白髪少女と爛漫少女
GREEにて作家志望の友人である日向さんより「小学生が主人公のほっこりする話」を書いてほしいとのリクを受け、書いたもの。
「おい! ババァが来たぞ!」
揶揄するような半笑いの声に、その場にいた数人の小学生たちが蜘蛛の子を散らすように駆け出す。きゃあきゃあとふざけるように叫びながら逃げ出し、その場にいた子供たちは一人を残して全員消え去った。
先程までの喧騒が嘘であるかのように静まった境内で、一人の少女がため息を落とす。日の光を纏いながら煌めく白髪と、色素の薄い碧眼が特徴的な美しい少女である。
ババァと呼ばれた彼女は退屈そうに小石を蹴り、近くの階段に腰を下ろす。ぶすっと頬杖をついた少女は、眼下の階段を楽しげに走る同い年の少年少女らを冷めきった青い瞳で見据える。
「馬鹿みたい」
吐き捨てるように呟くと、少女は先程よりさらに大きなため息をつき顔をしかめる。
「……イーリースーちゃんっ」
不意に、少女の背後で声が上がる。幼いその声音に、少女は僅かに目を見開いて素早く振り返る。
「……お前」
驚きと呆れの混じった声で、イリスと呼ばれた白髪碧眼の少女は背後に立つ少女を見つめる。
「お前じゃないよ、朱音だよ」
無邪気に笑いながら、朱音と名乗った少女はイリスへと軽快な足取りで近寄る。そんな朱音の行動を、イリスは顔を歪めて見上げる。
「お前、私なんかと一緒にいていいの? あいつらに仲間外れにされるよ」
「うーん。そうかな?」
困ったように笑いながら、朱音は躊躇のない動きでイリスの隣に座る。
「私は髪が白いから、ババァってからかわれてるんだよ。私と一緒に居たらお前もおんなじように苛められるに決まってるじゃんか」
イリスは眉を寄せ、険しい顔で朱音を見ずに話しかける。朱音は納得できないといった顔で首を振った。黒髪のツインテールが彼女の耳の横で静かに揺れる。
「違うよ。イリスちゃんの髪は……えっと、はーふ? だから白いんだよね。おばあちゃんなんかじゃないよ」
朱音は、発光しているかのように美しいイリスの髪を見つめる。視線を感じているのか、イリスは僅かに頬を紅潮させた。
「白髪なんて、おばあちゃんじゃん。こんな髪、大嫌い」
「でもあかねは好きだよ」
「えっ?」
イリスは虚を突かれたように戸惑い、真っ直ぐに自分を除き込む朱音へ視線を移動させる。
「だって綺麗だもん。きらきらしてるし、川とか海みたいに光ってて綺麗だよっ」
向日葵を連想させる、明るい朱音の笑顔。イリスは自分の髪を褒められたことに、目を見開く。
イリスは恥ずかしげに目を伏せると、小さく唇を動かす。
「あ、ありがと……」
「どういたしまして」
朱音は微笑んだまま、足元に伸びる階段を見下ろす。そこにはもう、人影はない。
二人きりの境内で、イリスは遠慮げに朱音を見る。
「お前は明日も、また私とお話ししてくれる?」
イリスのか細くも切な願いが込められた言葉に、朱音は笑顔で力強く頷く。
「うん! だって、あかねとイリスちゃんは友達なんだもん」
「……とも、だち」
言い慣れない単語を噛みしめるように、イリスはゆっくりと唇を動かす。
その言葉と共に、イリスは口角を上げ、初めて笑顔を浮かべた。それまでの無愛想な表情からは想像ができないほどその笑みは明るく、陽光を浴びて煌めく白髪に負けず劣らず輝いていた。
「……ありがとう、朱音ちゃん」