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現代→古代  作者: 一理
comeback love
101/142

真実を告げたようで

 夕方はきれいな茜色の光が水に映え、目が痛い。

 いつもの仕事を終え、動物たちのエサをやり終えたカオル。のんびりと家に戻るとむすっとした顔のロスタムが出てきて、何故かカオルの腕を掴んでそのまま外に出た。

「ちょ? 何? おーい」

「……」

 家から少し離れたところで腕は離される。

「なに怒ってんの?」

「お前にはっきり聞こうと思ってだ」

「怒る必要あるのそれ」

 顔を掴まれた。

「お前、俺のこと本当に好きか!?」

「……は?」

 真顔で見つめられる。なんでそんな、顔を掴んで叫ぶように言うこと?

「好きか普通か!」

「その選択肢に嫌いはないんだね。いいけど」

 ロスタムにつかまれている顔に、そっと手を伸ばした。彼の熱い手からぬくもりを感じる。

「……普通に大好きだよ。だから他の人と試しに付き合うってなっても、信じられる」

 彼は表情を和らげた。

「で、急に何?」

「いや、違うんだ。なんでもない」

 離れていくロスタムの手を掴むカオル。

「……」

 もはや逃げられない。ロスタムはその手を見ながら小さなため息を漏らした。

「女神が……」

「七菜が? 何?」

 神妙な顔で見つめる。

「お前が帰ってくる少し前に来て、お前のことを言ったんだ」

「私のこと?」

「……ああ。異世界から来たっていうこと、お前俺にしか言ってなかっただろ?」

「うん」

 しかし、未来から来たとは言っていない。ただ、ここではないところから来たとしか。

女神様イナンナが言ったんだ」


『紀伊さん……ううん。あなた達の知ってるカオルさんは、私と同じ世界から来たの。本来ならこの世界に来てはいけない人物。いずれ離れないと、あなた達にも不幸が訪れる』

 イナンナとし、この世に降臨した自分とは違い、彼女は偶然こちらにやってきた。

 他の神々は戻ってくるよう彼女に説得しているが、貴方たちが彼女を引き留め、事態をややこしくしている。

 

「……以上が、彼女の言い分だ」

「……」

 カオルは少し悩んだ。

 ここで、ロスタムに自分の『本当のこと』を言うべきか否か。

「分かった」

 カオルはつかんでいたロスタムの手を離した。

 七菜は何を企んでいるのか、分からない。けど、私をもとの時代に戻したいという意思は分かった。けど、彼女の言い分から、帰したいのは私だけのようだ。

「カオル」

「何?」

「お前は俺が好きだと言ったな」

「うん」

「じゃあ、お前の全部教えてくれ」

 ロスタムはカオルを抱きしめた。

「お前が隠してる部分教えてくれ」

 カオルは悩んだ。

 私が捨てた過去を、彼らに話すべきか、それとも、誤魔化すべきか。

 言ったところで過去になんの影響もないだろうけど、教える意味もない、ならば教えなくてもいい。

 そう、思っていた。

「お前は、神界の人間なのか」

「……違う」

 七菜がどう考えているか分からないが、そうやって先手を打ってくるなら

「ロスタム、戻ろう。みんなの前で説明するから」

 私も返そう。


 ロスタム家に戻る。 

 他人事みたいに言えば、なんともまあ次から次へと問題が発生して、忙しい人たちだ。……半分私のせいだけども

 アクバルさんとサイードさんは表で仕事に出ているということだったので、先にシーリーン、ホマー、マミトゥ、そしてロスタムに話すことにした。

 私が、何者か。

「七菜……。いえ、イナンナがいうことは半分は間違ってないと思います」

「半分?」

「はい、この世界に居てはいけない人物ということと、もしかしたら禍をあなた達に巻き込んでしまうかもしれないということです。白いライオンのこともありますし」

「あのライオンは神の使いなのか?」

 ロスタムの言葉にカオルは首を横に振った。

「分からない。正直何故あのライオンに襲われたのか……あのライオンがなんなのか。見当もつかない」

 七菜は分かっているふうだったが、実際どうかは分からない。

「私は、……私と女神と言われているイナンナこと七菜は、本当は神の国の者ではありません」

 察していたのだろう、落ち着いているロスタムと、「まぁ」と驚いたような声を出したマミトゥとシーリーン。

 カオルは続けた。

「私も彼女も、神の国ではなく、未来の時代から来た、異国の者です」

「未来の……?」

「はい」

 信じてもらえるとは思わなかったが。力強く頷いた。

 私のずっと悩んでいたこと。言わずにいておこうと思っていたこと。すべて口にしてしまった。

 これで、私も本当に七菜と同じ存在だ。

(やっぱり、黙ってればよかったかな。でも、これ以上は隠し通せないし)

 七菜が半分ぐらい暴露してくれたおかげで、私の人生乱れてきている。

「……帰っちゃうの?」

 ホマーがぎゅっと指を掴んだ。

「いつか、帰っちゃうの?」

「……ホマーちゃん」

 カオルはホマーを抱きしめた。温かい体温に、甘い子どもの匂い。

 純粋な気持ちが嬉しくもあり、辛くもある。

「……ねえ、カオル」

 シーリーンがそっとカオルの手を握った。

「貴女はどうするつもりなの?」

「帰るつもりはありません。ここにいます……でも」

「でも?」

 七菜の言葉が頭の中で繰り返される。

「もし私のせいで禍が招かれるようであるなら、私は出ていきます」

「まあ!」

「おかげさまで暮らし方は覚えました。バカな輩の対処法もバッチリです」

「お馬鹿」

 シーリーンにチョップされた。吃驚して目を見開いているとにこっと笑った。

「私たち家族も同然でしょ?」

「シーリーンさん……」

「それに騒ぎ持ってくるの今更じゃない!」

 笑顔で胸に突き刺す言葉ありがとうございます。

 

