をささやいてみて、私が素直に受け入れたくなるような告白」

「難しいな」

「思ったままでいいよ。でもそのままは嫌。懲りすぎてるのも嫌」

「我儘か」

「嫉妬させられた分」

 そういって笑えば、彼はむうと渋い顔を見せた。

 にやにやしながら見ていると、後頭部を掴まれおでこをぶつけられる。

「絶対一回しか言わないからな、絶対だぞ」

「期待するね」

「……」

 彼は目を閉じた。

「お前の時間を、俺と過ごしてくれ……」

 閉じていた目をそっと開き、まっすぐ見つめてくる彼の目に私の目が映る。

「……はい」

 思わずつぶやいた。

 愛の告白をねだった。返ってきたのは、永遠の愛の告白だった。

「……っ」

 ロスタムは顔を下げた。

 どうやら恥ずかしかったようだ。あんなに「愛してる」だの「俺の女だ」とか言ってたのに、そういう言葉はダメなのか。

(可愛いかも)

 カオルはにへ~と笑った。

「ロスタム」

「え?」

 顔を上げた彼に口づけをした。

「来年もよろしくね」

「ああ」

 視点が変わった。

「あれ?」

 いつのまにか押し倒されていた。

「ちょ」

「いいだろ」

 首筋を噛まれた。

 ゾワゾワする感触。

「いいくないって、仕事中だし、誰か来るかもだし」

「カオル……」

「やっ」

 

「カオルー! あのねえ、おいしいドライフルーツ、お客さんからもらっちゃった?」

 楽しそうに話していたホマーは、床に蹴り飛ばされた転げている兄を見て、ただきょとんとしていた。

 あとから扉にもたれる様にサイードとシーリーンが走ってきた。

「しまった! 遅かったか!」

「?」

「まあそうですね、都合よく二人きりになりませんよね~」

 カオルは机からおりながらロスタムの様子を見た。

 気絶している。

「……」

 いつか本気で殺しちゃうかも?

「カオル~兄さんどうしちゃったの」

「仕事のしすぎで疲れて倒れちゃったみたいですねー運んできますねー」

「うん! あのね、でねこれがね~」

 

デレたデレたデレたーだっだっだだーん

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