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現代→古代  作者: 一理
バビロニアのようで
111/142

冬は関係ないようで

 寒い冬がやってきました。そのころには商談も成立し、ラシード君がご両親と一緒にエジプトに帰ってしまった。

 箒片手にカオルは空を見上げ、そっと溜息。

「ふーん……」 

「お姉様……どうかしました?」

 アズラーがカオルの服の袖をひく。カオルは首を横に振った。

「いや、ただ寂しいなって思って」

「お姉様には私が居ますよ!」

「そういうのは求めてないけど、ありがとう……慰めてくれて」

 頭を撫でれば、猫の様に目を小さく細めた。

 そういえば、イリアス様どうなったかな。立派な男になってるかな。

「あら? そういえば、マーシャさんいないんですね」

「また商品運びの旅に出たよ」

「そうなんですか……」

「寂しい?」

「い、いえっそうじゃないです」

 手を振って否定する。きっと昨日のことがあったから気にしているのだろう。

 ちなみに私は謝らない。

(これを機に友達、それ以上になったらいいな)

「お姉様、私……働きたいんです」

「うん」

「お姉様と同じところで働けれないでしょうか」

「無理かな」

「!!」

 即答して悪いんだけどね。

「居候だし」

 仕事手伝います。といって早数週間たったけど、仕事をもらうどころか子守りを任され、バビロニアを知ってほしいと観光ばかりする生活でした。

 そんなことを知らず、頼りにして聞いてくれたのに、本当に申し訳ないと思う。

「あ、そういえば、お姉様はどこの国の出身なんですか?」

「出身はもっと遠いけど、アッシリアから来たんだ」

 やることがないので、掃除していたカオルだったが、めんどくさくなって箒片手に、手ごろな場所に座った。

「母国はどんな国だったんですか?」

「んー……どんな国だったんだろうねー」

「あ、ご、ごめんなさい」

 何故か謝罪を口にするアズラー。

「……」

「……別に売られてきたとかでも、記憶喪失とかでもないよ」

「ええ!?」

 思ってたのか。

 カオルは微笑んで立ち上がった。

「箒、片してくる」

 スタスタ歩いて行く。彼女は悩んでいる仕草をしているが、分からないもんは分からないと吹っ切れた顔で着いてきた。

「寒いね。躰冷えたし、あったかい飲み物でも飲みながら部屋で談笑しようよ」

「はい、お姉様」

 ハートのつきそうな返事だ。

 とてもまねできない。そんなことを思いながらカオルは歩き出した。

「あ」

 しばらくして部屋に戻ると、見慣れた顔が見えた。

「ロスタム……」

 わりと早い再会。

 アズラーがカオルの後ろから不審者を見るような目でロスタムを見ている。

 カオルは苦笑いをしてアズラーに紹介することにした。

「アズラー、こっちはロスタム。私の恋人」

「こ、恋人!?」

「ロスタム、こっちはアズラー。……見ての通り」

「分かるか」

 ベットの上でふんぞり返っている通常通りのロスタム。

 気怠そうに立ち上がると、ほらっと両手を広げた。

「?」

 カオルはきょっとんっとした顔で首を傾げた。

(意味が分からない)

 しょうがないので、机の上に持ってきた飲み物一式をおいて、ロスタムと同じポーズをとった。

「なんだそれ」

「ロスタムの真似……?」

「あー……って! 分かれよ!」

 そう言って強引に抱きしめてきた。

(ロスタム、欧米人みたい……)

 冷えていた体が一気に温かくなった。人肌は良いモノです。

「……悪い。迎えに来るの遅くなった」

「え?」

 早いと思ったんだけど。

「えぇっと、あぁ、うん。そうだね。うん」

「なんだよ」

 少し離れて彼の顔を見れば、変なものを見るような顔をしていた。

「いや、別に」

 カオルは小さく笑った。

(一日千秋って言葉教えたらすごく納得しそうな顔だな)