 ロスタムがそっとカオルの肩を優しくつかんだ。

「大丈夫だ。なにがあろうと俺が守ってやる」

「ロスタム」

「紀伊さんより弱いのにおっかしー」

 声がしてハッとする。

 振り返れば兵士を引き連れた七菜がいた。

「お前……」

「全部話しちゃったんだね……」

 おそらく日本語なのだろう。なんていってるの? とホマーがマミトゥに問うのが聞こえた。

 カオルは頷いた。

「お前のおかげでね」

「……ふうん」

 私も日本語で返す。

 耳になじむ日本語。今は遠い場所の、ここでは通じない言葉。

「帰らないって言ったよね」

「言った」

「じゃあどうするの?」

 口を閉ざした。

 相手は目に見えぬもの。ライオンとして来られた時も逃げることしかできなかった。正直どうするかなんて考えていない。

 七菜は悲しそうに瞳を落とした。

「どうしようもないよね」

「……お前は」

「私も一緒だよ。ずっと悩んでる……あのね、紀伊さん」

 七菜は一歩前にでてカオルの手を握った。

「最近ずっと聞こえてくるの。神様がね……『早く還さなくてはいけない』って」

「今度は神の声が聞こえるって?」

 カオルが拳を握った。

「いいかげんにしろ。誰が信じるか……お前に振り回されるのはもううんざり!」

「嘘じゃないわ。紀伊さんは拒絶してるから聞こえないの。私だって最初っから聞こえたわけじゃない……でも、本当なの。信じて」

 カオルは七菜の手を払いのけた。

「信じて、どうしろってんだ。還れっていうの? どうしてここに来たのかさえも分からないのに?」

「紀伊さんがここに来たことに意味なんてないよ」

「お前はあるのか!」

「あるよ!!」

 七菜は叫んだ。

「紀伊さんのせいだよ! 私がこの世界に来たのは!!」

「ッ?!」

 私の、せい?

「いいじゃない! 私は紀伊さんのせいでこの世界にきちゃったんだよ? だったら私のために還ってよ!!」

「だから、意味がわから……」

「掴まえて!!」

 七菜が手を伸ばすと兵士がカオルを囲んだ。

「カオル!! なんてことするのー!」

 ホマーが怒って走り出したのをマミトゥが急いで抱き上げ、動きを阻止した。

 シーリーンは急いで店の中に入っていった。たぶん男衆を呼びに行ったのだろう

 兵士がカオルの腕をつかむ。

 ホマーの泣き叫ぶ声が聞こえる。カオルは無抵抗で何もせず七菜を見た。涙目の彼女の顔を見れば、彼女は彼女なりに悩んで考えて、苦しんだ挙句の答えなのだと分かる。

「……一つだけ教えて。なんで私のせいで七菜がこの世界に来たのか」

「紀伊さんの魂を、神様が見つけられなかったから……なんでかは知らない。でもどうにか見つけたかった神様は、紀伊さんと同じ世界の人間を連れて来れば、魂がひかれ合い出会うはずだって思ったわけ」

「それで、お前が選ばれた?」

「うん。でも私には神の声を聴くほどの力はなかった。だから、最近までなんで来たのか紀伊さんと同じで分からなかった」

「なんで急に分かるようになった?」

「……神聖な儀式とお浄めをしたから、かな」

 そこは分からないらしい。

 七菜は背中を見せた。

「神殿に行くよ。きっとそこでなら紀伊さんも、神様の声が聞こえるはず」

 そして、還ることになると。

 カオルは息を大きく吸って、ゆっくり吐いた。

「……そっか」

 ちらっと目で兵士を見た。

「逃げないから、離してくれない? 自分で歩けるし」

「……分かった」

 七菜は兵士に退くように言った。カオルは七菜の目の前まで歩いて、彼女の肩に手を置く。

「お前も、辛かったんだな」

「紀伊さん……」

「って」

「!?」

 七菜の服を掴んで兵士に向かって投げ飛ばした。

「言うわけないだろ――――!!!」

「うきゃああああ!?」

 兵士は女神を急いでキャッチしてわたわたしている。

 え? 身分高い人投げて大丈夫かって? そんな心配いまさらってもんよ。

「カオル!」

 いつの間にかこっそり家を抜けていたロスタムが馬をカオルに渡した。

 カオルは馬に跨ったが、少し真顔で考える。

 ――― え。馬ってどうやって乗りこなすの?

「行け! あとで行く!!」

 馬の尻を叩き、ロスタムはそう叫んだ。

 走り出した馬は早い。振動凄い。マーシャに乗せてもらった時よりも揺れはすごく、乗り心地も固い。

 必死に手綱を握りながらカオルは家を後にした。


「紀伊さん! 嘘つき、逃げないって言ったのに―――!!」

 七菜が叫ぶと、その後ろでホマーも叫んだ。

「女神様ってウソついてるあんたが、カオルを嘘つき呼ばわりしないでよ!!」

「こら、ホマー」

 マミトゥに口をふさがれ不満そうだ。

 兵士がロスタムを取り押さえた。

「どうしますか」

「……紀伊さんはどこいったの?」

 兵士の問いを無視して七菜はロスタムをにらんだ。

 ロスタムはどこ吹く風で口笛を吹いた。

「痛い目見たいの?」

「へ、痛い目ならいつも見てる。カオルがどこにいったかだって? 知らねえ。急だったしな」

「……別にいい。紀伊さんだもの。絶対ここに戻ってくる。兵士の何人かはここに残って」

「女神様は?」

「神殿に戻る」

 絶対逃がさない。紀伊さん……紀伊さんのためにも


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