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現代→古代  作者: 一理
comeback love
103/142

寂しいようで

 どこまでも広い荒野。砂っぽい風が舞うのが見える。

 澄んだ色の青い空は、夕暮れの色からまるで赤い色に沈んでいく。

「……お馬さん、お馬さん」

 カオルは倒れこむように馬に乗り続けながら、つぶやくようにお馬さんに声をかけた。

 辛い。

 何が辛いって、行く当てもなく馬に乗ってとうの昔に戻り方が分からなくなったことだ。

「ここはどこ……」

 赤い色が沈んでいった。もはや周りは真っ暗だ。

「あぁ……あああぁ……」

 酔ったぁあああ。

 馬に乗るのも初めてなら、こんなにも長時間馬と二人っきりになるのも初めてだ。

 初心者に全く優しくない旅行コース。

「うぅぅ」

「おーい」

 遠くから誰かの声が聞こえた。

「うえ?」

 目を凝らせば馬の行進が見えた。

「……とうとう幻覚が」

「おい」

 声が近くなった。

 ぱっと斜め後ろを見れば、少し前に出会った男だった。

「まっままままっま、マーシャしゃーん!!」

 飛びつくように馬から飛び降りマーシャに抱きついた。

 その際マーシャもろとも馬から落ちたけど、今のカオルには痛みより喜びのほうが嬉しかったのだ。

 救いの神がいらっしゃった!

(しゃん!?)

「途中本気でここどこって泣きわめこうかと思っていたとこなんですよ~!」

「あ、あぁ。そうなのか。てっきりうちに来るのかと思ったぞ」

「え?」

 馬の行進はカオルの近くで立ち止まった。どれもこれもシリア行で知り合ったメンツだった。

 その中の一人が冷やかすように叫んだ。

「よう、カオル! お前中々大胆だな!」

「やったなマーシャ!」

「え?」

 カオルから抱きつく格好だ。

 言われて気が付いたのか、マーシャは顔を真っ赤にさせカオルを突き飛ばした。

 突き飛ばされたカオルは酔いのせいでうまく力を出せず、そのまま倒れこむ。

「こら、マーシャ」

 なつかしきマーシャ父アフマドさんが名前を呼んで諌める。

「わ、悪かったな」

 手を差し出してくれたので、その手を取り立ち上がったが、ふらついて再び押し倒した。

「お、お前女のくせに、ふ、ふしだらだぞ!」

「仕方ないじゃないですか……馬に長時間乗るの初めてだったんですから……うう」

「一人か」

 アフマドに声をかけられ頷く。

「何かあったのか」

「説明させていただく前に一ついいですか」

 キリッとカオルは真顔になった。

「お水下さい」

 

 しばらくたって落ち着いたカオルは、快く受け入れてくれた一向について行きながら、今までの事態をざっくり説明した。

「つまり、女神の勘違いに巻き込まれて家を去らざる得なくなったと」

「そうなんですよ」

 困ったことになった。

 これまで幾度となく危機を迎えてきたけど、これほどのものでは……

 いや、結構これ以上だったわ。

(そうだな。大丈夫、大丈夫……きっと大丈夫)

 迫りくる死線を幾度も潜り抜けてきたじゃないか。このぐらいどうってことはない。

 またいつものように……

 いつものように

 いつも?

「あ、れ……私、今までどうやって助かってきたっけ」

「どうした?」

 マーシャが飲み物をくれた。

 お礼を言って飲み物を受け取る。

「気分悪いのか? 頼ってくれていいんだぞ」

(あぁ、そうだ)

 いつも、いろんな人に助けられてきたんだ。

「とりあえず、ナサ家に戻れないのなら、バビロニアにある我が家に事が冷めるまで居るがいい」

「ありがとうございます」

 持つものは縁である。

「今日はもう眠れ」 

「はい」

 用意された寝床で眠りにつく。でも、中々寝付けなかった。

 空を見たら、綺麗な星々が見える。

 あの日、アリーに攫われた日も、こんなふうに綺麗に輝く星々がはっきりと見えた。

 古代の空。

 未来で終わった時代の、過ぎ去った今の時間

「私は、未来人? それとも古代人?」

 現代人って、いつの時代の人? 今? それとも、自分の時代?

 私の時代ってどこ?

 何故私は此処に来たの?

「どうして」

 七菜は私のせいで来たといった。

 私をみつけられなかったから、仕方なくって

「神……」

 どの神? 日本の神? 古代の神? アッシリアの神? 未来の神? 存在していない神?

 目に見えないものなんて信じない。

「そうだよ」

 奇跡なんて、誰も知らぬ方程式の答えを披露しているだけに過ぎない

 起き上がった。

 闇に溶け込んだ黒い髪がそっと頬を撫でる。

 夜空の下冷えた体を温めてくれる寝床。

 けれど、この不安は拭えない。

「どうした」

 隣で寝ていたマーシャも起き上がり、カオルを見た。

 小声なのは他の人に配慮してだろう。

 みんな寝てる中、バカみたいに小声で独り言をぶつぶつ言ってすみません……。

「考え事してたら、ますます寝れなくなっちゃって」

「そうか……。お前はなかなか苦労してるみたいだからな」

 肩をぽんっと、軽く叩かれた。

「あんまり根を詰めるとよくないというし、たまには何にも考えなきゃいいんじゃないか」

「そうですかね」

「あぁ。父上も私も頭が堅いと母によく言われてな。そういうときは深呼吸をして、空を見ながらぼーっとするのがいいらしい」

「すーはー」

 カオルは言われた通り息を深く吸って吐いた。

 冷たい空気が体中を巡り、脳みそがすっきりしていくのが分かった。高ぶっていた気持ちも同時に落ち着いて行く。

(深呼吸って素晴らしい)

 感激しながら繰り返し、頭が冷めたところで横になって空を眺めた。

「あ、流れ星」

 キラッと輝いた星。

 スターダスト。宇宙のごみ。

「マーシャさん」

「ん?」

 少し眠そうな彼の声。

 申し訳なく思いながらも、彼の布団に手を伸ばした。

「!!!」

 弱い力で、彼の指を掴んだ。

「手、握ってもいいですか」

「な、ななん!!?」

「感情が落ち着いて、空を見ていたら、……どうしようもなく寂しくなったんです」

 この広い宇宙の中に生きる一個体。

 綺麗な星々を眺めていたら吸い込まれて、果てない宇宙の闇に流されていきそうで怖い。

「今晩だけ……ダメですか」

「きゅ、きょ、こ、今晩だけだぞ」

「ありがと」

 ぎゅっと、手を握り目を閉じた。

 温かい人のぬくもり。

 手だけでも、人は安らぎを覚えられる。

(大丈夫、きっと)

 自分にそう言い聞かせ深い眠りについた。

 

「……」

 眠ったカオルのことなど、見ることもできずただ硬直しているマーシャ。

 その様子を最初から最後まで見ていた父親側の男たちは、リーダーの肩をつついた。

「お前さんの息子。かたすぎやせんか?」

「ううむ」

「手をつないだだけでアレかい」

 アフマドは布団にもぐった。

「おお、お前ら知らんのか」

 一行の中で一番の年上が笑いを堪えながら囁いた。

「アフマドの若いころもあんなんだったぞ」

 小さな笑いが響く中、そんなことをしらない若人はただ夜に身をゆだねているのだった。

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