 しかしそういう風に想われるってすごく幸せなことだ。

「あのおー」

「?」

 ふり返ると気まずそうなアズラーが扉の陰からこちらを見ている。

「あぁ、ごめんごめん。入っていいよ」

「俺を無視する気か」

「相手するけど、冷え切ったから身体暖めようって部屋きたのに、追い返すなんてできないよ。せっかく飲み物あるし」

 机の上に置いた飲み物を持ち上げ、アズラーに渡す。

 彼女は椅子に座りそれを受け取り、ホッとした顔で飲んでいた。

「とりあえず、家に帰るぞ。いけすかねー奴いないみたいだしな」

「イナンナのこと?」

「この家の息子だよ」

「えっと、二人とも酷い言いようですよ」

 確かに。

 カオルは今のシィーね、と口止めをした後、ロスタムを見た。

「見張られてるんじゃなかったの?」

「それがな、事態が俺たちの知らぬうちに新展開を迎えたってやつだ」

「ははは、バカみたいな言い方」

 頬を引っ張られ黙るカオル。

「エンリル・ニラル皇太子が、イナンナの権力問題で対立したらしくてな、イナンナ的にはこっちに気が回らなくなったってわけだ」

「へえ……。にしても、急だね確かに」

「だろ?」

 アズラーは二人を見ながら、そっと疑問に思っていたことを聞いた。

「カオルお姉様……ややこしいことがあってこっちに来てるって言ってたけど、それって、女神様と対立してのこと? ってことは、お姉様……王族?」

「全然違う。王族じゃないし」

「お姉様って……」

 ドン引きだわーって顔で見られた。慣れたがその顔はむかつく。

「じゃ、じゃあ」

 ロスタムのほうを見た。

「コイツも違うから」

「俺もこいつもただの商人だ。なんでこうなったか俺たちにも正直分からん」

「確かに」

 カオルは同意した。

 アズラーは納得できない顔をしていたが、頷いた。

「分かりました……じゃあ、イナンナ様がロスタムさんのこと好きで、カオルお姉様のこと恋敵って見てるって感じですかね」

 何その売れなさそうな恋愛漫画的内容。

「「ない。ない」」

 二人で同時に手を振った。

 アズラーって、想像力豊かだなぁ。ある意味感心だ

「じゃあ、じゃあ」

「まだあるの?」 

 顔を真っ赤にさせ、アズラーは叫ぶように聞いてきた。

「いつ、ご結婚なされるんですか!!?」

「なっ」

 ロスタムは、狼狽えた後、真顔でこっちを見た。

「……なんね」

「いや、相変わらずなんにせよ無頓着な表情だなって」 

「それ初めて聞いたし」

 私の悪い点とかズバッというのはロスタムぐらいだわ。

「お前のことだ『結婚とか考えてなかったわー』って思ってたんだろ」

「いや、アズラーから言われるのかーって」

「え? すみません!」

「いや、謝らなくていいんだけど」

 ホマーかシーリーンあたりが言いそうだなって思ってたのに、意外なところだったなぁ。

「結婚考えてたんですか?」

「っというか、もう夫婦みたいな感覚だった」

 それも老後の。

「お前って」

 ロスタムが真顔でカオルを見た。

「なんか枯れてるよな」

 頭部に手刀打ちを喰らわせた。

「な、なんか鈍い音が」

「気のせい、で、アズラー。私もうアッシリアに帰るみたい」

「あ、そうですか……寂しくなるな」

「それでなんだけど、サマンさんに一応アズラーのこと言ってみるから、あとは自分でグイグイ押して、働かしてもらえるように頑張って」

「はい、お姉様っ!」

 アズラーに抱きしめられた。

 倒れていたロスタムが起き上がった。さすが慣れてる人は早い。

「いつか俺死ぬだろ」

「ごめん」

 手をのばし、立ち上がるのを手伝う。

「じゃあ、いくぞ」

「すぐにはいけないよ。サマンさんたちに挨拶しなきゃ」

「俺から言ってある」

「私からは言ってない」

 ぐむむと唸るロスタムと、ひょうひょうとしているカオルを見てアズラーは微笑んだ。

(……この人たちすごくお似合いだな。きっと誰にも割って入ることのできない絆が、二人にはあるんだ。素敵!)

 会ってすぐのアズラーが分かるのだ。誰だってそう思うだろう。

 お似合いのカップルは言い合いしながらも、お互い掴んだその手を離していないことに気が付いていなかった。 

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