軍の在り方
「ふう・・・」
今僕は、魔物との戦いを終え、木影で休んでいる
「旦那、水、いりやすか?」
「ああ、ありがとう」
そう言って水を受け取り、喉を潤す
アレからもう1ヶ月か・・・
僕はあの後、ダイジさんの育てた男として紹介され、兵士として戦場に立たされた
「ダイジって、あのダイジか!?」「あのライドの生ける伝説、ダイジ!?」「あの不死身のダイジか!?」「あの奇跡の男か!?」「まだ生きていたのか!?」
そんな感じで皆騒いでいたけど、ダイジさんって何者なんだ?
しかし、だからといって僕がいい扱いを受けることはなかった
・・・むしろその逆だった
戦場では真っ先に狙われた、僕が最初にすることは、味方から逃げることだ
食事の時は「何故ここに魔物がいるんだ?」となじられ、ゴミや虫を料理に入れられることに始まり、様々な嫌がらせを受けた
散々魔物を蹴散らしても、「まあダイジさんの教え子だからな」で納得され、それが当たり前に扱われる
さらに味方を助けるのが間に合わないと、「お前はなんのためにここにいるんだ!」と激昂され、飯抜きにされることもよくある
もちろん寝る場所は隔離されている、便所の隣だ
もうだんだん、僕は魔物として生きた方がいいんじゃないかと思えてくる様な仕打ちの数々
だが、一緒にいてくれる奴も出来た
今さっき水をくれた男だ
彼の名前はスーハという
体中に傷跡があり、顔はお世辞にも美形とは言えない
背は低く、力もあまりないが、脚力はある男だ
ところで僕は、昔と変わらず、魔物の部位を持ち帰ることが出来ない
いくら魔物を倒して、その部位を持って念じても、全て消えていく
味方の兵士たちは「やはり魔物だからか」と罵った
そんな中、彼はそれを回収する仕事をしてくれている
・・・まあ彼はそれでかなり儲けているようだけど、普通に接してくれるのは彼ぐらいだ
当然、彼も回りに色々言われてるようだが、
「あっしはそんなの全然気になりやせんよ?」
っと全く気にした様子がない
「そんなことじゃ腹は膨れやせんから」
とも言っていた、・・・悪い奴じゃないんだよ、きっと
そんな訳で、戦場では大体この男と一緒に魔物を狩って回っている
ここは南門の外、滅んだ国フォルフに通じる道の始まりの場所
魔物の侵略が、かれこれ10年以上続いている場所だ
「おい、お前、そうその、魔物と同じ目をしたお前だ」
いちいち面倒くさい言い方をするよな、僕の名前ぐらい知っている筈なのに
「はい、なんですか?」
「兵長が呼んでる、ついでにスーハ、お前もだ」
「はあ、あっしもでやんすか?」
僕はもう何度か呼び出しを受けたけど、スーハまで・・・なんだろうか?
僕らは普通の兵より少なくされた食事を終え、兵長のいる部屋に行く
コンッコンッコンッ
「失礼します、兵士のミコトとスーハです」
「入りなさい」
僕はドアを開け、雑多に物が置かれたそんなに広くない部屋に入る
「僕らに対して呼び出しがあったようですが、何かありましたか?」
兵長は顔をしかめて、深いため息をつきながら僕にいう
「ミコト、お前は前回言われた事を覚えているか?」
当然覚えている
「はい、一人で森に消えるのは止めろ、ということでしたね」
「そうだ、じゃあなんでお前は今日も森に入った?その時間を魔物討伐に向ければ、もっと魔物を狩れるはずだろう?」
それはそうだと思うが
「しかし、休憩としてはそんなに長い時間じゃなかったはずですが・・・」
「お前は敵陣の中、森に入る事を休憩、と言うのか?」
「はい」
「おいおい、おかしな事を言う奴だ、自陣に戻って後方待機すればいいだろ?何故そうしない?」
「・・・」
わかってるに決まっている、味方に殺されかねないからだ
「軍というものは規律が絶対だ、それに従がえないのなら、そんな人物はいらない、前回も言ったはずだ」
「・・・」
正論だ、だが、兵の運用としては最悪だ、それをうまく調整するのが兵長の仕事のはずなのに
それに軍規には、別に休憩は自陣でとること、などといった記述はない(はずだ、字が読めないのでスーハから聞いた話だが)、そうなると完全に兵長のさじ加減の話になる
上司の命令には順うこと、という記述は存在するからだ
「それとも何か、人に言えない事情があるんじゃないだろうな?」
「・・・っ」
実はある、魔物の血を吸う必要があるからだ、自陣に魔物はいない、しかし吸わなければいつ手足がなくなるかわからない
前回は運良く助かったが、今後手足がなくなって生き延びれる保証はない
「・・・ただでさえお前を兵としておいてやってるんだ、従えないのなら国に帰れ、ま、もっともお前に帰る国があるかは知らないがな」
もう国はイーアしか残っていない、帰る国などあるはずがないのだ、しかも兵士として雇ったのはマトンさんだ、ほんと鬱陶しい人だ
「ところで、なんであっしが呼ばれたんでやんすか?」
スーハが話を切るために、割って入った
「ああ、スーハ、お前はミコトの後ろについて回って随分たくさん儲けているようだが、」
魔物の部位を持ち帰る事は軍の規律で認められている、ただし、自分が狩った魔物か、狩った人に許された場合のみだ
「お前自身は魔物を狩っているのか?お前も兵として雇われている以上、魔物を狩る事は絶対だ、わかっているだろう?」
「へい、これでも結構狩ってやすぜ?そりゃあそれが仕事なんですから、狩っているに決まっているじゃないですか」
「そうか、それは結構なことだ、だが、聞くところによると部位を剥ぎ取るのに夢中で、魔物を狩ってるのを見たことがない、という話もあるのでな」
実の所スーハは余り狩りをしない、いや、僕の狩るスピードが早すぎて、剥ぎ取るだけで精一杯なのだ
ただ全くしないと言う訳じゃない、僕が狩り損ねた魔物のとどめを刺したりもする
それを狩ったと言えるかは微妙な所だが・・・
「話はそれだけだ、ミコト、これ以上軍規に違反するなら、給与の事についても考えなければいけない、よく考えて行動することだな」
一応雇われている以上給与が出るが、そんなに高くはない、ただ、魔物の部位を持ち帰れない僕にとっては生命線だ
・・・この人、絶対僕の給与を着服する気だ、僕を部下にしたのもお金を貰ってだという話だ
こっちは命を張っているのに、どうしてこうも報われないのだろう・・・?
しかしその生活は、予想外に早く終わった
魔物の部位は結構な値段で売れるので、給与が低くても兵に不満はそんなにありません
因みに兵は徴兵された訳ではありません、自主的に兵になってます
命の危険に見合う収入や、魔物への恨みがそうさせるのです
ようやくメインになるはずのキャラがでました、スーハ君です
出てくる予定はなかったのですが、このままだと、あまりにミコト君が不憫なのでw