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現代→古代  作者: 一理
アッシリアのようで
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彼はそんな人のようで

 空気をよまずに入ってきたのはハニシュだった。どうやら勢いだけでロスタムの部屋に入ってきたらしく不思議そうにした後、悩むような仕草をした、そして私たちを見てただ一言。

「修羅場?」

「違います」

 最後まで言い終えるまでに私は即答で訂正する。

 修羅場じゃないならとさらっと話を本題に戻すハニシュ。

「あぁ、そうだ。おいロスタム。明日のイベントだけどな」

「イベント?」

 ロスタムだけじゃなくて、彼にくっついていたアリーシャも首をかしげていた。

「もしかして、王宮にいる女神イナンナを楽しませるために余興をするって話?」

「さすがカオル。正解!」

 指を鳴らしてウィンクするけれど、うれしくない。

 イナンナこと七菜は一体どこまで女神として浸透しているのだろう。正直カリスマを感じなかったのに、何故だろう。……もしかして、実はすっごいカリスマをもっていたのかもしれない。

「聞いた話によると、女神主催の『国民感謝祭』をするってよ」

「どっちにしろ女神の余興でしょう?」

 ふてくされた顔をするカオルの肩をハニシュは軽くたたく。

「慰めは結構よ」

「つれないねー。あぁ、あと王様は新しくイナンナの神殿を造るって、きっと供物を買いに信者がたくさん押し寄せるだろうから、盗みにあわないように気をつけろよ?」

「ねえハニシュ」

「ん?」

「イベントって具体的に何するの? 祭?」

「あぁ、女神様が民衆の前でお立ちになってくださるそうだ。俺たちはそれ見て喜ぶ」

 何が楽しいんだそれ。

「……」

「……」

 黙る私同様に黙って見つめるハニシュ。なんとなく言いたいことは分かったらしい。

「ま、無神論者で前回女神様に嫌われたカタコトのカオルには分からない楽しみだろうなぁ」

「シバく」

 追いかけるとダッシュでロスタムの後ろに隠れるハニシュ。アリーシャとハニシュにぎゅうぎゅう押されているロスタムは息苦しそうに叫んだ。

 モテるって大変ね……盾としてだけど。

「お前ら離れろ!!」

「勿論、行くよな? ロスタム」

「あ?」

 どこに? という顔をするロスタムの腹を肘でつつくハニシュ。

 仲がいいのは良いことだけど、ハニシュはロスタムに嫌なことしか教えないから保護者的な立ち位置としては不安だ。

「もちろん女神鑑賞だよ」

「一回見ただろ?」

 お城に献上しに行った際、確かに私たちは七菜に出会っている。今更もう一度見てどうしようというのだろう。

「馬鹿だな。城主催っつーことわだよ?」

「あぁ」

 何故かにやけるハニシュ。ロスタムは手を鳴らした。

「美味い飯が無料で配られる!」

「ちっげーよ!! お前カオルかよ!!」

「おいこらハニシュ君。いまなんていった?」

 聞き捨てならない台詞がでてきた。その発言ではまるで私がいつも食い意地を張っているようではないか。

 何気にあぁ、と納得げに笑うロスタムにもイラッとくる。

 こいつらが私についてどう思っているかよくわかった。いつか覚えていろ。

「じゃあなんだってんだよ」

「馬鹿だなお前~城っつったらお姫様が出てくるじゃねーか」

「なるほど」

 納得と頷く。

 アリーシャは冷えた目線をハニシュに送る。

「むっつりスケベですわね」

「男ってのは、そういうもんだ」

 腕を組みながら偉そうに頷くハニシュ。彼に送られる目は白い。しかし、ここで問題というか、疑問がある。会話を聞いていて思ったのだが

「商人が悠長に売り時に物見へ行ってもいいの? あんたら長男でしょ」

 二人は黙り込んだ。

「いや、まぁ。オレ総監督じゃねーし?」

「まぁ、俺も? 弟と姉いるし?」

「お前らな」

 こういう時は本当にしょうもない弟のようにしか見えない。そして自分が老けたように感じてちょっぴり切なくなってくる。

 それを知ってか知らずか、ロスタムのお腹が鳴る。

「カオル」

「ん?」

「食事もってこい」

「だから、動けっての」

 呆れた口調でそういうと、アリーシャが元気よく手を挙げた。そのさいロスタムの顔に手が勢いよくぶつかっていたが、興奮状態にある彼女は気が付かないまま、大声を上げた。ロスタムは顔を抑えながらうずくまっているが彼女は気が付かない。

「私が料理します。そしてここへ持ってきますわ!」

 その勢いのままロスタムのほうへ向き、彼の手を強く握り、キラキラ輝いた目を向ける。

 純粋な感情は大人にとっては痛いものがあるんだよね~

 ロスタムもそうなのか、目を細めてどこか遠くに意識を飛ばしている。

「少しばかりお待ちくださいませね! 私今すぐ作ってまいりますから」

 から~……っとエコーのかかりそうな声をのこし、彼女は走り去っていった。

 その様子を見ていたハニシュはニヤニヤしながらロスタムをつつく。

「なんだか健気で可愛い少女じゃないの? オレ的にもちょっともう少しふくよかなほうがいいけどな」

「馬鹿たれ」

 めんどくさくなって黙って部屋をひっそりと抜け出ようとしたら、何か踏んだ。足をどけて下を見ればハニシュが持ってきていた粘土造形らしい。

「ごめん、ふんじゃった」

「あああああああああああああああ!!」

 すごい叫びに耳をふさぐ。

「ご、ごめん。そんなに大事なものだった?」

 でもなら何故焼いても乾燥させてもいないのだろう。そんな大事なものそこらへんに放置するほうが悪いと思う。

「せっかくふくよか美人つくったから、最後にロスタムに美人な顔作ってもらおうと思ったのにー。最高傑作の乳が~ぁ~」

 そんなくだらない理由で朝からロスタムの部屋にやってきたのだろうか。若気の至りというか己の欲望に忠実というか

「……。もう帰れよ」

 ロスタムの言葉に私も同意だった。

 

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