昔の僕の在り方
僕は今日も戦場にでる
「うおおぉぉぉおっっ!!」
しかし本当に、無限に思えるほど魔物がやってくる
僕が狩った数は万を越えているはずなのに、途切れる様子がない
次から次にやってくる魔物の、頭を握りつぶし、首を手刀で切り落とし、心臓を足で蹴り抜いて、僕は今日も生き残っている
「ダンナァっ!左の方に溜まってやすぜぇ!!」
「分かった!」
スーハはこういう風に、僕がより多くの魔物を倒せるようにサポートもしてくれる
「ウッヒッヒッヒッヒ、銀貨だ金貨だ~♪」
・・・目的があれなのは、まあしょうがない
戦場は森を、門を中心にして半円100m程切り拓いてあり、城壁から森の間はぐるっと20mぐらい空いている
基本的に魔物は道を通ってくるので、門を守れば問題ない
稀に森から城壁にやってくる魔物もいるが、そういった魔物は城壁の上にいる弓矢部隊が射ち殺す
この弓矢部隊は空からの魔物の侵入も防ぐので、僕等は安心して地上の魔物に集中できる
「っ!」
ただ、未だに僕に矢が飛んでくるのは、きっとワザとなんだろう
僕は矢を左手で弾いて、城壁を睨みつける
いくら暇だからってやっていいことと悪いことがある
しかし、僕に出来ることは睨むぐらいである
「ダンナ!次いきましょう!」
「・・・うん」
そうやって僕は魔物を狩り続けた、そんなある日
「ダンナ、遠征部隊が明日、こちらに来るらしいですぜ?」
「遠征部隊?」
「あ、そうか、ダンナは知らないですよね」
話すのはスーハだけだし、僕にはこの世界の常識がないのだ、そのことはスーハも知っている
「遠征部隊ってのは、ある程度まとまった戦力を、すでに滅んでしまった国に送り込み、人間の領土を取り戻そうって部隊でやんす」
なるほど、防戦一方じゃなくて、こちらから攻めると言う訳か
「その部隊の人たちが、明日この門で肩慣らしをするらしいですよ」
「・・・ということは、近いうちに遠征があるってことか」
「さすがダンナ!理解が早い!」
こんな風に褒められると、なんだかくすぐったいな
「・・・僕、遠征部隊に入れてもらおうかな?」
「え、ダンナ、遠征部隊に入るつもりでやんすか!?」
「駄目なのかな?」
「いや、万年人員不足だと聞きやすから、大丈夫だとは思いやすけど・・」
じゃあなんだろうか?
「知ってるとは思いやすが、遠征が成功したことなんてないんですよ」
そりゃそうだろ、成功していたら、こんなにたくさんの国が滅ぶ訳がない
「すると、必然的に、遠征に行った人は・・・」
ああ、なるほど、殆ど帰って来なかったのか
「そっか・・・」
「だから、どうかそんなこと言わずに、ここに止まってはどうでやんすか?」
・・・スーハ、僕の心配をしてくれてるんだね
「そうじゃなきゃ、あっしの稼ぎがぁ~っ!」
お金の心配をしているのか、僕の心配をしているのか、少し気になるところではある
「う~ん、まあまた今度考えるよ」
「そうでやんすよ、よく考えて決めるべきでやんす」
「ところで、じゃあ僕等は明日、どうすればいいんだろう?」
「ああ、そこはいつもと変わらず、戦場で魔物を狩っていればいいでやんすよ、ただ、いつもより大分楽ではありやすけど」
「じゃあ、明日もよろしくね」
「こちらこそ、よろしくでやんす!」
そういって、その日は部屋に戻った
僕は自分の部屋のベッドに入った、もうすぐ朝日が昇る時間だ
兵士は、3交代で狩りにあたっている
朝方から夕方、夕方から深夜、深夜から朝方まで、それぞれ交代で討伐にあたる
魔物には朝も夜も昼もないのだ
放っておくと城壁を登りかねないし、うじゃうじゃ密集してしまうため、狩り難くなるそうだ
だから、余り密集しない内に交代で狩るのだとか
その方法でこれまで十数年、魔物を跳ね除けてきたからには、確かな方法なのだろう
あと、僕の戦場での成績であるが、思ったよりは活躍できてない
確かに僕は1人でたくさんの魔物を狩れるけど、よくて10人分だ
20人の狩った数には及ばない
だから、僕が戦場に加わったからといって、劇的に戦いが楽になることはなかったようだ
・・・僕が英雄だなんて、そんなことはなかった
そんな事を思っていると、おかみさんの事を思い出した
そうすると、今度は元の世界の事も思い出してきた
僕は、平凡な高校生だった、どちらかというと目立たない、かといって根暗だとかそういうこともない、平々凡々な、普通の学生だった
友達もそれなりにいて、カラオケにいったり、海にいったり、放課後に集まって馬鹿な事をしたり
そこで淡い恋もしたりしてたけど、結局告白できなかったな
でも、告白しても、僕には不釣り合いだったような気もするから、これでよかったのかもしれない
妹は、無事に高校に入れたのだろうか?
気の弱い子だったから、学校でイジメを受けていないか、少し気になる
・・・これまで考えないようにしていたことが、頭の中を駆け巡る
父さんと母さんは、今頃どうしているだろうか
僕の失踪を、ちゃんと受け止めてくれてるだろうか
ああ、母さんの料理はもう、食べられないんだな・・・
涙が、流れる
何故僕は、元の世界に戻ろうとしないのか
何故僕は、これまで元の世界の事を考えない様にしていたのか
それは、僕の中に、ある確信があったからだ
元の世界の僕はもう死んでいて、生き返ることはない
何故かはわからないけど、僕はもう、この世界で生きるしかないということが、心の奥底で決定されていたのだ
たとえ、魔法が万能だとしても、それとこれとは別で、もう戻れないのだと
僕の魂と呼べる場所が、感じている
最初は不思議だったけど、今はもう受け入れられる
父さん、母さん、妹、仲のよかった友人たち、みんな、さようなら
僕はこの世界で生きてくよ
この、魔物に染められた世界で
いきなり過去です、脈絡ないな~・・・
でも、人が過去を受け入れる時って日常だったりすると思うんですよ、ええ、勝手に思ってるだけです
はい、ミコト君は元の世界に戻れません、今決めました、うん
別にイジメてる訳ではありません、きっと、たぶん