絶望の在り方
影が僕たちにかかり、上を見上げる
どこにも何もいない
今朝空にあった雲は全て流れて、今は見当たらない
空を何かが飛んでいたはずなのに姿が見えない
「スーハっ!!」
「どこでやんすか・・、この感じは・・」
・・・?
音がする
上の方・・・
太陽の方から・・・?
太陽に、黒い染みが出来ていた
それが段々大きくなっていく
そして気付く
それが染みなんかじゃなくて、魔物だった事に
「太陽だ!太陽に隠れている!!」
僕が叫ぶと同時に、その魔物がさらに大きくなる
そして何かにぶつかる
きっとお札の効果範囲に入ったんだ
魔物はその見えない壁に爪を立てる
お札はそれでも耐える
魔物が一旦浮かび上がって、何か力を凝縮している
それはもう恐ろしいほどの力だ
この力は、最近見たことがある
「何をしようとしているんだ・・・?」
隊長の呟きを聞き流し、その行動に注目する
口の先に集めたエネルギーを、こちらに向けて放出する
その力は、フーさんが放ったあの1万4人分の力と同じ力だ!
力の激流が僕たちを襲う
お札の力でまだ守られているが、どんどん押されていく
魔物の攻撃と、お札の力が切れるのはほぼ同時だった
「そんな!あの巨大な魔物すら防いだのに、たった一撃だと・・っ!!」
レフィさんの言葉を無視して、魔物が降り立つ
広場の横を、一瞬で更地にして降り立ったその魔物は
まるで闇を模った様な黒い体
先ほどありえない巨体を見た後だというのに、それでも山のように感じる巨体
幾千の人の血を凝縮したような目
それは絶望の使者のような、竜の形をした魔物だった
本能的に理解する
僕ではこの魔物には勝てないっ!!
いや、傷一つ付けれない・・・
皆動けずにいる中、一人だけ動いた人がいる
隊長だ
隊長だけは邪竜に向かって行った
その竜の口から、またエネルギーが集まるのを感じる
あの攻撃を受けたら、僕たちは一瞬で蒸発するだろう
だが、動けない、どのみち助かる術はない
そう感じさせる程の恐怖がそこにはあった
「やれやれ、おちおち寝てもおれんのぉ・・」
エネルギーの収束が終わる
まだ距離がある位置で、隊長が槌を振りかぶる
隊長の姿がブレる
いつの間にか隊長は邪竜の顎の下にいた
『皆を守る力を!!』
隊長がそう唱えると、ただでさえ大きな槌がさらに何倍にも巨大化した
が、それでも邪竜の顔大きさには及ばない
槌を振り下ろしかけた時、邪竜のブレスも放たれた
「っっっぉぉぉおおおおお!!」
一瞬拮抗したかに見えたが、すぐに槌が押され始める
そのまま押されれば、僕たちは全滅するだろう
と、その時、黒い腕が何本も飛び出して、槌を支える
「踏ん張れ若造っ!!!」
この声は・・・
ラギさん!?
でも、もうラギさんは目が覚めないはずじゃ・・・
「いったじゃろう、我が魔力は尽きぬと!!」
黒い腕に押されて、槌が持ち直す
そのまま行けば、押し勝てる!!
「負ける訳には、いかんのだっ!!!」
「これが正真正銘、最後の力じゃ!!!」
二人の力が合わさり、徐々に押していく
が、
魔物が少し目を細めた様に見えた
次の瞬間
邪竜のブレスの勢いが増した
これまで手を抜いていたというのか!?
勢いを増したブレスによって押し戻され始めた
「ぉぉぉぉぉおおっっっ!!」
「ぬぅぅぅうううっっっ!!」
ラギさんの魔法の黒い手が剥がれて、白い手に変わる
限界を既に越えているであろう力の応酬が続く
拮抗は、いつまでも続く様に感じた
とんでもない力のやり取りは、もはや地形を歪ませて、地面に地割れが起きる
そして遂に、終わりの時が来た
ブレスが、途切れたのだ
そのまま槌を振り下ろせば、ダメージを与えられるだろう
しかし、こちらも限界だったようだ
槌が根元から折れた
ラギさんが倒れた
隊長が振り向いて言う
「グラン、後は任せた」
その言葉を最後に、隊長は邪竜の口の中に消えた
絶望が、場を支配した
次の更新をしたら、しばらく休みます